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準備

ティアラが出した結論は、現在国が泳がせている『スライド』の前哨基地を襲撃し、予備のローブを強奪することだった。


何度か自身で偵察に訪れているため、地図上でも肌感覚でも場所は完全に把握している。


問題は迷いやすい夜の森だが、幸いにもハンスが広範囲に火を撒いてくれた。燃えやすい木を生成して松明代わりにすれば、道に迷うことはないだろう。


(やる事が多いし、被害もたくさん出ちゃうな。あーあ、後の私の仕事がどんどん増えていく……)


失敗への危惧を思考から排除しているのか、あるいは単に麻痺しているのか。ティアラは新たなローブを手に入れるべく、夜の闇を突き進んだ。




「おい、なんだよこれ……」


ハンスの後を追って川沿いを進んできたガイヤとウルグは、夜の静寂にはあまりに不釣り合いな明かりを見つけ、身を固くした。


そこで二人が目にしたのは、激しく燃える木々と、その中央で力なく倒れ伏すハンスの姿だった。


「……ぱっと見、敵はいない」


ウルグの鋭い声掛けを合図に、ガイヤがハンスの元へ駆け寄る。


「息はある! すぐに治癒術師のところへ連れて行けば助かるはずだ」


ガイヤの報告を聞き、ウルグは即座に決断を下した。

「一旦帰るぞ。敵はおそらく強力な炎魔術師だ。ハンスを倒すほどの相手に、俺たちだけで勝てるとは思えん。」


「おっけ」


その言葉を最後に、会話は途絶えた。


ガイヤがハンスを背負い、ウルグが周囲を警戒しながらその一歩先を行く。二人は最短距離で、ロートへと引き返した。




「なあ、向こうから来るの誰だ?」


スライドの前哨基地を監視していた兵士が、隣で爆睡していた同僚を揺り起こした。


「んあ……? 知らねえよ、あいつらの仲間か何かじゃねえのか?」


起こされた兵士は酷く眠そうに、確認もせず再び瞼を閉じようとした。


「あいつらが動き出したら、俺ら二人じゃ勝てねえぞ! いいから、仮眠してる剣術団の人を起こしてこいよ!」


焦る兵士の様子に、同僚は面倒くさそうに顔を上げ、接近してくる人影を凝視した。


「……あれ、ティアラ様じゃねえか?」


手を振りながら歩み寄ってくるティアラの姿に、兵士たちは安堵の息を漏らした。


「出迎えに行くぞ。何か緊急の伝令かもしれない」


「えー、だるいなあ」


文句を言いながらも、二人の兵士は見張り台を降りて整列した。


「お疲れ……様です……」


だが、目前に現れたティアラの姿に、兵士たちは困惑し、視線のやり場に窮した。


大事な部分こそ辛うじて隠れているものの、彼女は焼け焦げてボロボロになった服を纏い、白い素肌を大胆に晒した扇情的な姿をしていたからだ。


「わざわざお出迎えありがとう。スライドの方の様子はどうかな?」


ニコッと愛らしく微笑み、ティアラは前哨基地の動向を尋ねる。


「え、ええと……普段通り見張りの一人と睨み合っているくらいで、特に異常はありません……」


その格好を指摘していいものか分からず、視線を泳がせながら兵士が答えた。


「そう。教えてくれてありがとう、助かるよ!」


満面の笑みで礼を言った刹那、ティアラは抜剣し、兵士二人の首を音もなく跳ね飛ばした。


「……ごめんね」


ポツリと呟くと、彼女は見張り台下の仮眠室へ迷いなく侵入した。仮眠をとっている剣術団の2人を確認すると、ゆっくりと苦しむ事なく死に至らしめる毒を作ってから2人の首筋に噛みついた。


血相の良かった2人の顔色が悪くなっていくのを見つめてからスライドの方に意識を向ける。


松明の明かりを見せた以上、スライド側もこちらに気づいているはずだ。ティアラは敵が完全に覚醒する前に、基地への襲撃を開始した。


「……何人かはもう起きてるのかな」


彼女を視認した構成員から水球が放たれるが、即座に生成した木の盾で霧散させる。そのまま、視界に入る敵すべてを太い蔓で拘束した。


「炎魔術師がいないって、本当に楽でいいね」


愚痴を聞いてくれる相手が欲しかったのか、ティアラは軽く本心をこぼした。その後彼女は身動きの取れない敵の命を、一振りごとに摘み取っていった。


基地内部には、他の仲間を起こそうとしている者が一人と、まだ眠っている者が五人。


起こし役の構成員は、凄惨な光景に震え上がり、両手を挙げて投降の意志を示した。だが、ティアラはお構いなしにその喉を突き刺した。


残る者たちも、剣を振り下ろして永眠させていく。


魔力を温存できたことに満足し、ティアラは予備の黒ローブを深く羽織った。


夜が始まってからかなりの時間が経過したが、夜明けまではまだ遠い。


(レオさんにだけは遭遇しませんように……)


普段は信じてもいない神に祈りを捧げ、彼女はトロールを回収すべく、再び闇の中へと消えていった。

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