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検死

「レオさん!! これは何ですか、一体!???」


「ん? 森をちょっと燃やしちまったから、治しておいてくれってその報告書に書いてないか?」


悪びれもせず、まるで庭の草むしりでも頼むかのような軽い物言いに、ティアラの脳内でブチブチと何かが切れる音がした。


――その日の朝、団長室に届けられた依頼書を一通り検分していたティアラは、一風変わった書面を見つけて絶叫した。


内容は「焼け野原となった森の広域修復」。そして依頼者の欄には、堂々と『レオ・ブライト』の名が記されていた。


だが、これは同時にレオの動向と手の内を探る絶好のチャンスでもある。ティアラは怒りを燃料に変え、猛然と魔術団本部へと怒鳴り込みに行った。


結果――「お前ならこれくらい出来るだろ」と言わんばかりの、いつもの涼しい顔で軽くあしらわれ、ティアラの血圧はさらに跳ね上がった。彼女は深く深呼吸を繰り返し、無理やり理性を引き戻す。


「報告書は魔術団の方にも回していますよね!? 私は昨日、ヴァンパイアのスパイ排除で魔力を枯渇させてるんですけど!?」


「あ、そうなのか? 悪いな、読んでない」


あまりの態度に、もはや隠すことすら不可能なほどの憤怒をティアラが放つ。流石に空気の危険度を察したのか、レオは「まあ落ち着けって」と、手元にあったお茶菓子を差し出してきた。


「急ぎの依頼ってわけじゃないからさ、少しずつでいいから頼む」


ティアラはそのお茶菓子を引ったくるように鷲掴みにすると、ボリボリと、およそ淑女が出すとは思えない下品な音を立てて咀嚼し、団長室の椅子にどっと腰を下ろした。


「……で、昨日は何があったんですか?」


咀嚼の音で怒りを紛らわせながら、ティアラは探りを入れる。


「若い奴らがスライドを追い詰めていてな。なんでも凄腕の草魔術師が潜伏していて、随分と苦戦させられたらしい」


「その草魔術師と交戦した結果、森を焼き払ったわけですか……。その人、私より強かったですか?」


初耳であるという至極自然な反応を装い、ティアラは自身と同じ「草属性」の指標を測る体で問いかけた。


「さあな。俺はそもそも、そいつが本当に存在していたのかすら知らん」


ティアラはポカンと口を開け、数秒の静寂の後、無言でレオの顔面に右ストレートを繰り出した。無論、その拳はレオの片手によって容易く止められたが。


「せめて最小限の被害で収める努力をしてください、本当に。後始末をする身にもなってくださいよ」


「悪い悪い」


口先だけで全く反省していないレオの顔を見て、ティアラがもう片方の拳を握り込んだその時、部屋の扉が鋭くノックされた。


「入っていいぞ」


レオが許可を出すと、青ざめた顔の伝令係が飛び込んできた。


殴りかかっているティアラと、それを片手で受け止めているレオという異様な絵面に一瞬ギョッとした伝令係だったが、一拍置いて緊迫した報告を告げた。


「捕縛していたスライドの構成員二名が、先ほど牢内で死亡しているのが確認されました。 死因は衰弱死とのことですが……なぜ急に死んだのか、我々には皆目見当もつきません。」


報告の内容に、室内の温度が一気に氷点下まで下がった。


「分かった。俺とティアラ、両者で検死に立ち会おう」


レオの一声で、ティアラも瞬時にふざけた空気を消し去り、真面目な顔で地下の牢獄へと歩を進めた。


薄暗い牢内。ティアラは死体の皮膚や粘膜、硬直の度合いをベタベタと触って確認し、すぐに結論を下した。


「……毒殺です」


「その結果に間違いは?」


「私はこれ以外にあり得ないと思っています」


「信じよう」


短いやり取りの後、レオはティアラの目をじっと見据え、ある情報を開示した。


「実は昨夜、とあるものがロート内部から盗み出された。こいつらが口封じで殺されたと考える場合なら……その草魔術師は、まだ生きてるかもな」


「とあるもの、って何ですか?」


「トロールだ。――俺の言いたいこと、分かるよな?」


レオの昏く鋭い眼光が、まっすぐにティアラの視線を射抜いた。


ティアラの心臓が激しく跳ねる。

視線を逸らしそうになるのを必死にグッと堪え、彼女は「何が言いたいのかさっぱり分からない」という怪訝な表情を作り、レオを見つめ返した。


「もっと分かりやすく言おうか。状況証拠的に、こいつらは俺が発見した時に身体から生えていた薔薇から遠隔で毒を流し込まれた可能性が高い。そして賊は、やけにロートの内部事情に詳しい。器用で、身内に入り込めて、おまけに腕の立つ草魔術の使い手……。ふと、頭をよぎってな」


静かな圧迫感がティアラを襲う。


(過剰に反応しちゃダメ……。茶化すのもこの場面では不自然。なら――)


ティアラはあからさまに不快そうな顔を作り、盛大な舌打ちを一つ浴びせてレオを睨みつけた。


「――私、昨日死ぬ気で働いたんですけど!?」


その傲慢とも言える強気な態度が、逆にレオの懸念を霧散させたのか、「二度もすまなかったな」と、彼は小さく苦笑して軽い謝罪を口にした。


内心の爆発しそうな安堵をミリ単位すら表に出さず、ティアラは早歩きでその場を後にした。


「……内部にスパイがいる可能性は、話を聞く限り私も高いと感じました。後で私の方でも探っておきます!」


決して振り向かず、怒気を孕んだ声を残して廊下を突き進む。


そして角を曲がり、完全に誰の視線もなくなった瞬間、ティアラの顔に、完璧なミスリードを成し遂げたことへの満面の笑みが浮かんだ。

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