表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/81

マダガスカル島攻略

 マダガスカル島に航空攻撃を行う場合、航空母艦は五○〇浬以内に接近しなければならなかった。それ以上は慣れていると、攻撃隊が帰還し得ないからである。当時の航空機は戦闘行動半径が概ね六○○kmほどであったが、<流星>は八○○kmを超える。しかし、あまり沿岸部に接近すれば、艦艇の攻撃を受けやすくなる。高速の魚雷艇やフリゲートなどがその代表である。今はレーダーがあるから不意打ちを避けることはできるが、これら多数の艦艇から誘導弾の飽和攻撃を受けるようなことがあれば、対応できないと考えられた。


 先の空中戦で使われたドイツ製の対艦誘導弾、後にフィーゼラー Fi106と判明する、は射程が五〇kmであり、艦艇用の場合、もう少し射程が延びると思われた、が多数同時に放たれれば、被害は避けられないと判断されていた。実際、第一艦隊を襲った攻撃は、この誘導弾と潜水艦の魚雷の同時攻撃であった。ために、『長門』と『陸奥』は魚雷一本を被雷、『那智』は第二砲塔に誘導弾を直撃され、『長門』『陸奥』は小破、『那智』は中破の判定を受けていた。そして、死者四九人負傷者三○六人の被害を出していたである。


 この日早朝、第一機動艦隊はマダガスカル島東方四五〇浬まで接近し、『飛龍』を除く空母から一四四機の航空機を発艦させた。うち、二/三は対空装備であり、残りはすべて対地攻撃装備であった。むろん、対地攻撃装備とはいえ、通常爆弾は一切搭載していない。○六式空対地誘導弾装備であった。前日夜の強行偵察で攻撃箇所はすべて把握していた。○六式空対地誘導弾の終末誘導は画像であり、攻撃目標に対する画像が必要であった。そのための強行偵察は欠かせないものであった。


 発艦した攻撃隊は高度を三〇〇m以上に上げることなく、それぞれの射撃地点の到着すると、装備していた四発の○六式空対地誘導弾を次々に発射していく。○六式空対地誘導弾は地形追従航行が可能であり、巡航モードにおいては高度二〇m以下を飛行し、目的地手前五kmで五〇〇mまで上昇し、そこで最終目標に向かって降下する。そのため、直前まではレーダーには映らないとされている。今回も一部の機体には対レーダー誘導弾である○四式空対地誘導弾が装備されており、○六式空対地誘導弾の発射前に既に発射されていた、


 その総数は八発、マダガスカル島北部の八箇所のレーダーサイトに向かって発射されていた。この世界では、レーダー万能という考えが蔓延しており、対空監視、対水上監視、誘導弾の誘導など、多くの場合をレーダーに頼っていた。裏を返せば、レーダーを不能にしてしまえば、それなりの隙が生まれることを意味していたといえる。対レーダー誘導弾は自らレーダーを発することなく、目標のレーダー波を受信し、それに向かって飛翔するというものであった。ただし、この世界では未だセンチ波レーダーが主流であり、ミリ波やマイクロ波はまだ実用されていなかったため、誘導弾の側にもそれなりの調整が必要であったといわれている。


「レーダー波停止!対レーダー誘導弾すべて命中!目標を撃破しました!」

「二一一空、二一二空(ともに二航戦『隼鷹』所属)、二二一空、二二二空(ともに二航戦『飛鷹』所属)、攻撃開始しました!」

「一二一空(一航戦『蒼龍』所属)、敵迎撃機と交戦!」


 オペレーターの報告が次々と続く。第一機動艦隊旗艦『白根』が他の艦艇と大きく異なるのは、司令部施設があるだけではなく、その乗員数にあった。異常に多いのである。これは第一機動艦隊すべての艦艇に対する指令や各艦からの報告をまとめる必要があるからであった。以前のように、各参謀が常に山口中将のそばにいるわけではなく、各部署にあった。戦闘中は常にCICにいるが、それとて、山口とは一線を引いており、常に山口の下にあるのは主席参謀の大井だけであった(参謀長がいれば参謀長がその任に就く)が、本来、主席参謀というのは存在しない。少佐である大井を参謀長とするわけにはいかないため、山口が思いつき、実行したのである。


 ともあれ、マダガスカル島攻略戦は始まったのである。予定では、航空攻撃により、レーダー施設、対空陣地を壊滅させ、制空権を確保する。その後は二個海兵旅団の敵前上陸、マダガスカル島制圧、ということになっていた。制空権を確保することにより、上陸支援にあたるヘリ<スーパースタリオン>の安全性を高め、上陸作戦を容易に進めるためであった。航空兵力が予想以上に多いことから、陸上兵力も当初の予測よりも多いと考えられていたからである。


 海上では、上陸の準備とともに、対潜哨戒がいつも以上に厳密に行われていた。ほぼ巡航速度で同じ地点で円を描くように航行している艦隊にとってはもっとも警戒するのが空からの攻撃と潜水艦からの攻撃であった。水上艦艇は前日の戦いにおいて、ほぼ殲滅したと考えられており、あまり考慮されてはいなかった。


「主席参謀、敵陸上戦力はどれほどだと思う?」

「はっ、航空兵力の増強も考えると、一個師団から三個師団程度と思われます。この地はフランスの植民地でありますから、特にフランス軍は最低でも一個師団は配備されていると考えるのが妥当かと思われます」

「なぜそれほどの兵力が必要なのか判らないのだが、どう思う?」

「たしかに、ここマダガスカル島民は独立紛争は起こしていませんし、正規軍は一個連隊もいれば十分です。われわれの過去の場合、七〇〇〇人ほど、その多くは現地兵だったとされています。ただ、独海軍空母一隻、仏海軍空母二隻が確認されており、ジャカルタかバレンバンへの増強部隊、あるいは、何らかの侵攻作戦、たとえば、カラチとかアンダマン諸島の占領を狙っていたのかもしれません。そこにわれわれがジャカルタとバレンバンを確保したことで、実行が延期され、ここにとどまっていたのではないでしょうか」

「ふむ、何かそれらしい情報でもあったかね?」

「いいえ、ジャカルタやバレンバンの戦力が少なすぎました。陸戦隊と一個連隊の戦力でわれわれが確保できたので、何かおかしいな、と考えていました。もし、増強がなされるならどこからだろうと考えていました」

「なるほど、可能性としては高いか」

「ええ、ですが、未だ陸上兵力は確認されておりませんから、偵察を続け、実態の把握が必要かと考えます」

「うむ、偵察が可能となれば実施しよう。南部のドイツ軍も気になる」

「はっ、準備はさせております」


 そうして、対地攻撃部隊は目的を果たして帰還したが、休むことなく、次の任務に就くこととなった。上空に在った一一一航空隊はそのままに、一一二航空隊は各地への偵察に向かったのである。マダガスカル島だけではなく、レユニオンやモーリシャスに向かう編隊もあった。


 偵察の結果、北部のアンツィラナナ(ディエゴ・スアレス)、北東部のマルアンツェトラへの上陸が決定されることとなった。アンツィラナナには第一海兵旅団(司令官大田少将)と、マルアンツェトラへは第二海兵旅団(司令官一木少将)がそれぞれ担当することとなった。支援艦は、アンツィラナナには『長門』『陸奥』が、マルアンツェトラには『大和』がつくこととなり、二派に分派されることとなった、


 戦艦の接近に対して、アンツィラナナからは生き残っていた沿岸砲(ドイツ製の二八cm砲)が応戦したが、『長門』『陸奥』の四〇.六cm砲の反撃を受けて沈黙することとなった。戦艦の艦砲射撃は航空攻撃の比ではなく、フランス軍は戦意を消失したといわれている。上陸にはほとんど抵抗がなく、橋頭堡の確保に成功している。マルアンツェトラでは無血上陸であり、『大和』の主砲が使用されることはなかった。


 もっとも、これでマダガスカル島攻略は成ったわけではなかった。そもそも、マダガスカル島攻略の目的はインド洋の制海権を確保し、独海軍水上艦艇や潜水艦の活動を阻止することにあった。それには、マダガスカル島南部のアンブブンベにある独軍基地を破壊するか確保する必要があった。確保するのがよいのであるが、現状戦力では不可能であった。結果として、基地を破壊せしめ、確保は本土からの援軍が到着次第実施されることとなった。


 マダガスカル島北部のヴィシーフランス軍は港湾に多数の艦艇が停泊したことにより、降伏、皇国軍の捕虜となった。彼らによれば、フランス軍は正規兵が七〇〇〇人、現地兵が七〇〇〇人の合わせて一個師団規模であり、正規兵の二/三が死傷したという。なお、ドイツ軍に関する情報提供では、二万人強、一個師団と一個旅団を要している、としていた。


 翌日からアンブブンベに対する偵察が強化されることとなった。対レーダー誘導弾攻撃は実施されていたが、対地攻撃は行われてはいない。これは、上陸作戦はマダガスカル島北部と定められており、南部への攻撃は行われていなかったことが理由であった。偵察に対する妨害もなく、結果として、艦艇はほとんどなく、地上兵力も一個旅団程度と確認された。これまで何度か電波の発信を確認していたが、昨夜以降、それも確認されていなかった。


 三日後、第一艦隊司令長官高須四郎中将の意見により、アンブブンベに対する攻撃が実行されることとなった。攻撃艦は『大和』とされた。航空支援に二航戦があたることとされた。『大和』の接近に伴い、アンツィラナナのときと同じように四基の要塞砲が発射された。『大和』に二発が命中するも、はじき返していた。そして、『大和』の四五.七cm主砲がこの世界で初めてドイツ軍に向けて発射されたのである。五斉射で要塞砲は壊滅、周辺には巨大なクレーターが出現することとなった。八斉射で白旗が上がることとなった。念のためにと、帯同していた第二海兵旅団隷下の一個大隊が上陸する。こうして、マダガスカル島にあった有力な部隊は壊滅することとなった。


 彼らの早期の降伏、それは海軍戦力の壊滅にあったとされる。少なくとも、一連の戦いにおいて、独仏海軍は空母三隻撃沈破、巡洋艦六隻撃沈、駆逐艦一六隻撃沈という損害を蒙っていたのである。これが彼ら植民地軍や派遣軍を精神的に追い詰めていたとされる。なお、アンブブンベからは独軍一個師団が脱出しており、西に向かったとされている。これが、アンブブンベに稼動艦艇がなく、地上兵力も一個旅団しか存在しない理由であった。


 ヴィシーフランス海軍は空母一隻を消失、その他多くの艦が撃沈破され、生き残った艦艇は降伏してアンツィラナナに帰港している。生き残ったのは大破した空母一隻と駆逐艦六隻のみであった、こうして、インド洋における独仏海軍水上艦艇は壊滅し、インド洋の制海権は皇国および連合軍が確保することとなったのである。これは枢軸軍海軍戦力、特に空母戦力をほぼ消失したことは、ドイツ海軍の戦略転換を強いる事となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ