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東サモア攻略

 東サモア攻略とはいえ、米連合国の軍事施設破壊だけではなく、継続的な通商破壊戦が必要であった。一度破壊するだけで放置しておくと、半年もすればまた整備されてしまうからである。だからこそ、潜水艦による通商破壊が必要なのである。むろん、占領という手もあるが、被害が大きくなることから、今回は敵前上陸作戦は考慮されていなかった。ただし、習志野の第一空挺団隷下の特殊部隊一個小隊が潜入することは考慮されていた。


 戦後、英国から譲渡されたサモア島、ウボル島にも開発の手は伸びていると考えなければならない。しかし、長く米連合国の手にあったトゥトゥイラ島ほどは開発されていないはずで、今回の攻略の目標もトゥトゥイラ島を中心に考えられていた。むろん、サモア島、ウボル島は戦略物資の一時的な集積地としては利用されていることもわかっていた。当然として、これらの破壊も考慮されていた。


 移転暦一一年一二月八日未明を持って攻撃が開始されることとなっていた。潜水艦による対艦攻撃、ツバルからの四個飛行隊による航空攻撃、機動部隊による航空攻撃、戦艦の艦砲による対地攻撃、継続的なツバルからの航空攻撃というのが作戦の骨子である。いずれの攻撃も時間差攻撃とされ、それぞれの間隔は一〇分とされていた。これは非常に難しい攻撃であるが、第一機動艦隊司令長官角田中将が強く望んだとされている。


 今回の作戦では、英国から情報が漏れる可能性を考慮して、英国植民地近海の通過はなるべく避け、かつ、インド洋に第一特務艦隊を再び派遣し、こちらは大々的に目立つように行われていた。それは南シナ海を堂々と通過し、タイ王国に寄港していたのである。あえてシンガポールへ寄港しなかったのは、それなりの信憑性を持たせるためであったとされている。


 この時点で、黒海には第三機動艦隊が、マダガスカル島には第四機動艦隊が在り、インド洋あるいは大西洋での作戦行動を示唆するための陽動であったといえるだろう。実際には、第一特務艦隊は黒海での第三機動艦隊の新任務に就くこととなっていたのである。これは極東ソ連軍の動きに不審な点があったからに他ならない。では極東での航空支援はどうなのかといえば、四隻の強襲揚陸艦を充てていたのである。第五および第六機動艦隊に編入される航空母艦は未だ儀装中であり、任務に充てられないからであった。


「第七潜水戦隊による攻撃が始まりました。大型艦四、中型艦四、小型艦八に損傷を与えたようです」オペレーターが告げる。

「うむ、問題は次の航空攻撃だな、参謀長」山口が一歩後ろにいる大井に話しかける。

「はっ、まだ○四式対レーダー誘導弾のことは知られていないと思われますので効果はあると考えます。問題は予備のレーダーと艦艇のレーダーです」


 機動艦隊群司令部はここフナフティ島に進出していた。しかし、陸上の設備は未だ完成していないため、『白根』に司令部を置いている。『白根』は相変わらず山口の司令部であった。そして、今回は旧日本国初のイージス巡洋艦である『こんごう』が『白根』の護衛に就いていた。最新鋭の「すずや」型イージス巡洋艦が就役したため、『こんごう』が聨合艦隊に配備されてきたのである。ただし、運用は皇国近海および太平洋戦線に限るとされていた。


八咫烏やたがらすより入電!トゥトゥイラ島、サモア島、ウボル島レーダー沈黙を確認、です」

「長官、どうやらレーダージャミングは使用しなくてもよさそうですね」

「うむ、まだ知られてはおらんし、当分は秘匿する方向でいきたいな」

「はっ」

「三一飛行団、米連合国迎撃機に対空誘導弾発射、交戦に入ります」

「三一一飛行隊長より入電、敵機はF-4<ファントム>と認む、です」

「やはり、<ファントム>か」

「ん?わしらが現れたときに飛んでいたあの偵察機か?参謀長」

「はっ、その通りです。R-4<彩雲>が配備されて退役、解体されましたが、元は戦闘爆撃機でした」


 ちなみに、R-4<彩雲>はF-15のパーツを利用して開発された偵察専用機であり、かなり高価な機体であった。現在、八機が運用されている。外見は史実の米空軍爆撃機B-1<ランサー>に似ているが、サイズは半分ほどである。<ランサー>では爆弾庫に当たる部分に専用機器が詰め込まれている。ちなみに、F-3戦闘機からF/A-5に番号が飛んでいるのはこのためである。


「三一二飛行隊長より入電、僚機四機被弾、まだ飛行中なれど帰還不可能と認む」

「三一一飛行隊長より入電、僚機三機被弾、まだ飛行中なれど帰還不可能と認む」

「三二二飛行隊長より入電、僚機二機被弾後墜落、脱出を確認」

「三二一飛行隊次席指揮官より入電、隊長機被弾、脱出は確認」

「第七潜水戦隊に可能なら回収を命ず。回収艦は出ているか?参謀長!」

「はっ、駆逐艦『松』『竹』が向かっております。七潜戦のほうは二隻と連絡可能です」

「よし!」

「エマージェンシー信号が出ています。いずれもサモア島、ウボル島、トゥトゥイラ島からは離れています。回収は可能かと」

「うむ」


 この日の航空攻撃において、一五機が被弾、基地まで帰還し得なかったが、乗員は回収艦および潜水艦に救助されている。しかし、三〇人のうち、五人は死亡が確認されている。墜落原因は誘導弾ではなく、一二.七mmガトリング砲と思われる対空機関砲によるものと確認されていた。


 八咫烏によれば、各地に小出力レーダーの発信を確認しており、これが一五機という大量損失の原因であるとされた。なお、この対空機関砲は無人、つまりは、大戦初期に英国艦艇に搭載されていた近接防御兵器、それの陸上版と確認された。英国では大戦中盤以降、威力不足から三〇mmに転換していたが、廃棄されるべき兵器が米連合国に流れたようであった。


 ともあれ、この日の攻撃において、米領サモアは一時的にその太平洋での基地機能を消失したといえた。以後、ツバルから最初の一週間は毎日、次の二週間は二日に一回、以後、一週間に二回、一個飛行隊単位で空爆が実施され、海では第七潜水戦隊が通商破壊戦を続行、海上封鎖を続けた。ちなみに空爆はレーザー誘導爆弾が用いられ、特殊部隊がそのレーザー照射を行っていたとされる。


 さらに、航空攻撃の二週間後、「長門」型戦艦の四〇.六cm主砲、巡洋艦の二〇.三cm主砲による艦砲射撃が一週間に一度の割合で一ヶ月間続けられたのである。この間、米連合国は潜水艦による輸送を試みていたが、第七潜水戦隊に阻止されていた。そうして、年が明けて二月一〇日、ついに米領サモアは陥落、皇国に降伏したのである。この間、米連合国の補給は一度たりとも成功していなかった。以後、第一および第二海兵師団が各地に上陸、治安維持に当たることとなった。


「やれやれだな。これで一息つける」

「ですが、長官、パナマが無事な以上、いつ巻き返しに出てくるやも知れません。少なくとも、パナマかカリブ海を何とかしないと安心できません」

「参謀長、パナマは襲撃計画に入っているだろう?」

「はっ、ですが、サモアが落ちた以上、敵も警備は固めているはずです。それに陸上基地はありませんから、サモア以上に損害が出る可能性が高いです」

「カリブ海か、計画に入っていたか?」

「いいえ、パナマを撃破後は米連合国本土ということになっています」

「検討すべきだろうな」

「はっ」


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