外待雨homachiame
「奏真に思われる女の子は幸せだね」
「優しい奏真に好きって言われたら、断る女の子なんていないよ」
そう言った君だけど。
もしも俺が好きなのは君だと伝えたら、本当にそう言ってくれる?
満開の桜を睨むように見上げて――
桜なんて、大嫌いだ。
桜がなければ、俺たちは出会うことすらなかったのに――
こんなに切ない気持ちを胸に抱えて、泣くことはなかったのに――
※
あれは、高一の春、入学して間もなくのこと。
教室に居づらくて、抜け出した昼休み。裏庭にひっそりとたたずむ大木の桜の木を見つけて近寄る。大ぶりの枝に咲き誇る桜は散り始め、時折、雨のように花びらが顔にかかる。その木が気に入って根元に寝転がっていた俺の上に――突然、君が降ってきた――
桜の精かと一瞬見間違えた彼女は、薄紅のスコートをはいていた。裏庭の横でテニスをしていて桜の木にひっかかってしまったボールを取るために木の上に登っていたらしい。そして足を滑らせて、俺の上に落ちてきた。
「ありがとう」
俺の上から起き上がった彼女はそう言ってあどけない顔で笑い、テニスコートに駆けていった。
数日後、昼休みの定位置となった裏庭の桜の木の下でいつものように寝ていると、すすり泣く声が聞こえて起き上がる。辺りを見回すと、俺の寝てた木の裏側で女の子が泣いていて、体を回して見ると――それは先日の彼女だった。
俺はあまり人と深く関わりたくなかった。だから見て見ぬふりをしよう、そう思った時、顔を上げた彼女と目があって、気付いたら声をかけていた。
「大丈夫か?」
彼女は瞠目して俺を見つめ、濡れた瞳をまばたいた瞬間、一筋の涙が頬をつたう。
「あなたは、この間の……」
俺は立ち上がり、彼女に一歩二歩近づく。
「木の裏で昼寝してた。一人になりたいなら、俺はもう教室に戻る。そうでないなら、俺のことは気にするな」
そう言うと、彼女は俺のズボンの裾をそっと掴み、俯いた。その仕草に、動揺する俺。でも彼女が何も言わないから、彼女の隣に静かに腰を下ろす。
彼女は片手で膝を抱えて、そこに顔を埋めてまた泣き始めた。しばらくして涙が収まったのか、彼女が顔を上げて微笑んだ。
「えへへ、私、失恋しちゃった……」
そう言った彼女の瞳が儚げで、つい見とれてしまう。俺は今までまともに恋をしたことも、失恋したこともなかったから、なんて言ってあげたらいいのか分からなくて、空を仰ぐ。
彼女はぽつぽつと小さな声で、彼女の恋を話し始めた。俺はそれをただ黙って聞くことしかできなくて、そんな自分が少しもどかしかった。どんなにそいつのことを好きか、どんなに素敵か、振られたと言うのににこにこと瞳を輝かせて話す。
そんな彼女が理解不能だった。
関わらない方がいい――俺の頭に浮かんだのはそれだった。
だけど彼女は、次の日から毎日、この桜の木の下に来るようになった。