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Interlude Ⅰ(Opiata Soul)

このお話はフィクションです。

小説内に登場する企業、団体、人物は全て架空のものです。

現実とは一切関係ありません。

どれだけ苦しんだとしても。

どれだけ辛い思いをしても。

どれだけ悲しみを感じても。

どれだけ血と涙を流しても。

俺は必ず、もう一度[君]と出会う。




1st

Interlude I(Opiata Soul)


2010 12/24 19:49 46

この日、外はもうクリスマス一色だった。

白、赤、青がランダムに光るイルミネーションとデコレートされたクリスマスツリーが街を彩り、四畳半の狭い部屋にも、イルミネーションの光がカーテンの隙間から入って色付けされる。

本当はイエス・キリストの聖誕祭のはずが、今ではカップルがいちゃつくイベント行事に成り下がっている事に一ノ宮一流(いちのみやいちる)は少しの苛立ちを感じた。

それが羨望なのが分かっていてなお、理不尽な苛立ちが募る。

「俺だってなぁ……そりゃ浮かれたいよ。好きな女子とあんなことやこんなことしてぇよ……。なのになんで今俺は……ちくしょう!!」

ダンッ!!と木製の勉強机を両手で叩く。

そこには山になった宿題という名の提出書類。

それを一流は冬季連休中に片付けなければならなかった。

発端は一本の電話からだった。

電話の主は学校の担任教師である橋倉晶子(はしくらしょうこ)

「5分で来い。さもなくば殴る」

命令系文章に体罰宣言された日には、一流もしぶしぶ従うしかなかった。

呼び出された場所は学校の職員室。

晶子は入口から直ぐのデスクに座り、長い黒髪をヘアゴムでポニーテールにしていた。

「こっちに来い」

わざわざすまんとか、労いの言葉を言わないのは、もうじき一年がたつ間柄からか気にはならなかった。

黒のパンツスタイルのレディーススーツに青のシャツを着ていた。ぴっちりとした細身のスーツなので、胸が自己主張しまくっている。

顔は日本人顔といえば良いのか、全体的に目も口も細い。しかしアップにした黒髪から見えるうなじはなぞりたくなる。

一流はスクエア型でフレームレスの眼鏡が、いかにも女教師を強調させるなぁと思った。

ちなみに一流は、初対面で目がいつも不機嫌そうに吊り上がっていたのを見て、絶対元ヤンだと恐怖していた。

で、そんな晶子に一流は「あんた、このままだと進級出来ない」と宣告された。

「HAHAHA!!笑えないよショウちゃん」

「いや、冗談じゃなくてマジで」

「……マジ?」

「あたしの人生で、こんなにも成績悪いの見たことが無い」

「……なんとかなりませんかね?」

「とりあえず、コレ持ってけ」

と、渡されたのは段ボール一箱。

開けてみれば、晶子特製の全教科対策プリントの束、束、束。

それが箱一杯に敷き詰められていた。

「それ、連休中に終わらせろ。さもなくば留年」

「ちょ!!この量は無理だって!!」

「じゃあ、やらなくてもいいぞ」

「え?嘘!?いいの?」

目の前の晶子は細い唇を上げニタッと笑う。

「一生あたしの下僕になることを誓えばな」

「全力で頑張らせていただきます」

「チッ、つまらん」

晶子は本気で悔しがると、自分のデスクに向き直り、右手をシッシッと虫や犬を追い払うように動かす。

それが四時間前の事で、今に到る。

四時間かけて終わった枚数は三枚ほど。

それも雑学(いわばサービス問題)のみ。

街中が浮かれているなか、一流は自分の頭の悪さに呆れていた。

「はぁ……もう今日は辞めるか」

何度この言葉を言っただろうか。

だが、今やらなければ留年が待っている。

なぜならば、調子こいて連休中は予定を詰めまくっていたのだ。

出来る事ならば、親友の加瀬春也かせはるやと幼なじみの江留別紀沙えるべきさに用事があって突発的に予定の無い今日中に。

「ちくしょー……ん?なんだこれ?」

叩いた手の下にチラシがあった。

どうやら、今日の夜8時半に海外アーティストが路上ライブをするらしい。

音楽を聴かない一流としては、全く見たことも聞いたことも無いアーティストだったが。

「はぁ〜……ちょっと気晴らしに散歩でもするかぁ」

この苛立ちを解消するには、いい機会かもしれない。

一流は椅子から立ち上がり、携帯電話と財布を持って玄関に向かう。

服装は……悩んだが、結局徹夜になるし、知り合いにも会わないので、着ていた黒い上下セットのスエットに、ミリタリージャケットを羽織った。

というよりは、着替えるのが面倒なだけなのだが。

「ふぁうぁ……」

やる気の無い欠伸を出しながら外に出る。

吐き出した息は、白く染まりながら空間に溶けていった。

眩しいくらいにイルミネーションが輝いて、一流は思わず目を細めた。

繁華街の直ぐ横に位置する一流のアパートから、街を行き交う人々がいた。

見渡す限りのカップル、アベック。手を繋いでいたり、腕をを組んでいたり、キスしていたり……。

イチャイチャとした擬音が聞こえてきそうなほどの密着ぶりを見せつけてくる。

公衆の面前だぞコノヤローと毒づく一流だが、ひがみ以外の何物でもないのが分かって虚しさだけを溜め込む結果になっていた。

カンカンと高い金属音を鳴らしながら、築何年かの階段を降りる一流。

降りるごとに、繁華街から露店の美味しそうな匂いがするが、一流は憂鬱な気分が晴れなかった。

「あ〜……彼女欲しいなぁ……できれば可愛い子って言ってて出来れば苦労しねぇよコンニャロー!!」

「ねぇあの人ヤバくない?」(ヒソヒソ)

思ったよりも大声だったようで、周りを行き交うカップル共が白い目で一流を見ていた。

「きっとお前の可愛さにおかしくなったのさ」(ヒソヒソ)

「もうっ……ケンちゃんたら」(テレテレ)

「さっ今日は寝かせないぞ」(イチャイチャ)

ぶっ殺してぇ……。

いいよね?

この場合、正当防衛適用だよね?

だって俺の心は著しく傷ついたよ?

マジ泣くよ?泣きわめくよ?

とかまくし立てる一流。

「ちくしょう……」

一ノ宮一流は、さらに不機嫌だった。

地面を見ながらトボトボと歩いている。

自分が悪かった事は分かっているのだが、簡単には割り切れない。

身体は大人だが、精神はまだ大人ではなかった。こんなとき身体は子供、頭脳も子供ならどんなに楽か。

「……はぁ」

切ない、悲しい。

そんなに彼女がいないことは罪なのだろうか。

ならばこれは罰なのか。

俺だって……俺だってなぁ……!!と頭の中に渦巻く。

前を向く。

このまま下を向いていたら涙が出そうだからだ。

そして一流は見てしまった。

一組のカップルが、手を繋ぎながら一緒に歩いている現場を。

オールバックにセットされた金髪の髪。

両耳には髑髏の目にガーネットが入ったピアス。

切れ長の目と薄く細い眉。

黒のシングルライダースジャケットを羽織り、同じく黒い皮のパンツを真っ黒いエンジニアブーツにいれて歩く姿は鋭利なナイフを思わせる。

あれは間違いなく、一流の幼なじみであり、親友でもある加瀬春也だ。

手を繋いで横を歩くのは江留別紀沙。

ブラウンの地毛を腰まで垂らし、丸い瞳は少し朱みがかっている。

紀沙はドイツ人とのクォーターだった。

白いノルディック柄のポンチョを被り、下はインディコブルーのスキニーをベージュのムートンブーツにいれていた。

春也の身長は180センチあるので、横にいる紀沙とは20センチほどの差があった。

余談だが、一流は170前後なので、三人並ぶと携帯電話のアンテナになる。

傍から見れば兄弟のように見えなくもないが、仏頂面だが微かに頬が紅い春也の顔と、幸せそうにはにかんでいる紀沙の顔を見れば、恋人同士なのだとわかった。

いつも三人で行動していた時には、絶対に浮かべない顔だ。

一流は二人に気づかれないように、ダッシュでその場から逃げ出した。

知らなかった。

頭の中を、その言葉だけが回っていた。

二人の姿がフラッシュバックする。

そこに一流はいない。

始めからいなかったかのように。

その事実を、一流は直ぐに受け止められないでいた。

「はぁ……はぁ……っ!!」

荒い息が口から漏れる。

吐き出した白く濁る酸素は、大気に巻き込まれ色を無くす。

このまま胸の中に渦巻く濁った感情も、吐き出されて大気に消えればいいのに。

目の前が歪む。

それが涙だと、一流は認めたくなかった。

だから走る。逃げる。

それは二人からか、現実からか。

トンッ、と軽い音と衝撃が肩先からした。

道を歩いていた人にぶつかってしまったようだ。

一流は慌てて振り向いて確認する。

身長からして、どうやら子供のようだ。

アニメで見たような黒いフリルのゴスロリ服を着て地面に倒れていた。

一流は駆け寄ろうとして、ようやく気づいた。

自分がスクランブル交差点のど真ん中にいるということに。

そして、突如として目の前が光に覆われ何も見えなくなった。

ドンッッ!!

重い轟音と鈍い衝撃が一流を襲い、数メートル空中を舞いながら、アスファルトの地面にたたき付けられる一流の身体。

一流は自分の身体を見ようとしたが、首がうごかない。

それどころか、本来見えないはずの背中が目に映る。

白い固まりが背中の肉からはみ出て、透明な液体と赤い液体が混ざりながらアスファルトの溝を伝って広がっていく。

あのぶよぶよとした固形物は何なのだろうか。

急に、意識が薄れていく。

どこかでギターを掻き鳴らす音と人々の歓声が聞こえる。

(始まっちゃったかぁ)

皆ライブを聞きに行っているのだろうか。

晶子も、春也と紀沙も。

その中に、きっと一流はいない。

はっきりとした孤独感を感じながら、一流は瞼を閉じた。


改訂版です。

色々変わってごめんなさい。

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