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地中海へ

 移転暦八年四月、遣欧艦隊はマルアンツェトラに集結していた。遣欧とはいえ、『大和』『長門』『陸奥』『那智』、第九戦隊、第九水雷戦隊、第二八駆逐隊、第六艦隊、補助艦艇を除く聨合艦隊のほぼ全力といえた。修理改装中の『長門』『陸奥』『那智』はともかくとして、『大和』が外れたのには理由があった。『大和』はその巨体ゆえ、スエズ運河を通過できない(この頃はまだ最大幅三四mであり、『大和』は三八mもあるためであった)からである。


 遣欧艦隊の全容は次のとおりであった。

戦艦部隊

第二戦隊

戦艦『金剛』『比叡』

第三戦隊

戦艦『榛名』『霧島』


重巡洋艦部隊

第四戦隊

重巡『愛宕』『鳥海』

第五戦隊

重巡『妙高』『羽黒』

第六戦隊

重巡『高雄』『摩耶』

第七戦隊

重巡『熊野』『鈴谷』

第八戦隊

重巡『利根』『筑摩』


空母部隊

第一機動部隊

第一航空戦隊

空母『飛龍』『蒼龍』

第二航空戦隊

空母『隼鷹』『飛鷹』

第二機動部隊

第三航空戦隊

空母『大鷹』『冲鷹』

第四航空戦隊

空母『赤城』『加賀』


水雷戦部隊

第一水雷戦隊

軽巡『阿武隈』

駆逐艦『若葉』『子の日』『初春』『初霜』『響』『暁』

第二水雷戦隊

軽巡『神通』

駆逐艦『嵐』『雪風』『天津風』『時津風』『秋雲』『磯風』

第三水雷戦隊

軽巡『川内』

駆逐艦『舞風』『浦風』『初風』『浜風』『谷風』『萩風』

第四水雷戦隊

軽巡『由良』

駆逐艦『朝雲』『峯雲』『夏雲』『朝潮』『荒潮』

第五水雷戦隊

軽巡『大井』

駆逐艦『風雲』『夕雲』『巻雲』『霰』『霞』

第六水雷戦隊

軽巡『長良』

駆逐艦『陽炎』『不知火』『野分』『早潮』『親潮』『黒潮』

第七水雷戦隊

軽巡『北上』

駆逐艦『三日月』『電』『雷』『曙』『潮』『漣』

第八水雷戦隊

軽巡『木曾』

駆逐艦『帆風』『夕風』『霜月』『冬月』『春月』『宵月』


駆逐艦部隊

第一六駆逐隊

駆逐艦『松』『竹』『梅』『桃』『桑』『桐』

第一八駆逐隊

駆逐艦『杉』『槇』『樅』『樫』『榧』『楢』

第二○駆逐隊

駆逐艦『吹雪』『白雪』『初雪』『叢雲』『磯波』『浦波』

第二四駆逐隊

駆逐艦『敷波』『綾波』『朝霧』『夕霧』『白雲』『天霧』

第二六駆逐隊

駆逐艦『海風』『山風』『江風』『涼風』『時雨』『有明』


 遣欧艦隊の任務は地中海の制海権の確保および制空権の確保、イタリアおよび南部フランスの無力化にあった。特に、制海権および制空権の確保は重要な任務とされていた。仮にこれが成されれば、中東から英本国、東南アジアから英本国への輸送ルートが確保され、英国の対独反攻作戦に弾みがつくものとされていた。また、自由フランス軍の仏本土上陸作戦実施が可能となるからであった。


 皇国は海軍の派遣だけにとどめ、陸空軍は派遣しないこととされていた。その余裕がなかったわけではなく、英仏がそれを認めなかったのである。英仏とも、皇国を信用していたわけではなかったからである。この世界の英仏蘭は瑞穂日本帝国(現瑞穂州)のことは知っていても、新興国である日本皇国はまだよく知られてはいなかったのである。


 旧日本国が移転して八年、皇国建国から六年、それに対して、瑞穂州は二○○年以上前から知られていたのである。もともとこの世界は、瑞穂州が所属していた世界といえたが、その他の皇国構成州は異質なものとされていた。だからこそ、英仏蘭は日本皇国のことをよく知っておらず、特に英国は瑞穂州との同盟を解消していたのである。


 そういうこともあって、英仏との共同作戦を持つには程遠い関係であったといえた。だからこそ、共同作戦を行い得ない、否、自国戦力だけで行動できる海軍作戦を選択したといえた。遣欧艦隊の自由作戦が実施できる、その一点において最適な選択であった。そして、どうしても結果を出さなければならない、という点においては将兵に緊張を強いることとなった。


 ちなみに、この頃の皇国の稼動陸軍兵力はといえば、総数八〇万人に及んでいたとされている。これは、即応予備役兵のすべてが現役に復帰したためであり、これ以上の戦力化にはあと一年の期間を要することとなる。つまり、新兵の訓練期間がそれだけ必要である、ということになる。この時点で、瑞穂州や山城州、秋津州、旧日本国から四五万人の志願者を新兵として訓練中であり、入営待ちが各州あわせて八〇万人であったといわれる。つまり、二年後には各州での志願者、約一二○万人が戦力化可能であると公表されていた。


 志願者がもっとも多かったのは北の二州であり、五〇万人がいたが、皇国陸軍上層部はあえて訓練を後回しにしていた。これには理由があり、ドイツ敗北後の極東ソ連を見据えてのことであったといわれている。ドイツが敗北し、欧州ソ連の地域が確保されれば、必ず極東で問題、否、紛争が発生すると考えられていたからであろう。


 かってソ連がロシア帝国時代に権益を有していた満州地域では、黒龍江省油田が開発され、それなりに発展していたからである。むろん、中国共産勢力が中華中央を手中に収め、ソ連の影響下での搾取を考えているともされていた。少なくとも、独ソ戦が発生するまでの状況はそうであった。北の二州の兵力はそれに対する備えとされ、欧州派遣軍には組み込まれてはいなかったのである。もっとも、現役兵力は別であったとされている。


 このとき、マダガスカル島には皇国陸軍兵力は一個普通旅団と一個施設旅団があったが、彼らの多くは治安維持と施設設置が目的であり、防衛および侵攻部隊ではなかった。地中海での戦いが予定通りに進めば、一〇個機械化師団一五万人と一個機甲師団二万人の計一七万人が同島に向かうことになっていた。これは皇国独自の作戦、「転封作戦」の実施のための兵力であった。


 この頃、英仏の艦艇はどうなっていたかといえば、大型艦の多くは損傷を受けるか地没しており、軽巡洋艦や駆逐艦といった軽快艦艇のみであったとされている。事実、空母は二隻が本土にあったが、稼動は見送られていた。原因は燃料油であり、空母を動かすよりも軽快艦艇を動かすほうを英海軍は選んでいたのである。そう、船団護衛に正規空母は必要ないとされていたのである。中でも、「みねぐも」型駆逐艦は本国近海に一六隻があり、船団護衛に欠かせない物となっていた。


 とはいえ、英海軍がもっとも望んでいる補給、アスロック対潜ロケット弾の補給が滞っており、十分にその性能を発揮できないでいた。喜望峰回りでの輸送船団護衛に就いてはいるが、本土まで届くには時間がかかりすぎていたのである。時間を短縮するためにはなんとしても、地中海ルートの確保が望まれていた。しかし、「みねぐも」型駆逐艦は対潜護衛艦であり、航空攻撃には脆弱であった。そのため、新型の独対艦誘導弾には対応できず、地中海では運用できなかったのである。


 そこへいくと、聨合艦隊所属の主力駆逐艦、「雪風」型は対潜、対空、対艦とすべての任務をこなせる汎用駆逐艦であり、軽巡洋艦である「川内」型は、汎用ではあっても、対空、対艦に指向しているため、地中海での運用が可能とされていた。ただし、これら艦艇をフルに稼動させるには、各種誘導弾の補給が欠かせなかった。補給艦や輸送艦だけでは心もとないものであった。


 しかし、ここで立ち上がったのが、聨合艦隊に徴用され、この世界に出現した支援艦艇の民間人船員により、設立された中津島海運株式会社であった。彼ら民間人には最新鋭の貨物船や貨客船、客船が報酬として皇国より支給され、海運会社社員となっていた。もちろん、専課教育を受けており、最新技術の使用にも耐えるまでになっていた。もっとも、最新の艦艇は省力化が進み、余剰人員が多く出ていたが、陸で会社の運営に携わるもの、軍に志願するものといた。そして、対独参戦により、志願して聨合艦隊に対する各種装備の補給および輸送に携わっていたのである。


 これにより、少なくとも、マダガスカル島までの輸送は確保されていたといえる。そこから先が問題ではあったが、英本土向けの装備も多数、マダガスカル島に集積されることとなり、英国に対する補給も時間が短縮されることとなった。中には、はるばる英国まで足を伸ばす船も見られたという。


 もうひとつ、皇国以外に対独参戦した国があった。東南アジアで唯一の独立国であったタイ王国である。タイ王国には皇国から旧聨合艦隊所属艦艇、「陽炎」型駆逐艦が供与あるいは売却されており、導入二年を経てようやく艦艇にも慣れ、インド洋での船団護衛任務についていたのである。「陽炎」型駆逐艦は他の艦艇に比べれば新しく、その多くは英仏泰に売却されていた。「吹雪」型駆逐艦以前の艦艇はオランダや中華民国、満州国、大韓民国に供与あるいは売却されている。皇国がタイ王国に新鋭艦を供与あるいは売却しているのには理由があった。この世界でも、かの国は親日国家であったからである。


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