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国軍再編

 講和条約締結後、もっとも急がれたのは軍備再編であった。しかし、軍備再編において旧日本国と各州との認識の差が大きく出ることとなった。旧日本国政府は三軍合わせて総数四〇万人もいれば十分だと考えていた。しかし、各州の意見は異なった。瑞穂州は総数一五〇万人、山城州は同一二〇万人、沿海州は同一四〇万人、由古丹州は一○〇万人、秋津州は八〇万人を求めていたのである。


 これは紛争地に近い台湾州や国情不安定な大連州、未だ未開といえるほどの南洋州を抱えていた瑞穂州、常に臨戦態勢にあった山城州、資本主義勢力からの侵略を恐れていた沿海州や由古丹州、アメリカの庇護下にあった秋津州と、アメリカの庇護下にあり、平和ボケしていた旧日本国との認識の差が出た結果だといえた。


 これら皇国領となった地域の治安を回復・維持する必要があることを失念していた皇国政府(旧日本国から選出された)は、改めて六〇万人という案を出していたが、これについても各州の賛意が得られなかった。海上保安庁所属の巡視船に護衛された貨客船が幾度も国籍不明の潜水艦と接触しており、台湾近海では旧式巡洋艦を流用したとと思われる海賊船に砲撃を受け、損害を出したこともあり、特に瑞穂州からはこれら地域の治安維持とシーレーン防衛のための軍備増強が提案され、最終的に八〇万人という兵力で妥協せざるを得なかったのである。


 また、千島列島最東端の占守島対岸のカムチャッカ半島での多くの異変が探知されていたこともあり、ソ連あるいはロシアがこれら地域の開発を始めていると考えられていた。仮にも、皇国の人間が知るソ連やロシアであれば、いずれは対立し、武力衝突が発生する可能性もあった。北方だけではなく、大陸中央でも戦争が始まっているのが確認されていたのである。さらにいえば、世界情勢は史実の第二次世界大戦直前とよく似た状況にあったといえた。


 国民数倍増、総数二億九〇〇〇万人にも達することが確実であるため、GDPの四パーセントと定められた国防予算において、新たに装備更新がなされることとなった。技術力や工業力、国情の違いなどもあるが、移転前のアメリカ合衆国に匹敵する規模であったといえる。むろん、皇国として再出発したばかりの今は遠く及ばないが、五年後にはGDPが倍増すると考えられ、それに先行する形で再編が始められた。


 結果的に、日本皇国では陸軍は総数四五万人、常設二五個師団および六個機甲師団、うち、一八個師団および五個機甲師団が充足率一〇〇パーセントの部隊となる予定であった。空軍は総数一二万人、二〇個戦闘飛行団、六個警戒飛行隊、六個輸送飛行隊と各地のレーダーサイトを予定していた。海軍は総数二三万人を予定していた。三軍の中でもっとも再編が急がれたのは海軍であり、、次で陸軍であり、最後に空軍の予定であった。


 先の統一戦争において、旧海上自衛隊以外の多くの艦艇が損傷し、ほぼ八割が修復不能、あるいは修復に多大な費用がかかると思われた。さらに、残余の艦艇においても装備に格差がありすぎ、旧海上自衛隊の艦艇との共同運用が不可能であった。そこで、比較的技術力や工業力を有していた秋津州や瑞穂州、山城州において巡洋艦や駆逐艦(旧海上自衛隊の「たかなみ」型と「はつゆき」型を改設計したもの)の建造を始めていた。


 いずれの国においても基準排水量五〇〇〇トン以上の艦艇は存在せず、多くは二〇〇〇トン以下の駆逐艦であった。これは各国においても元の世界ではそれ以上の軍艦を保有できなかったためだと思われた。さらにいえば、いずれも、一九五〇年代、つまり、第二次世界大戦終結一〇年から一五年しか経過しておらず、艦艇建造技術に格差がありすぎたといえた。


 軍艦に限らず、各種艦艇においても同様であった。北の二国や山城州では客船や貨物船においてはレーダーすら装備されておらず、すべてが目視による運行であった。そして、これら民間船舶においても、更新が急がれることとなった。むろん、各州とは至近の距離であり、旧日本国が運用していた近海用フェリーでも十分可能であった。現状においては、旧日本国から各州への移動は船舶しか考えられなかったからである。


 結局のところ、日本は海に囲まれて(それは皇国となった今も変わらなかった)おり、シーレーンの安全が脅かされれば、経済は立ちゆかないといえた。ましてや、旧日本国においても第二次世界大戦前に所有していた台湾州や大連州、南洋州が存在するのである。それが海軍の再編が最も急がれることとなった理由であった。


 未だ再編中であるが、現状は以下のようになっていた。各地に汎用駆逐艦(旧護衛艦)四隻を分派、樺太州、台湾州、大連州、南洋州には各地方隊から駆逐艦一隻分派、瑞穂州と秋津州の残余駆逐艦二隻を分派していた。再編後は一個艦隊にDDH一隻、DDG二隻、DD一六隻(沿岸警備用八隻含む)、潜水艦四隻が予定され、準州にはDD八隻の配備が予定されていた。


第一艦隊-横須賀-第一護衛隊群の一部DDH、DDG

第二艦隊-佐世保-第二護衛隊群の一部DDH、DDG

第三艦隊-舞鶴-第三護衛隊群の一部DDH、DDG

第四艦隊-呉-第四護衛隊群の一部DDH、DDG

第五艦隊-水穂(瑞穂州)-第二護衛隊群の一部DD

第六艦隊-田代(山城州)第三護衛隊群の一部DD

第七艦隊-水塩(沿海州)第一護衛隊群の一部DD

第八艦隊-尻古丹(由古丹州)-第一護衛隊群の一部DD

第九艦隊-南秋津(秋津州)-第四護衛隊群の一部DD


 海軍航空戦力については、各地から抽出された対潜哨戒機部隊が沿海州、山城州、瑞穂州、秋津州、由古丹州に派遣されていた。再編後は各州に対潜哨戒機一六~三二機装備部隊が編成される予定であった。


 日本国が運用していた空の便、いわゆる旅客機の運用は行われていたが、国内では空港施設が完備されており、安心して(GPS用衛星がなく、その機能は使えなかったが)運行できていたが、各州では民間空港は未だ整備されておらず、整備されていたのは軍用空港、いわゆる空軍基地だけであった。そのような状況であるから、航空機による旅客輸送は不安視されていた。沖縄に行くにしても、奄美大島経由であったのである。


 空軍は各州において残余の機体で部隊を編成して配備を求められていたが、一刻も早い統一機体が必要とされていた。旧日本国航空自衛隊が装備していたような高価な機体ではなく、安価で高性能な戦闘機の開発を行い、五年以内に各州に三個飛行団配備を予定されていた。一個飛行隊一六機で一個飛行団は二個飛行隊から編成される予定であった。さらに、レーダーサイトの場所も数も大幅に変更しなければならなかった。


 他に早期警戒管制部隊一個飛行隊四機の各州配備が予定されていた。これも実機が輸入できないので自前で開発することとなっていた。輸送飛行隊も各州に一個輸送飛行隊六機の配備が予定されており、新規の機体開発を行うようになっていた。現有のC-1輸送機は航続力が短すぎて使用できないからであった。少なくとも、満載重量で片道でも樺太から九州まで飛行できる機体を求められていた。


 陸軍においても、充足率一〇〇パーセントの配備が求められていた。準州においては二個機械化師団、各州には三個機械化師団および一個機甲師団が求められていた。人員確保が旧日本国では困難であったが、各州、特に北の二州からは募集を上回る志願があったとされる。短期といえ、共産主義の影響を受けていた彼らにとっては、軍人こそが生活を安定させるにはもっとも確実な方法であったのである。


 これを旧日本国で見てみると、その規模は増えるどころか逆に減少していたとされている。事実、増加分の多くは新しく、皇国の一員となった各州において増加していたのである。それは、各地域の単体でみても減少していたといえるだろう。単一で考えれば各州においても兵力は減少していたが、一つの国となってみた場合、増強されていたことになるのである。これは国土や国民の数に対してという意味であった。


 しかし、移転暦七年から一五年にかけて起こった世界大戦、この世界では単に世界大戦と称されるのは、初めて生じた地球規模の戦いであったからに他ならない。それに続く太平洋および大西洋における両洋戦争、規模は大きいが地域戦争であった。これらの戦いにおいて、日本皇国は二〇〇万人もの陸海空軍を編成し、世界大戦では主に東南アジア域や欧州に投入している。


 ともあれ、日本皇国はその建国以来、他国に侵攻することは禁じられていた。あくまでも、防衛の一手段として必要であれば、侵攻作戦も辞さない、という考えであった。あるいは、紛争または戦争を終結させるための一手段として、必要とあれば実施するものであった。もっとも、戦後設立された国際連合あるいは東亜条約機構、東南アジア条約機構、太平洋条約機構といった機構に参加し、そのリーダーである以上、つまりは平時であっても、総数一〇〇万人という軍事力は減少することはなかった。そういった意味で、このとき編成予定された国軍は最低限度の、国防のための軍事力とされたのである。


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