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モーリシャス沖空戦

 このとき、第一機動艦隊側では相手はドイツ海軍の「グラーフ・ツェッペリン」型航空母艦と一六隻程度の護衛艦艇からなる機動部隊であると考えていたが、実はもう一つ見逃していたことがあった。それが、ヴィシーフランス海軍の「ジョフレ」型航空母艦二隻であった。この当時、フランス海軍には三隻の航空母艦があり、そのうち、『ベアルン』が自由フランス側にあり、「ジョフレ」型は未完成とされていた。しかし、実際には二隻とも竣工し、ヴィシーフランス海軍に編入されていたのである。『ジョフレ』『パンルヴェ』の二隻のうち、『パンルヴェ』はマダガスカル島への航空機輸送任務についており、同地にあった。


 モーリシャス北方沖、第一機動艦隊は三群の航空攻撃を受けることとなった。ひとつは、『ペーター・ストラッセル』から発進したドイツ海軍機、ひとつは、マダガスカル島から発進した独仏混成部隊、そして、『パンルヴェ』から発進したヴィシーフランス海軍機である。しかも、時間差攻撃であり、四方からの攻撃となった。


 最初に接触したのはマダガスカル島からのドイツ空軍機であり、フォッケウルフTa185Aが三二機の編隊であった。これに立ち向かったのは、上空にあった四八機のうち、『蒼龍』所属の一二機であった。さらにE2D<ホークアイII>の機上レーダーはその後方五〇kmに別の編隊を捉えていた。機数は二七機であり、最初の編隊よりも北から現れたのである。これには『隼鷹』所属の一二機を迎撃に向かわせている。


 この間にも第一機動艦隊の空母からは続々と発艦作業が続けられていたが、訓練のときに比べれば、はるかに遅かったといえる。これは、航空隊要員が半ばパニック状態であったからだという。つまり、予定外の発艦作業であったのだった。明日のマダガスカル島攻撃に向けて各空母の二四機は待機とされており、残る九六機がこの日の稼動機とされていたのである。


 既に『飛鷹』所属の一二機は独機動艦隊の攻撃に向かっており、『蒼龍』所属の一二機はその護衛に、『隼鷹』所属の一二機は艦隊防空の任に充てる予定だったからである。今は『飛龍』と『飛鷹』から一二機ずつが艦隊防空のために発艦を行っているところであった。当初、『飛龍』所属機だけの予定であったが、もし、迎撃網を突破されたときのために、大井少佐の進言により、『飛鷹』からも発艦させることとなったのである。『蒼龍』所属の一二機は対艦攻撃装備を終えて待機していたが、これは独艦隊に対する第二次攻撃のための備えであった。


「長官!新たな編隊が現れました!本艦の南西、距離二五〇、高度七〇〇〇、機数三〇、速度一○〇〇、方向から考えて独艦隊の艦載機と思われます。『飛龍』の一二機を向かわせましょう!」薄暗いCICの中で大井が山口にいう。

「うむ、許可する。直ちにむかわせろ!」

「はっ!」

「主席参謀、こんなに航空機があるとの情報はあったか?」

「いいえ!独艦隊が現れたと聞いていましたので、四〇機ほどかと考えておりました」

「うむ、西から現れた機体と北西から現れた機体は同じものだと思うか?わしは別の機体だと思う。速度が違いすぎるからな」

「電測に確認させます」

「『蒼龍』隊が誘導弾を発射!交戦が始まりました!」オペレーターが報告する。

「始まったか」

「『隼鷹』隊が誘導弾発射!交戦始まりました」再びオペレーターが報告した。

「長官、IFF(敵味方識別装置)装置の種類が異なる、といっています。西からと南からのは同じで、撃墜したドイツ機と同じと思われます。が、北西からのは明らかに異なるようです。ヴィシーフランス軍かもしれません」

「やはりか」

「北方より新たな編隊出現、距離距離二五〇、高度八〇〇〇、機数二四、速度一四〇〇!」オペレーターが叫ぶようにいう。

「なに?ヴィシーフランス軍か!」

「長官、ヴィシーフランスにも空母があるようです。まだ完成されていないとの情報でしたが、既に完成していたのかもしれません」

「攻撃隊を出そう」

「だめです。敵の航空機が近すぎます。ここは上空の半数を迎撃に向かわせて、一段落したら改めて攻撃隊を向けましょう」

「そうだな、そうしてくれ」

「○時方向より高速飛翔体二、距離四五!さらに二時方向より高速飛翔体二、距離五〇!誘導弾です!」

「○時は『五月雨』『春雨』を指定!二時は七戦隊を指定!迎撃させよ」大井の反応はすばやかったが、命令後、山口に向かって深く頭を下げる」

「相変わらずすばやいな、どうすればそうなれるか知りたいものだよ」笑って山口がいう。

「申し訳ありません。個艦の位置だけは把握するようにしています」

「なるほどな。いちいち確認していたのでは誘導弾戦に対応できないか」

「はっ」

「○時の誘導弾二基、撃破成功!二時の二基、撃破成功、ともに被害なし」

「見事でした」

「いや、彼らは満足していないだろう、主席参謀。「たかなみ」型のシステムであれば、一隻で対応できると聞いたからね。船体はともかくとして、電装システムは「たかなみ」型そのままだから同じ能力を有していると考えている」

「はっ」

「長官、村田少佐より入電、我、独艦隊を攻撃せり、駆逐艦八撃沈確実、巡洋艦二撃沈確実、空母一撃沈確実、残余艦は駆逐艦八隻、味方には被害なし、これより帰投す、以上です」そこに大沢通信参謀が攻撃隊の成果を告げる。

「空母は一隻だけだったか」

「艦を派遣しますか?」

「いや、村田によれば、残余の駆逐艦は逃げずに救助にかかっているという。ならば、無用だ」

「はっ、ではこのまま」

「三時の編隊から四基の高速飛翔体確認!一航戦に接近!」オペレーターの報告を聞いて、山口はいった。

「四水戦を攻撃艦に指定!誘導弾撃破後、『蒼龍』は攻撃隊発艦!」

「四水戦に下命、迎撃せよ!誘導弾撃破後、『蒼龍』の攻撃隊発艦!」大井が復唱する。そして思う。この人はなおも進歩しているのだと。


 この戦いにおいて、航空隊はAAM-4を発射しただけで格闘戦は経験していない。攻撃隊においてもASM-2を射程ぎりぎりで発射しただけであり、航空隊には被害がなかった。ただし、敵編隊はいずれも一/四が離脱していた。空対空誘導弾の命中率が悪いわけではなく、発射に戸惑った結果、だといえた。<流星>に搭載のFCS(火器管制装置)には、F-15<イーグル>やF-2のように複数同時攻撃能力は付与されてなかったからである。しかも、編隊戦であったことから、ロックオンした目標が攻撃目標となりえなかった場合もあったといっていた。


 つまるところ、多くの将兵にとっては、この戦いが初めての実戦であった、ということに尽きるだろう。分業化されている艦艇の乗員と異なり、航空機のパイロットはすべてを二人でこなさなければならない。しかも、彼らの時代とはその対応速度がまるっきり異なる。対艦攻撃においては一五〇km離れているから、時間もあり、ゆっくりと操作できるかもしれないが、対戦闘機の場合はそうではなく、秒刻みの対応が求められる。


 まだ、多くのパイロットはそれに順応できていないといえた。否、有視界での近接戦においては既に反応できていた、といえるが、中距離での誘導弾戦などには対応できていなかったといえた。ここに、F/A-5<流星>が複座である理由があった。単座であれば、戦力化にもっと時間を要していたとされている。


 一番の違いは、ロッテ単位での行動にあったといえるだろう。旧大日本帝国海軍航空隊では、三機で一個分隊、三個分隊で一個小隊、三個小隊で一個中隊という編成であった。それが二機で一個分隊、二個分隊で一個小隊、三個小隊で一個中隊、二個中隊で一個航空隊という編成で、常に二機で行動することが定められていた。しかし、今回は中隊規模の編隊空戦であり、これも大きく影響していた。


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