ちえちゃんの家2
「お姉ちゃん。わたしもお姉ちゃんの名札を付けてみたい。」
ちえちゃんがわがままを言い始めた。
「ゴメンね、もういいかな。」
「あ、はい…。」
そう言うと、わたしの胸の紺色の名札を加奈子ちゃんは外し、黄色の「いしかわ」と書かれたわたしの名札を胸のところに取りつけた。
「あーあ、元に戻っちゃった。」
元の名札に戻り、残念がるわたしだった。
「じゃあ、うるさいからちえにも付けてあげるよ。」
「やったー♪」
すぐにちえちゃんは、自分の名札を外しはじめた。
そして、加奈子ちゃんはちえちゃんに紺色の名札を胸のところに取りつけた。
「はい、いいよ。」
「わーい♪」
ちえちゃんは、わたし以上に嬉しさをあらわにした。
「この名札で、明日から学校に通いたいな♪」
5年生かつ会長バッジの付いた名札を付けてもらい、相当ご満悦のちえちゃん。
こんなちえちゃん、学校では見たことないや。
「あんたがこの名札を付けて学校に行こうなんてまだ早い!」
「えー。」
加奈子ちゃんはちえちゃんを捕まえ、胸の紺色の名札を取り外した。
「しばらくあんたはこれで十分!」
そう言って、今度は黄色の「おおしま」と書かれたちえちゃんの名札を胸に取りつけた。
「ちぇっ。お姉ちゃんのケチ!!」
「あんたがこの名札を付けたら、わたしは明日からどうすればいいのさ!?」
「いいじゃないの。お姉ちゃんがわたしの名札を付けて、1年生になれば。それで、わたしは5年生ってね♪」
「バカ言ってんじゃないよ!」
「ブーブー。」
そして、加奈子ちゃんは紺色の名札を自分の胸のところに取りつけた。
「この名札を付けたければ、あと4年我慢することね♪ まあ、この会長バッジにまで届くかどうかはわかんないけど。」
「ブーブー。」
いつまでも不満がるちえちゃんであった。
「さて、お姉ちゃんは失礼するね。今から塾へ行かないと。」
「塾に行くだけなのに、学校の名札を付けてくの? 今日はもう学校ないじゃない。」
「いいの! 名札を付けてたほうが勉強に集中できるんだから!」
「ウソだー。」
「うるさい! それじゃ、バイバイ。」
そう言って、加奈子ちゃんは逃げるように部屋から出ていった。
「絶対塾の子や先生に名札を見てもらいたくて、わざわざ付けてくんだと思うよ。」
「そうだろうね。」
「でも、お姉ちゃんの名札を付けたとき、とっても気分がよかったな。」
「普段、学校では見たことないくらい笑顔だったしね。」
「そういうさやかだって、喜んでたじゃない。」
「だって、あんな名札の重みを体験したことないから嬉しかったんだもん。」
「ふーん。」
「じーっ…。」
「な、なに名札を見てるのよ?」
「ちえちゃんの名札でいいから、もう一度あの重みを体験したいな。」
「ったく、しょうがないなあ。」
ちえちゃんちゃんは、自分の名札を外してわたしに手渡した。
「付けてしばらくしたら返してよね。」
「はーい。」
わたしも自分の名札を外し、ちえちゃんからもらった名札を付けてみた。
「うん、この重みがなんとも言えない♪」
「気が済んだ?」
「もう少しだけ。その間、さやかの名札を付けてみたら? 軽いよ。」
「いいよ。別に…。」
と言いながら、ちえちゃんはわたしの名札を手に取り、自分の胸のところに取りつけた。
「うわー、胸が軽く感じるわ。なんか変。」
ちえちゃんは違和感を感じたのか、わたしの名札をすぐに外しはじめた。
「早く返しなさい。」
「わかりました。」
外せと催促が来たので、わたしは胸の名札を外して、ちえちゃんに渡した。
「ちえちゃん、ありがとう。」
そういうと、ちえちゃんはすぐに自分の名札を胸のところに取りつけた。
「やっぱり、こっちが落ち着くわ。」
「ちえちゃんたら。」
「はい、あなたの名札。」
「そうだ、忘れてた。」
ちえちゃんに手渡された自分の名札を、胸のところに取りつけた。
「元の通りに戻ったね。」
「そうね。」
「さて、そろそろ帰ろうかな。もうすぐ16時だし。」
「今日は、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「また遊んであげるから。」
「はいはい、じゃあね。」
こうして、わたしはちえちゃんの家を出た。