天泣tenkyu
蕾が綻び、清廉に咲き始めた裏庭の大木の桜の木にそっと触れる。高一の春、君と出会ってからもう二年が経つ。
俺だって、少しはこの恋を頑張ろうとした。それとなく、何度も、俺が好きなのは君だと伝えようとした。それなのに君は、一向に気づかない。百回は……君に振られた気がする。それでも縋って、あがいて、恋をしてみようと思った。それほど、俺にとって君の存在は大きかったから――
だけど君は今日、去っていく。君の大好きなあいつに思いを伝えて、両想いになって、この学園を卒業していく。
振られても思い続けた君の想いは、ちゃんと元宮先輩に届いて、もう君は片思いに胸を痛めることはなくなった。
渡り廊下の向こうに見える校庭に咲き誇る桜の木の下で、満面の笑みで写真をとる卒業生。それを祝福するように、桜の花びらが華麗に舞い散る。
だけど俺には、それが心の中で流れてる涙に見える――
君の存在は大きくて――眩しすぎて、俺には手の届かない存在だった。
すっと、何かが俺の頬を伝った時。
ザザッー。
さっきまで晴れてたのに雨が降り出し――俺の涙を隠す。
こんな切ない気持ちを胸に抱えて、泣いたのは初めてだった。それくらい、俺は優月が大好きで、心の支えで。
がむしゃらに頑張って恋をして、好きだと伝えるのべきだったのかもしれない。けど、好きだと伝えたら、彼女は俺を遠ざけるだろう。そんなのは耐えられない。振られるのがわかってて、今の関係を壊してまで伝える「好き」に、何の意味があるだろうか。
弱虫と言われても、臆病者と言われても、俺は笑顔で君を見送る。君が大好きなあいつと手をつないで進んでいく未来に幸せが満ち溢れていることを願って――
※
通り雨だったのか、すぐに雲の間から太陽が顔を出し、眩しいくらい輝く。
ふっと顔を上げると、渡り廊下の向こうの校庭にいる優月と元宮先輩の姿が視線に入る。数人の友達に囲まれて、まるで二人の門出を祝福されているようで――
周りの人に何か言って、優月がこっちに駆けてきた。
俺は今、どんな表情をしているだろう。泣きそうに情けない顔をしてないだろうか――
優月は俺のところに来て、なんというのだろうか――
いや……、なんと言われても俺は笑顔で言うと決めたのだ。
笑え!
涙はいずれ、笑顔になるんだ。もうじゅうぶん泣いたのだから、笑うんだ。
笑え!
笑うことができるのは人間だけに与えられた特権なんだから、笑って……最高の笑みで、おめでとう、と優月に言うんだ。
これにて「桜の雨」は完結です!
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しっとり切ない片思いを描いてみました。いかがですか?
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