レイテ沖空戦
連荘で更新です。
作者は身体を壊して療養中ですが、現状では本はおろか新聞すら読めない状況です。つまり、目が悪くなったということで、投稿も苦労しています、何より、資料を調べられないというのはネックです。それでも、昔読んだものをたまに思い出しながら書いている次第です。
前作および今作も圧倒的な技術格差があるという設定ですが、最近は迷っているといえます。
とりあえず、深く追求しないでお楽しみください。
東サモアが陥落して三週間後、パラオ共和国コロール島、ここにあった小規模な艦隊が出港しようとしていた。機動艦隊群旗艦『白根』、イージス巡洋艦『こんごう』、「改ひゅうが」型護衛空母『ひゅうが』『いせ』『しま』、「雪風」型駆逐艦『松』『竹』『梅』『桃』『桑』『桐』からなる艦隊である。この艦隊は本来であれば、トラック島経由で中津島に帰還するはずであったが、聨合艦隊司令部および海軍作戦本部より、台湾州台南である会談に聨合艦隊代表として出席すべし、との命令(海軍作戦本部は命令というよりも要請であったが)を受け、急遽、高雄軍港へと向かうため、コロールに立ち寄っていたのである。
海軍作戦本部からは、再編されてソロモンに在った第五機動艦隊とトラックで合流するように、とのことであったが、第五機動艦隊の空母『雲龍』が機関のトラブルで動けなかったため、ラバウルに在った「改ひゅうが」型護衛空母三隻とここで合流して高雄に向かうということになったのである。海軍作戦本部が第五機動艦隊を派遣しようとしたのは、レイテ島にある米連合国機動部隊との遭遇を危惧してのものであった。
結局、『ひゅうが』『いせ』『しま』は本来搭載している対潜哨戒機を下ろし、戦闘攻撃機<流星>を各艦とも満載の一二機搭載することとなった。対潜哨戒網に穴が開くこととなるが、『白根』搭載ヘリと駆逐艦とに頼ることとなったのである。ここまでして急いだ会談とは、米合衆国太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ大将および米合衆国大統領補佐官ジョージ・ダックマンと日本皇国外務大臣米原芳郎および山口多聞、満州国内閣総理大臣張景恵、中華連邦共和国総理大臣汪兆銘との四国会談であったからである。なぜ、台湾かといえば、米合衆国側両名がフィリピン戦線の視察に訪れていたことにある。
「対潜、対空警戒を厳にせよ!」不審電波発信確認との報を受けた大井が命ずる。
「参謀長、艦隊上空に<オライオン>が到着しました。対潜哨戒に就きます」
「よし、これで少しは楽になるな。しかし、肝心なときに哨戒網に穴が開くとは」
「参謀長、もう良いではないか。原因は六艦隊司令部、ひいては聨合艦隊司令部にある。彼らを攻めるのは間違っているぞ」
「はっ、申し訳ありません」
この会談は極秘であったが、実は米合衆国軍の通信から一部米連合国側に漏れていたとされる。彼らが判断したのは、皇国機動艦隊司令官(むろん、誤りである)山口と米合衆国太平洋艦隊司令長官ニミッツとの会談が持たれるということだけであった。第五潜水戦隊のトラブル、第五潜水戦隊の構成艦である「はるしお」型はこの二年、本国に帰ることなく、乾ドック整備が行われていなかったため、トラブルが頻発していたといわれる、の隙を付く形でミッチャー中将は台湾へと向かおうとした。そこに、高雄へと向かう『白根』を基幹とする艦隊との不時遭遇戦が起こることとなったのである。
「『こんごう』より入電、敵機確認!方位一〇時、距離三八○、機数一二、高度六〇〇〇、速度一〇〇〇!」
「<オライオン>より入電、方位一〇時、距離五万、潜水艦反応あり」
「突発音!七時、数四、海面に向かいます!」
「続いて突発音!一一時、数四、距離五〇〇〇、我方に向かう!」
これらの報告はほぼ同時に行われた。もっとも、脅威と判断されたのは海中からの攻撃であった。ひとつは魚雷であり、いまひとつは水中発射型対艦誘導弾だと思われた。
「水面に出ました!ロケット点火、誘導弾です!」
「『桑』『桐』を対魚雷戦に指定、『梅』『桃』を誘導弾迎撃に指定!哨戒機に攻撃自由を通達!直援機は何機か?参謀長!」
「一二機です!四機向かわせました!」
「よし!誘導弾および魚雷の迎撃後、一二機あげろ!」
「はっ、各艦四機ずつ、準備させます」
「『こんごう』は敵誘導弾の迎撃に専念させよ!」
「はっ、通達します」
「『こんごう』より入電、新たな編隊出現、方位九時、距離三八○、機数一二、高度一〇〇〇、速度一〇〇〇!」
「参謀長!」
「はっ、四機向かわせます!」
迎撃機が四機と少ないのは、彼らの機体および兵装にあった。彼らの装備する機体、<流星>三二型は<流星>一一型と異なり、同時一二目標追尾、同時四目標攻撃が可能なFCS(火器管制装置)を搭載していたのである。また、欧州戦と異なり、AAM-6誘導弾四発とAAM-5誘導弾二発を装備していたからである。さらにいえば、搭乗員は旧日本国出身者で固められていた。つまりは、電子戦に慣れていたということにある。有視界近距離戦闘能力は聨合艦隊所属パイロットに若干劣るといわれていた。
海面に大きい水柱が四つ、遅れてさらに大きい水柱が二つ、空中に飛び出した誘導弾に対空誘導弾が命中し、火花を四つ咲かせた。また、迎撃部隊が交戦を始めていた。しかし、対潜警戒から漏れた潜水艦が二隻いたのである。さらに、この喧騒の中での攻撃には気づくことはないと思われたが、気づいたものがいた。早期警戒のために発進した『白根』搭載のヘリコプターである。
「ヘリより入電、艦隊より二時および四時、距離七〇に潜水艦視認、既に誘導弾発射したもよう、です」
「ヘリに武器使用自由、攻撃指令!」
「通達します!」
「『こんごう』より入電、一〇時方向より高速飛翔体四、距離一五〇、速度二五〇〇!」
「電側より、二時および四時海面からロケット弾八、距離五〇!」
「『こんごう』より入電、九時方向より高速飛翔体四、距離一○〇、速度二五〇〇!」
「長官!『こんごう』に!」思わず大井が叫ぶ。
「『こんごう』に迎撃指令!」
このとき、『こんごう』の乗員は派遣された当時のまま、つまり、本国第一艦隊時の乗員であり、もっとも短い乗員でも五年は乗り込んでいたという。最古参では八年以上乗り込んでいるものもいたとされる。イージス巡洋艦でもっとも古参である彼女の戦闘能力を山口を含めた聨合艦隊所属将兵は初めて目の当たりにする事となる。同時二〇〇目標追尾、同時一六目標攻撃可能なイージスシステムが実戦で初めてその機能をフルに発揮したのである。最新鋭の「すずや」型はそれぞれ二五〇と三二であるが、これまで実戦において使用される場面がなかったのである。
その瞬間、『こんごう』の後部甲板が誘導弾が命中したかのように爆発した、ようにみえ、一六本の槍が蒼穹に向かって放たれた。多くの人間は一度に放たれたように見えただろうが、実際は異なり、同一方向に向かう槍は二秒ほどの時間のズレがあった。そうして、三つに分かれたそれはそれぞれの方向に向かい、まず八つの花火を、次いで四つの花火を、最後に四つの花火を咲かせたのである。こうして、彼女は戦場で初めて己の持つ能力を証明して見せたのである。
「まさか・・・・イージスシステムがここまで凄いものとは・・・・」珍しく山口が固まっていた。そしてオペレーダーの声で我に返る。
「ヘリより入電、敵潜二隻再浮上、乗員が脱出しているもよう、です」
「長官、『梅』『桃』を救助艦に指定します」
「うむ、そうしてくれ。しかし、参謀長、イージスシステムとは凄いな」
「はっ、ですが、九〇セルのうち、一六セルはもう使えません。洋上での再装填機能は前の改装で撤去されましたので」
「そうか、ともかく、助かったな」
「はっ、敵戦闘機二四機すべて撃破しました。『桑』を救助艦に指定、敵搭乗員の救助に充てています」
「うむ、対潜、対空警戒を厳に成せ。敵航空戦力はどれほどだと思うかね?参謀長」
「空母一隻に三六機、合わせて七二機、基地航空隊が五〇機ほど、約一三〇ほどではないかと思われます」
「こっちは全部で三六機、話にならん。今回は台湾に向かうことを第一としよう」
「はっ」