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再生案

 日本皇国首都東京、統一戦争後、ここは様変わりしていたといえる。政府の中枢とはいえたが、商業の中枢ではなかった。商業の中枢は大阪に移っていたといえるだろう。これにはれっきとした理由があった。統一戦争以後の世界情勢が安定しておらず、各地で戦争や紛争が発生していることが確認され、一極集中では国としての機能が停止する恐れがあったからである。この時点の世界情勢を一言でいえば、史実の第二次世界大戦直前という状況であったのである。


 神奈川県横須賀市、ここにかっての在日米軍敷地を利用した日本皇国海軍のすべての設備が集約されていた。海軍本部があるのは新築されたばかりの一〇階建てのビルであった。その最上階のフロアにある本部長室、そこに大井保海軍大尉がいた。本部長室には部屋の主である田代信吾海軍大将、幕僚長(後に参謀長と改められる)、がソファーに座り、その向かいに大井が座っていた。


「大尉、任務ごくろう。状況は改善されつつあるという報告を受けている。今日来てもらったのは直接、話を聞きたいと思ったからだ。忌憚のない意見を聞かせてほしい」田代が緊張気味の大井にいう。

「はっ」

「将兵の状況はどうかね?本土に戻りたいというものはおらんかね?彼らにとっての故郷はこの日本だからね」

「はあ、結論から言いますと、多くの将兵は戻りたがらない、ということになります。彼らにとっては、自分たちのいた時代とあまりにもかけ離れた状況であるからです。その点、中津島は開発が進んでいない分、彼らの時代に似ているといえるからです」


 中津島の将兵は社会教育の一環として一度東京に出てきており、さらに、映像によって現在の日本の状況を知らされている。結果として、彼らの多くは強いショックを受けていたといわれる。多くの将兵は中津島、というよりも同じ境遇の兵士たちがいる中津島を離れたがらないのである。現在では落ち着いており、教育期間中ということもあって、騒ぎは大きくはなっていない。


「そうか。かわいそうだとは思うが、我々にはどうすることもできない」

「それで、改めて聞くが、彼らの希望を聞きたい。あがってくる報告では平行線だというのだがね」と幕僚長を務める宮田一郎海軍中将が聞く。

「山本長官の言葉ですと、我々同時代人はお互いのためにも同じ地域で継続して海軍軍人たるを全うすべきだろう、むろん、本人の意思を優先するのは変わらない、ということです」

「やはり、そうか」

「長官は将兵のことを考えた上でそういっているのだと思います。彼には出現した一〇万人に及ぶ将兵のすべてがかかっていますから」

「とはいってもな、予算のこともあるし、簡単ではない」と宮田幕僚長。

「とりあえず、後一年は教育などもあって、陸上での生活になりますので問題はないとは思います。問題はその先です」

「ふむ、その間に気持ちが変わることを期待するしかないか」

「本部長、そうはいってもあっという間に過ぎてしまいますよ」

「幕僚長、そうはいうがな、政府の意向を無視するわけにもいかんだろう」

「本部長、幕僚長、私は対米、対独、対ソのいずれかで戦争が起きるのではないかと心配しています。欧州ではドイツに不穏な動きがあるといいますし、ウラジオストック近海や満ソ国境ではソ連軍が不穏な動きをしているともいいます。米合衆国と米連合の間では小競り合いが多発している、との情報もあります。国土防衛のためにも、近いうちに軍備を整えないとならないかもしれません」


 そう、日本皇国は統一戦争後、東南アジアで英国やオランダ、フランスと接触、南太平洋ソロモン諸島ではドイツと接触、ハワイでは米合衆国と接触しており、各国ことの外交チャンネルを開くことに成功していた。スイスなどにも大使館が設置されていたのである。そうして、欧州の状況や北アメリカの状況がわかるようになっていた。しかし、欧州中原ではドイツが軍備拡張に走っているとの情報が入手されていた。米国においても、史実とは異なり、二つのアメリカが存在しているのが確認されており、皇国は双方に外交チャンネルを開くことに成功していた。


「大尉!、どこからその情報を知った?まだ極秘扱いのはずだ!」宮田幕僚長が半ば叫ぶようにいった。

「いいえ、どこからも聞いておりません。公表されている情報からの推測です。一つだけ、第一潜水戦隊と樺太の第二一師団に仲のよかった同期がいますので、小耳に挟んだ情報を統括して出した結論です。まだ誰にも話しておりませんが」

「公表されている情報でそこまで判るか。なぜ君のような男が閑職である戦史研究室などにいたのかね?今の任務も予想以上にうまくこなしている」

「本部長、私は海と船、戦史が好きなだけです。それに、中津島でも同じように考えている人間が三人いましたよ」

「三人?だれだね?」

「山本長官と山口少将、源田中佐です。私と同じ考え方をする人が他にもいるのか、と驚きました」

「山本長官はともかくとして、山口多聞少将って第二航空戦隊の司令官だろう?それに第一機動艦隊司令部の航空参謀の源田実中佐か?」

「そうです」そう聞いて二人は顔を見合わせた。


 山本五十六大将は当時の大日本帝国の現状を理解し、アメリカの現状を理解して対米戦には反対していた。山口多聞少将は米国においては山本大将の後継者とみなされており、ミッドウェー海戦で山口少将が戦死したことを知った米国海軍はこれで勝てる、と確信を持ったといわれている。源田実中佐は戦略はともかくとして状況判断に優れていたとされ、戦後には国会議員になっている。


「それと、艦艇についての提案をお持ちしましたので、目を通していただければと思います」大井が持参した鞄から書類を出しながらいう。

「見せてもらおう」二人はそういって書類にさっと目を通し始めた。

「少し説明してもらおうか」一〇分ほどして田代がいった。

「はっ」

「この「扶桑」型と「伊勢」型戦艦の強襲揚陸艦への改装というのは?」

「旧式で速度が遅く、現状では利用方法がありませんし、戦艦として改装するにも費用がかかりすぎます。「おおすみ」型輸送艦と同様の改装を行えば、水線装甲の強度からも最適ではないかと考えました」

「空母として残すのは『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』『隼鷹』だけか?」

「ジェット機の運用が可能な艦はそれだけだと判断しました。しかし、いずれも大幅な改装が必要です。艦体延長、艦幅延長、機関換装と最低でも一年は要するでしょう」

「『鳳翔』は記念艦として残すか」

「はい、何をしても運用法はありませんし、古いですから」

「ふむ、空母『瑞鳳』、水上機母艦『千代田』『千歳』『日進』は司令部機能を付加した艦隊指揮巡洋艦、米軍の『ブルーリッジ』の艦隊版かね?」

「はい、中途半端で運用方法がありません。レシプロ機ではミサイルのいいカモになりそうですし。ヘリ空母ということも考えられますが、ヘリの操縦は難しいですから。ただ、改装に要する時間はもっとも長くなります」

「重巡洋艦は「たかなみ」型に準じた改装で艦隊防空の任に就けるか?「あたご」型に準じたほうがいいのではないか?」

「いいえ、イージスは簡単に後付けできるシステムではありませんから」

「軽巡洋艦はすべて廃艦、新造艦を充てるか」

「はい、ミサイル戦の今では肉薄しての魚雷攻撃など考えられませんので」

「「陽炎」型駆逐艦以外はすべて廃艦、新造艦を充てるか」

「古い艦が多いですから改装よりも新造の方が安くなりそうです。「吹雪」型はレーダーとアスロック装備に改装することで中華民国や大韓民国、タイ王国に売却できるかもしれませんが、自前では運用したくありません」


 統一戦争後、日本皇国として改めて中華民国と接触を持ち、日中通商条約を締結していた。皇国からは武器弾薬などの輸出が行われ、中華民国からは鉄鉱石やその他の資源が輸入されていた。上海租借地以外の権益を中華民国に返還しており、皇国政府の出先機関として、上海に領事館を設置していたのである。これまで輸出していたのは、七四式戦車(日本国)、<ライトニング>(瑞穂州)、F-106<デルタダート>(秋津州)がある。これらは中華民国が共産勢力との戦闘で使用していた。


 紛争は基本的に陸空で行われていたが、黄海や渤海など海上でも行われていた。共産勢力はウラジオストックやマガダンといったソ連の港湾都市から船舶、多くはフリーゲートや魚雷艇であった、で中華民国の船舶、多くは大連州から上海に向かうタンカーや貨物船を襲っていたのである。だからこそ、多少の問題があっても、中華民国は購入するはずであった。これまでも何度か駆逐艦などの購入をいってきていた。


 大韓民国(移転暦五年四月、国号を改め、立憲君主制議会民主国家になっていた)でも、中国共産勢力のフリゲートに自国の商船を何隻か沈められていることから、反共産色を強めていたが、未だ戦争には至っていない。こちらも多少問題があっても、商船護衛に有効であれば、購入するかもしれなかった。中古で性能が落ちても安ければよいと考える節があったからである。また、北東部では、ソ連と国境を接しているため、皇国の武器弾薬はほしがっていたといえるだろう。


 タイ王国では、東南アジアで英蘭とドイツの関係が険悪化するにいたり、自国で海上防衛を考えており、皇国に対して船舶の供与を申し入れてきていた。こういった中古艦を何隻か供与し、もしくは売却するという方法があった。ある程度の水上打撃力と対潜能力があれば、売れるはずであった。


「任務については習熟訓練も兼ねた船団護衛任務を与える、か」

「はい、一箇所に集まる、というのは母港のことであって、任務の間はおそらく問題はないと考えます。彼らはわれわれと違って本物の軍人ですからね。実際、私は彼らといると、移転前に米軍将兵に感じていたのと同じ気持ちになることがあります。いいえ、同じ日本人だからこそもっと強く感じてしまいます。何のために戦うのだろうか、と」

「なるほど、我々と彼らの意識が異なる、ということだな。われわれも国防の任についているが、戦闘については例外を除いては身近に感じられなかった。しかし、彼らは米国という巨大な敵と戦っていたし、国防に対しての意味が異なる、君はそういいたいのだね」

「おっしゃるとおりです、本部長。だからこそ、私は私のできる限りのことを彼らに対してしてやりたい、そう思うのです。彼らの希望をかなえられたとき、私の今の任務が終わることになります」

「判った。この案は修正なしで、本省にあげておく。大変だろうが任務に励んでくれ。非常事態が発生した場合には直接私に連絡をしたまえ」

「はっ、ありがとうございます。失礼します」


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