マカッサル海峡
前話でもお判かりのように山口多聞中将を主役級にい選びました。空母主体の機動部隊の活躍を描きたいと思ったからです。しかし、戦闘シーンはあまり出ないかもしれません。今回はミサイル迎撃シーンを描いてみましたが、難しいですね。なお、文中では極力誘導弾という言葉を使います。
感想ありがとうございました。返信させていただきました。
第一機動艦隊がセレベス海に入ったのは五月三日○四五○時であった。このとき、艦隊は三つの輪形陣に分かれていた。ひとつは『白根』を中心に第九戦隊、第二八駆逐隊の小さい輪形陣、ひとつは第一航空戦隊と第七戦隊、第四水雷戦隊、第五水雷戦隊の輪形陣、いまひとつは第二航空戦隊と第八戦隊、第六水雷戦隊、第七水雷戦隊の輪形陣である。セレベス海に入ったところで、五水戦と六水戦が輪形陣を離れて最前列に出た。これで後方の輪形陣は二つが一つになったかのような輪形陣になった。
この艦隊を探知している者がいた。それはセレベス島(スラウェシ島)最北部のマナド沖の海中にいた。独潜水艦U-八八九であった。Uボートの中では小型の部類に入る一○○○トン級で、皇国の宣戦布告後、マカッサル海峡北部での哨戒任務に当たっていたのである。通常、海側から沿岸部に存在する潜水艦を発見するのは困難であるとされている。しかし、哨戒という任務の都合上連絡しなければならず、それがU-八八九の命運を決めることとなった。
無音浮上したまではよかったが、電波発信により、第一機動艦隊は独潜水艦の存在に気づくこととなった。すべての艦に最新鋭の電装品を装備していたことから、電波発信を探知したのである。
「不審電波発信探知!」旗艦『白根』の電測員が告げる。
「発信地点特定はできたか?」『白根』艦長の松山信二中佐が聞いた。彼は移転組ではなく、皇国海軍からの配属であった。
「特定できました!『北上』のヘリが向かっています」
「長官!独潜水艦であった場合、攻撃しますか?」
「主席参謀、聞くまでもなかろう。武器使用自由、と通達せよ」
「はっ!通信参謀、全艦隊に武器使用自由を発令!」大井が山口の確認を取って通信参謀に告げる。
「はっ!直ちに」
平時、戦時問わず、自軍の潜水艦の音紋はすべての艦艇のライブラリに保存されており、不明潜水艦の音紋と照会し、一致しなければ攻撃可能となる。英仏蘭の潜水艦である可能性もあるが、皇国は浮上しなければ攻撃を加える可能性を通達していた。ために、浮上せずに電波発信を行ったこの潜水艦を九割がたドイツ海軍の潜水艦であると断定していた。
「『北上』のヘリが上空に到着し、ソノブイを投下しました。ドイツ潜水艦の独特な機関音を探知したようです。一番近い『潮』を攻撃艦に指定しました」
「もう探知と音紋確認をしたのか?」
「敵潜が移動を始めました。音紋も友軍のものではありません!」
このとき、皇国潜水艦によってドイツ潜水艦の独特な機関音が報告されていた。ディーゼル機関ではなく、別の機関を搭載していることが確認されていた。後に判明するが、過酸化水素を用いたスターリング機関、ワルター機関であった。燃焼に酸素を必要としないため、水中でも稼動が可能であったとされている。ただし、原子力と異なり、酸素発生装置や海水から真水の精製はできないため、潜行したままではないとされていた。
「『北上』から攻撃指令が出て、『潮』がアスロックを発射しました!」
「通信、アスロックは何発発射したかわかるか?」
「はっ、一発だけです。主席参謀」
「アスロック着水、魚雷航走始めました」電側員が告げる。
「弾着、今!」着水から三分後、電測員がヘッドセットを外しながらいったとき、ズンという命中音と少し遅れて爆発音が感じられた。後方七時の方向で海面が盛上がるのも確認された。
「ヘリからです。油および浮遊物を確認したそうです」
「よし、『潮』に確認させよう。艦隊は予定通り進むぞ」
「はっ、『潮』を確認艦に指定、艦隊進路そのまま」
「長官、敵潜の電波発信が気になります。マカッサル海峡の出口で待ち伏せの可能性があります。当艦のヘリも索敵に参加させるよう進言します」
「うむ、全艦に通達、対潜警戒を厳となせ、当艦の搭載ヘリも発進準備をさせよ」
「はっ、通達します」
「それと中津島および第一艦隊に報告だ、我、敵潜一隻撃沈、とな」
「はっ!」
マカッサル海峡突入後、第一機動艦隊は思わぬ攻撃を受けることとなった。それは、セレベス島からのミサイル攻撃であった。セレベス島はアルファベットのKの字の垂直の棒が上部で右に折れ曲がっている形の島で、南部と北部の関係は希薄であることが知られており、島内の統一は難しいとされていた。南部は欧州よりで、北部は反欧州よりであったとされていた。
マカッサル海峡に入ったときの第一機動艦隊の編成は一航戦、司令艦、二航戦の順序であった。海峡のほぼ中央、パルの沖に達したとき、各艦艇のレーダー逆探知が確認されたのとほぼ同時にレーダーが四個の光点を探知した。距離はおおよそ八〇km、そして、これにもっとも早く反応したのが『白根』であった。
「艦長、迎撃を頼みます」というのが、電測員の報告に大井が答えたものである。
「了解!当艦が攻撃艦と指定、○八式一番から四番発射!、ファランクス起動!」
「全艦隊にファランクスの起動を通達!」続けて大井が自らマイクを取って通達する。
「当艦の対空誘導弾、四発発射を確認、敵誘導弾に向かって飛翔中」
「誘導弾発射地点特定急げ!特定次第、上空の板谷少佐に通達!」
「板谷少佐より、誘導弾発射艦は潜水艦なり、我、これより攻撃す、です」
このとき、艦隊上空には八機の<流星>が上がっており、そのうちの一機に板谷茂少佐機があった。CAP(戦闘空中哨戒)についていたのである。兵装はAAM-3(短距離空対空誘導弾で旧自衛隊時に開発)四発とASM-1(空対艦誘導弾で旧自衛隊時に開発)二発を装備していた。彼はいち早く誘導弾発射方向に向かっていたようである。
「誘導弾三発撃破確認!一発はなおも『隼鷹』に向かって飛翔中、七水戦『北上』、○八式誘導弾発射確認!」
「『北上』の行動は早い!」思わず声を上げた大井であったが、それに答えたのは『白根』艦長の松山海軍中佐であった。
「よほど艦長や司令との連絡がうまくいっているようだ」
「最後の誘導弾撃破!レーダーに敵性反応なし!」
「板谷少佐より入電!潜水艦に対艦誘導弾命中、撃沈確実なり、です」
「長官、申し訳ありません。自分は・・・」
「よい、気にするな。しかし、誘導弾戦とはこんなに凄いものとは思わなかったよ。聞くとやるではまったく違う。主席参謀、今後も頼む」自分が越権行為を犯したことに大井は気づき、謝罪したが、山口中将は最後まで言わせず、笑っていった。
「はっ!全力を尽くします。敵潜水艦はどういたしますか?」
「沈没を確認するだけでよい。島の反対側だから、艦を派遣している余裕はない」
「はっ」
「それよりも次だ。おそらく、群狼作戦だろう、潜水艦を探知次第攻撃開始と、魚雷に注意するよう通達せよ」
「はっ、直ちに」
その後、何事もなく航行を続けたが、先行の五水戦と六水戦の対潜ヘリと『白根』の対潜ヘリがMADとソノブイの投下により、二隻の潜水艦を発見し、今度は自らが装備する短魚雷による攻撃を慣行、二隻のうち、一隻を撃沈、一隻は浮上して乗員が脱出後沈没させた。この攻撃後、新たに二隻の潜水艦を発見し、駆逐艦のアスロック対潜ロケットにて撃沈している。魚雷は八発が放たれたが、慌てていて調整が間に合わなかったのか被害はなかった。
海峡を抜けると、山口の命令により、元の輪形陣に戻し、各空母は攻撃隊発艦準備にかかった。「飛龍」型航空母艦は「キティホーク」型と同じ位置にエレベーター三基(「キティホーク」型は四基)、右舷艦橋前部に二基、左舷最後方に一基がある配置であった。発艦準備とともに、三基のエレベーターから<流星>が上げられ、三基のスチームカタパルトにセットされると次々と発艦していった。最後に、『飛龍』から双発レシプロ機が射出されていった。これはE2D<ホークアイII>であった。むろん、<ホークアイII>は艦隊上空の哨戒任務に就くために上げられたのであり、攻撃には参加しない。
四八機の攻撃隊は一路ジャカルタに向かっていったが、攻撃隊長を務める淵田美津雄中佐とその僚機には他とは異なる兵装が装備されていた。移転暦四年に開発された○四式誘導弾(AGM-88HARMと同様の能力を持っていた)という対レーダー誘導弾を二発装備していたのである。これはジャカルタとバレンバンのレーダー施設を破壊するための装備であった。多くの国が対空誘導弾を装備しており、その主流となっているのがセミアクティブレーダーホーミング方式をとっていたからである。この地対空誘導弾を封じるためにもレーダー施設の破壊が必要であった。
ともあれ、こうしてドイツとの戦いが幕を開けることとなった。緒戦においては皇国聨合艦隊は被害を出さずにすんでいたが、対潜戦闘はともかくとして、対空戦闘には不安を残す形となった。これは仕方がないといえる。テレビゲームを通じて電子機器に慣れ親しんだ皇国軍人とテレビすらなかった旧大日本帝国軍人との差はあまりにも大きいといえただろう。彼らが現代戦に対応できるかどうかは未だ不明点が大きいといえた。それは誘導弾戦を体験した山口中将の言葉にも表れていたといえる。