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北米に上陸せり

 移転暦一四年一〇月、前年三月以降はこれといった日連間の戦闘は発生せず、水上艦艇派遣軍は海上警戒と監視が主目的となり、その規模も縮小されていた、空母一隻に護衛艦艇が九隻、内訳は重巡洋艦二隻と一個水雷戦隊が交代で任務につく程度になっていた。残りの艦艇はセウタもしくはマダガスカル島にあり、一部は休息のために中津島への帰還も果たしていた。が、聨合艦隊司令部はセウタにあった。


 この間、北米戦線は大きく変わりつつあった。四/五が米合衆国の勢力下にあったのである。誰が見ても米連合国の敗北が決定的であった。しかし、ルーズベルト大統領は戦いをやめようとはしなかった。ミシガン州やオハイオ州のように、住民の意思によって米連合国から離脱した州もあれば、ニューヨーク州以北のように無防備州宣言をする州もあった。米連合国内でも停戦派が急増し、内部崩壊の可能性があったといわれている。


 一一月に入ってすぐのこの日、再び聨合艦隊は全艦艇でノーフォーク沖に現れたのである。そうして、盛んに<流星>を発進させ、沿岸部の強行偵察に向かわせている。むろん、これは攻撃のためではない。あくまでも偵察であった。もっとも、必要とあれば攻撃を行うつもりであったのは間違いない事実であっただろう。


「参謀長、対空および対潜警戒を厳になせ。艦隊を二〇〇浬まで近づけるぞ」

「はっ、すでにそのように通達しておりますが、危険ではありませんか?」

「判っている。だが、示威行動をとるには必要なことである」

「はっ」


 山口は大胆にも沿岸部から二〇〇浬(約三二〇km)地点まで接近す両命じている。その目的はコロンビア特別区、いわゆるワシントンDCを含めた内陸部にも偵察ボッドを装着した<流星>を送り出すためであった。もちろん、護衛機をつけてではあったが、これまでにはなかったことである。つまるところ、われわれはいつでもワシントンDCを攻撃できるのだ、ということを示すための強行偵察であった。その真意は早期講和にあったのである。


 しかし、米連合国軍による反撃はなかった。このときの米連合国軍には米合衆国軍との戦闘で手一杯であり、皇国軍との戦闘など不可能な状態であったといわれていた。それは米連合国のラジオ放送の傍受によっても明らかであった。また、ニューヨーク以北の無防備州宣言をした地域においては、これから冬を迎えるにもかかわらず、食料や生活用品、医薬品の不足が明白になっていた。


 それらの状況は偵察によっても明らかであった。特に戦火を逃れて移動した国民が多く、なおさら生活必需品の不足が加速していたと思えた。さらに、これまで白人たちに虐げられていた黒人や有色人たちの暴動も多発、治安の悪化は予想以上にひどいものであった。山口は大井の具申を受け入れ、皇国上層部に連合海兵師団(第一および第二海兵旅団)による米連合国本土上陸作戦の実施を上申していた。


「参謀長、状況はどうか?」

「よくありません。まだ、カナダとの国境を越えるものはいないようですが、今後は発生する可能性があります」

「無防備州宣言しているということはわれわれが上陸しても反撃はないとみていいのだろうな?」

「なんともいえませんが、治安維持目的であればないと考えます」

「しかし、ラジオや無線を傍受する限りは状態はかなりひどいようだ。ここまで我慢するなど考えてもいなかったよ」

「あまり考えたくもありませんが、ルーズベルトが武力鎮圧していた可能性も捨て切れません。実態は調査してみないとなんともいえませんが」

「長官、参謀長、ニューヨーク州知事を名乗る人物からわれわれに宛てたと思われる無線を傍受しました」大沢通信参謀が電信票を持ってやってきた。

「われわれに?読んでくれ」

「はっ、皇国海軍司令官に告げる。人道的な支援が得られるなら、わが州は貴国に降伏する用意がある、以上です」

「ふむ、どう思う?参謀長」

「ニューヨークは経済の中心地といっても過言ではありません。多くの有色人種もいたでしょうし、暴動が拡大して手がつけられない状態なのでしょう。偵察の様子からも明らかです」

「返信はいかがいたしますか?」

「無視したら後に憂いが発生するだろうしな、どうしたものか」

「誰か人を派遣して状況確認をする必要があるでしょう。すべてはそれからであろうと考えます」

「ふむ、よし、二四時間後に返答する、と伝えよ」

「はっ」


 二四時間後の○九○○時、司令部要員の三沢雄一郎少佐と海兵一個小隊がマンハッタン島に上陸、彼らが目にしたのはまるで市街戦でもあったかのような荒れ果てた都市であった。さらに、出迎えたのは憔悴した知事と市長であったという。彼らが求めていたのは医薬品と日常生活用品、そして治安維持のための軍であったという。これらはビデオに録画され、皇国本土へと送られた。


 その二日後、皇国からの命により、海兵師団はマンハッタン島に上陸、マダガスカル島からの支援物資も陸揚げされた。第一機動艦隊は南からの米連合軍進攻に備える体制をとった。二週間後には皇国本土から陸軍二個師団と支援物資が陸揚げされる予定であった。ここに、日連戦争後初めて皇国軍が北米大陸に上陸することとなった。ではあったが、この時点では未だ日連間の講和はなっていなかった。


 上陸した二個海兵旅団のうち、第一海兵旅団は大隊規模で各地に分派、治安維持にあたることとされ、第二海兵旅団は港湾の確保と南からの進攻に備える体制をとった。未だ講和がなされていない以上、米連合軍に攻撃される可能性が高かったからである。マダガスカル島には対ソ連戦に備えての戦略物資がいまだに備蓄されていたのであるが、その半分が今回の支援物資として提供され、ニューヨーク州各地に陸揚げされていた。


「しかし、酷いものだな、参謀長、ここまでよく我慢していたと思う」第一海兵旅団司令部からあがってきた報告書を読みながら山口がいう。

「はっ、しかも、知事や市長によれば、ここ半年で酷くなったといいますし、おそらく、南の州から移動してきた市民が元の市民と衝突した、と考えてよいでしょう」

「ふむ、ニューヨークだけではなく、メイン、ニューハンプシャー、マサチューセッツ、ロードアイランド、コネチカットが無防備州宣言しているが、状況はわかるか?」

「はっ、現在調査中ですが、ニューヨークほど酷くはないようです。ラジオ放送が始まりましたから、今後は落ち着くだろうと思われます」

「米連合国のほんの一部とはいえ、広いからな。それにバルカン半島と違ってラジオやテレビ網が発達しているから上陸軍が暴挙を犯さない限りは大丈夫だろう。徹底させてくれ」

「はっ、第一海兵旅団司令官の太田少将はわれわれの世界での沖縄戦で有名な方です。部下の暴挙は許さないでしょう。第二海兵旅団の一木少将もそのあたりは承知していると思いますが、今一度徹底させます」

「うむ、たのむ。それと南からの民間人の流入が続いているという。こちらはどうしたものか」

「警察官が身分を確認。証明が取れれば受け入れる形をとっているようです。あの知事、なかなか切れるようですね」

「とはいえ、ワシントンは至近だから敵の攻撃も考慮せんとな」

「はっ、早期警戒管制機が常に上空にあるようにしています。空港が整備出来次第、艦載機の半数を移動させます」


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