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再び地中海へ

次の更新は来週水曜以降になります。




「参謀長、おるか?」聨合艦隊司令部作戦室に入ってくるなり、山口が声を発した。

「はっ、ここにおりますが、どうされました?」パソコンの前で画面を見ていた大井がこたえる。

「貴様、今度の作戦にどこまで関わっている?」

「今度の作戦といいますと?」

「惚けるな!聨合艦隊の地中海派遣だ!」

「ちょっと待ってください。聨合艦隊の地中海派遣って、いつ決定したのです?」

「なに?知らんのか?」

「はっ、今、初めて聞きました。どこからの指令ですか?」

「ついさっきだ、通信参謀が直接、わしのところにもってきおったわ。海軍作戦本部からの通達で参謀長を通すなかれ、とあったらしくてな」

「はあ、直接長官にお知らせしろという文があったということでしょうか?」

「そうだ。知らなかったのか?」

「はっ、知りませんでした。九月になってから情報が入りづらくなってるな、とは感じておりましたが・・・」

「ふむ、どうやら、貴様が聨合艦隊司令部参謀長になったことが影響してるのかも知れんな。海軍といえど、人が集まる組織だ。妬む輩もいるだろう」


 そう、八月に南雲忠一聨合艦隊司令長官が戦死、九月から新聨合艦隊司令部になり、山口多聞大将が聨合艦隊司令長官に、大井保海軍大佐が参謀長に就任、機動部隊群司令部は長官以下の席が空席とされる人事移動があったのである。それ自体は別におかしいことではなく、ごく当たり前のことであった。聨合艦隊司令長官を空席にするわけにはいかないし、適した人材がいれば、当然のことであった。しかし、山口が少将クラスの新参謀長を受け入れなかったため、国防省あたりが騒いでいたのである。


 ここで問題とされたのが、佐官である大井が聨合艦隊司令部参謀長を務めているというその一点にあった。結果的に、本国所属の第三および第四機動艦隊以外の聨合艦隊所属の四個機動艦隊の参謀長が佐官クラスにあること、さらには、各戦隊単位でも参謀長が大佐クラスであることに問題があるとされているのである。統一戦争から一〇年、もっとも少将クラスが増えている状況であったということもある。もっとも、これを問題としているのが旧日本国から皇国国防省に移動した役人であって、諸州ではあまり問題としていないとされていた。昇進に値する働きをした場合は昇進あるいは要職に就いて当たり前だと考えていたからであろう。


 つまるところ、かっての世界で第二次世界大戦終結後、一五年以内であった各州と六〇年以上も過ぎて平和ボケしていた国との差であるといえた。各州での、軍人こそ生活安定のための最高の手段とする考えは減りつつあったが、それでも、国を守る、という考えが住民の中に多くあった。対して、旧日本国ではその考えが薄かったのである。統一戦争、世界大戦を通じて、軍にたいする見方が若干変わってはいたが、それでも、軍人というだけで白い目を向ける一般人は多くいたのである。


「長官、それで聨合艦隊の地中海派遣とその任務は?」

「地中海派遣とはいっても、地中海での任務ではないよ。ジブラルタル海峡のセウタへの進出だとされている」

「スペイン領ですが、話がついているのでしょうか?」

「わからんよ。任務すらまだ定まっておらんしな」

「どうやら、米連合国本土に対する攻勢のように思えますね」

「うむ」

「米合衆国の米連合国攻勢に合わせての作戦行動でしょう。わが国は米連合国とは講和しておりませんし、戦争中です」

「政府はどうやら米合衆国による統一を望んでいるようだ。それの手助けと何らかの影響力を残したいと考えているようだな」

「はっ、パナマが米合衆国の手に落ちたいま、米連合国に太平洋に進出する道は南米のホーン岬経由しかありません。インド洋経由ということも考えられますが、燃料油の補給先が限られている以上、ないでしょう」

「パナマ奪取には艦艇が足りないし、陸上戦力も対米合衆国戦線から抽出できないだろう」

「今回の任務、おそらく米連合国本土侵攻作戦もあるやも知れません。少なくとも、米連合国本土への航空攻撃は盛り込まれているはずです。セウタへの進出はいつでしょうか?」

「一一月一五日だ」

「米連合国本土への侵攻作戦は一二月に入ってから、おそらく八日あたりでしょう」


 一〇月末、米合衆国軍はパナマの大西洋側であるコロンに陸空軍を進出させていた。特に空軍はメキシコの空軍基地使用が認められていたため、本国から直接飛んでいくことができていたのが、米連合国と異なる点であった。海軍艦艇も、パナマ攻略においてほとんど損傷を受けることがなかったため、コロンに集結していた。ハワイとフィリピンに駆逐艦を主体とした警備艦艇を合わせて三〇隻、本国にも二〇隻程度配備しただけであったという。戦力的に米連合国に劣り、各戦線でも劣勢だった米合衆国においては、今が祖国統一の唯一のチャンスであったといえた。だからこそ、総力戦体制に移行していたといえるだろう。


 結局のところ、皇国が東サモア占領とパナマの軍施設を壊滅させたことが、この流れを作ったといえた。少なくとも、皇国が初めて接触した頃の米合衆国は、国土を維持することに熱心であったが、米連合国を駆逐しての北米再統一など考えていなかったはずであった。それが変わったのは、世界大戦において遣欧部隊がバルカン半島制圧を果たした頃からであろうといわれる。事実、米合衆国から非公式な打診があったとされているからである。


「貴様がこの作戦に関わっていないとなると、おそらく参謀本部あたりから出たんだろう。なかなか切れるやつもいるようだな」

「はっ、ですが、いくら技術的に勝っていても、今度の作戦は危険が多いと思われます」

「だろうな、位置が知れれば雲霞のごとく敵機が飛んでくるだろう。一〇〇や二〇〇ではきかんだろうな」

「はっ」

「できるだけ被害は抑えたいが、何か手はないものか」

「長官、基地航空隊の何個かは機種転換訓練を行っています。各空母に一個飛行隊だけでも乗せましょう。<雷電>ならステルス性が高いですから、電子戦も加えれば、米連合国本土に接近しての対レーダー誘導弾発射が可能かと思います。艦内スペースが厳しいですが」

「うむ、任せる」

「はっ、二日ほど時間をいただきます。それまで参謀本部あたりからの進言は何とか押さえ込んでいただきたいのですが・・・」

「良かろう」

「ありがとうございます」


 そうして聨合艦隊は再び地中海に向かったのである。むろん、航空隊の変更などは上に上げることなく、聨合艦隊内で行われている。さらに、本来であれば、強襲揚陸艦たる「扶桑」型と「伊勢」型には搭載しないはずの<ホークアイII>も一機ずつ搭載されていた。


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