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蝶々姫シリーズ

【ラゼリード誕2026】ハルモニアvsヨルデン~女王の歓心は俺(僕)の物~【蝶々姫シリーズ】

作者: 薄氷恋
掲載日:2026/06/20

たいへーん!ちこくちこくー!

お昼だからセーフ!

蝶々姫シリーズ主人公、ラゼリードの誕生日祝いSS2026です。

6月も半ばに近付いたある日。

ハルモニアは、カテュリア国の王城イヴァナンの侍従長室に居た。


ラゼリードの誕生日はこの月の20日。


贈り物を贈り尽くしてネタ切れになっていたハルモニアはヨルデンにラゼリードの好物を聞きに来ていた。

しかし、ヨルデンの口は堅い。


「そこをなんとか」

なんとハルモニアはたかだか女王の侍従長でしかないヨルデンに頭を下げていた。


「ダメです」

ぴしゃりと言い切るヨルデン。だがハルモニアは挫けない。


「少しくらいヒントをくれてもいいだろう?」

頭を少し上げてチラリとヨルデンを見るハルモニア。


「お断りします」

またもやバッサリ。


「頼む」

「そんなに僕に優越感を与えたいんですか?」

ニヤニヤするヨルデンはこの時、既に初老に差し掛かっているが、不思議と若さを感じさせる。整えた口髭とふわふわの髪はまだ茶色く、皺も白髪もあまり無い。

正直、化け物並みの若さである。


「むう……そこまで言うならどちらがラゼリードの誕生日に彼女を喜ばせられるか勝負を申し込む!」


ハルモニアはこうなる事を予測していたのか、この暑い中、手袋を嵌めていた。

手袋の中指を唇でくわえて外し、バッとヨルデンの顔に投げ付けた。

ぺちっと、間抜けな音がしてヨルデンの顔面に手袋が当たる。


その手袋が落ちた時には……鬼が居た。

ヨルデン、まさに鬼の形相である。


肝が坐っていない者なら恐ろしさで直視出来ないか、見ただけで気絶するだろう。


更にヨルデンが手に持った杖がギリギリギリギリ……と音を立てている。


「ヨルデン、その杖は仕込み杖だろう? 友好国の王族に向けていいものかよく考えろ」

ハルモニアは肝が坐りすぎているので、ニヤッと笑いながら言ってのけた。


「解りました。……その勝負、受けましょう。でも貴方が負けたら1年間カテュリアに出入り禁止ということで」

ヨルデンははぁ、と溜息を()くと表情を取り繕った。


「分かった。約束しよう」

「ふっ……くくく……」


ハルモニアが約束を結んだ時、ヨルデンの口から笑い声が上がった。


「貴方は本当に馬鹿ですね! 教えて差し上げますよ、ラゼリード様の好物を! それは……僕のお手製プリンです! 作り方は教えませんからね! あーははははははっ!!!」


ヨルデンは額に青筋を浮かべながらハルモニアに対して威張り散らした。

この2人、もう既に喧嘩友達である。

ここまで激しいのは初めてだが。


「成程。ラゼリードの決闘日(たんじょうび)が楽しみだ。邪魔したな」

ハルモニアは唇に笑みを浮かべると、『火の道』でルクラァンへ帰って行った。


ヨルデンは仕込み杖を肩に担ぐと一言漏らした。

「憂さ晴らしに騎士団を稽古付け(シバいて)てくるか」


◆◆◆


さて、ルクラァンへ戻ったハルモニアはまず真っ先に叔母のランジェランジュの元へ向かった。

「叔母上。頼んでいたものは出来そうですか?」

「あらハルモニア。なかなか面白い配合を見付けたから今試しているわよぉ」

ランジェランジュは手を止めずに答えた。

「ありがとうございます。他に要る物があったら教えてください」

「いまんとこなーい」

軽いノリである。

ハルモニアは叔母のアトリエを後にした。


次にハルモニアが向かったのは、アド市中央区街のエカミナの果物店だ。

「エカミナ、寝かせてあったアレは出来ているか?」

「あらァ、若様。アレの仕上がりはそろそろですねェ。ちょっと味見します?」

「頂こう」

エカミナが店の奥に彼を招き入れる。

そこにあったのは横倒しの樽が2つ。

捻り栓が付いた酒樽だった。


エカミナが捻り栓を少し開けると、途端にぶわりと甘い香りが広がり、彼女の手の中のグラスに落ちてきた。

渡されたその液体をハルモニアはまずはそっと舐め、口の中で慎重に吟味した。


「うん。これならいけるな。時間を掛けた甲斐があった」

「若様ァ、本当にあの配合でいくんですか?」

「試してみないとな。だが勝算が無いとは誰にも分からないだろう? あ、1人例外が居たな……。エカミナ、この樽を1つ借りるぞ」

「はぁーい、お気をつけてお帰りくださいね~」


ハルモニアは樽を担いだまま『火の道』に入って、一瞬でルクラァン王宮の中枢に出た。もしもこの瞬間移動魔法が無ければ、ハルモニアは肩を痛めていたかもしれない。それくらい重い樽だった。


「時編む姫。延時。いらっしゃいますか」

「ええ、居てよ。お入りなさい」

片手で扉を開けるとひょいと手がのびてきて延時が樽を引き取ってくれた。


「これが上質の茘枝(ライチ)酒だね」

テーブルの上に樽を置きながら延時は中身を味見もせずに当ててみせた。


「はい、そうです。これとエカミナの店の果物でとびっきりのケーキを作っていただきたいのです。お礼はその樽の残りと、もうひと樽、茘枝酒をご用意します」


ハルモニアはなりふり構わずヨルデンに勝負を挑んだのではなかった。

ちゃんと最高の菓子職人である延時に予めケーキ作成の依頼を打診してあったのだ。

それもアレクとエカミナの店で茘枝酒まで作らせて。


全てはラゼリードの為だけに。


「ケーキ……もいいけど、タルトにしようか。茘枝酒をほんのり利かせて上にエカミナの店のルクラァン産生ライチを乗せて……クリームは何にしようか。薔薇を混ぜてもいいし今の時期なら普通に生クリームでも美味しいだろうし……」

延時は既に菓子制作構想に入っていて聞いていなかった。


故に時編む姫が捻り栓を勝手に開けて樽の中身を()()()()()()()()()()しているのも止められない。

「時編む姫、そのまま飲み続けますと対価が少なくなるのですが」

ハルモニアが流石に額に汗を浮かべたが、それで止まる時編む姫ではない。


「良い出来の酒よ。きっとラゼリード女王も喜ぶわ」

茘枝酒の香りをぷんぷんさせながら時編む姫は笑った。

いつも表情の変化の少ない時編む姫にしては珍しく、そしてどこかラゼリードの微笑みを思い出す顔だった。


◆◆◆


そして、ラゼリードの誕生日当日になった。

ハルモニアはプレゼント一式を手に『火の道』の出口から出た。

それはラゼリードの部屋の火の無い暖炉。


そこで彼の愛しのラゼリードはテーブルにつき、ヨルデンの用意したプリンと果物の盛り合わせを前にしてまさに今、プリンを口に運ぼうとしていた所だった。

ヨルデンがチッと舌打ちする。


ハルモニアがケーキ箱といつも通り手にしたなんでも出てくるマジックバッグを手にして立ち上がり、そして口を開いた。

「酷いな、ヨルデン。俺との決闘を忘れてたのか?」

「決闘? なんの事かしら、 ヨルデン?」

プリンを掬った銀のスプーンを皿に置いてラゼリードは傍らに立つヨルデンに顔を向けた。


「あ、いや、その……ソレ(ハルモニア)と、どちらが陛下を喜ばせられるかの賭けをしていまして」

ヨルデンはしどろもどろになった。

「決闘とハルモニアは言ったけど? それから他国の王族をソレだのアレだの言うのはやめなさい」

ラゼリードが窘めるとヨルデンは怒られた犬のように見えた。人間なのに、何故か犬耳と尻尾が見える気すらする。


「それで? ハルモニアはどんなプレゼントをくれるのかしら?」

「ああ、まずはこれだ」

ハルモニアがケーキ箱から甘味を出すとラゼリードが目を丸くした。


それは大粒の真珠の様な茘枝(ライチ)と白いクリームが縁を飾り、見るも鮮やかな赤い食用薔薇の花びら1枚と銀の砂糖粒(アラザン)が飾られたタルトだった。


「この果物はなぁに?」

いつも通りの癖で首を傾げたラゼリードには、もはやヨルデン作のプリンアラモードなど見えていない。ハルモニアとタルトに目が釘付けである。

その証拠にヨルデンのプリンアラモードをそっと広いテーブルの端に『退けた』のでヨルデンは女王の傍に立ったまま白目を剥いた。


「これは茘枝(ライチ)という。本来は殻に包まれた種が大きい果物だが、それらは取り除いてある。甘い香りと甘い果汁がたまらない、ルクラァン他、スルエラ大陸で採れる果実だ。美味いぞ」

ラゼリードはハルモニアの説明を聞くだけでゴクリと喉を鳴らした。

「た、食べていい?」

「その前に食前酒をどうだ? 我が叔母ランジェランジュ直伝の『カクテル』で」


ハルモニアはマジックバッグからカクテルグラスと青い液体の小瓶と、透明な液体の瓶、それからシェイカーや果ては氷の入った金属缶などのアイテムを取り出すと、ラゼリードの目の前で実に手際良くカクテルを作った。

広がる甘い香り。

青い色をしたライチのカクテルだ。


「口に合うといいんだが」

「モニ……ありがとう。いただきます」


ラゼリードは明らかにハルモニアに見蕩れていた。

酒もまだ口にしていないのに頬が熱い。

それに気づいたラゼリード本人は慌ててカクテルに手を伸ばす。


「甘い……。貴方の国の果実のカクテル?これもライチ?かしら?」

「そうだ」

「タルトもいただいていいかしら」

「もちろん」

ハルモニアがまたもやマジックバッグからケーキナイフやら皿やら一式取り出してラゼリードにサーブした。


「…んんっ!…なにこの果実!? 美味しい!」

ぷるりとした果肉を齧ると頭が焼けそうな程、甘い果汁が口いっぱいに広がった。

タルト生地はさも焼きたての様にサクサクとしていて、中のムースはライチの果肉を角切りにしたものと、茘枝酒の味がした。

こちらはひんやりと冷たい。


「あの……ラゼリード様? 今日はラゼリード様の為に特別に豪華なプリンにしたのですが」

ヨルデンが辛酸を舐めた様な顔でラゼリードに意見した。


しかし当のラゼリードは既に茘枝酒に酔っ払っていて。とろんとした目をヨルデンに向けて言い放った。

「ああ、それならいつも食べてるから今日はいいわ。モニにあげる!」

「……仰せのままに」


ヨルデンの悔しそうな顔がハルモニアの目に焼き付いた。

すごすごとワゴンを下げるヨルデンの背を見送った2人は、クスッと笑い合い。


少しだけ熱いキスを交わした。


ハルモニアがヨルデン作のプリンアラモードを食べてその美味さに突っ伏すまであと少し。


ーendー

HAPPY BIRTHDAY ラゼリード!!


作中のカクテルは日本で言うところの「チャイナブルー」です。アルコール度数6~8%。

カクテル言葉は「自分自身を宝物に思える自信」「あなたを想っている」です。

※お酒は20歳になってから。(精霊は成人してから)


ラゼリードがこの程度のカクテルで酔っ払ったのは、タルトもライチリキュールたっぷりだからであり、ラゼリードが酒に弱すぎるわけではないです。そう強すぎでもないけど。

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