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欧州・北米情勢

 移転暦五年九月一日のドイツ軍のポーランド侵攻によって始まった欧州戦は、ほぼ史実と同様の進捗を見せていた。ほぼ、というのは史実では発生していたナルヴィク沖海戦は発生しておらず、トロンヘイムおよびナルヴィク奪還作戦は実施されていない。さらに、対英侵攻作戦は史実とは異なり、八月にヒトラーの命令で延期されていた。当然ながら翌年九月二七日に締結された日独伊三国同盟は締結されていない。それ以後、史実とは異なる展開が始まることとなった。


 ユダヤ人隔離政策は史実同様に行われており、これに対して皇国はすべてのユダヤ人受け入れを表明していた。史実でも起こった忌まわしい事件を避けたいと考えたのである。そのため、大型貨物船(二万トンクラス)を改装した輸送船を五隻、改装の終わった「陽炎」型駆逐艦六隻(乗員は皇国軍人)を派遣していた。貨物船を改装した輸送船にしたのは、皇国では人を多量に輸送できる客船がなかったことに加え、遠距離航海できる艦艇がなかったことにあった。また、改装の終わった「陽炎」型駆逐艦を護衛につけたのには、重油で動かせる高速艦艇が皇国に存在しなかったことにあった。皇国が参戦するまでの三年間で約五〇万人が脱出していた。


 欧州戦開戦後三年目、この世界では移転暦七年二月(史実では六月)、独ソ戦が始まることとなり、皇国とソ連は中立条約を締結することとなった。皇国は欧州から脱出するユダヤ人のシベリア鉄道使用と安全を保障するという条件をつけている。こうして、極東での軍事緊張は氷解することとなった。しかし、ドイツ軍の勢いはとどまらず、同年一二月にはレニングラードおよびモスクワが陥落、ドイツ軍の占領下に置かれることとなった。


 一二月、ドイツ軍はグルジアに達しており、ソ連軍と激しい戦闘を繰り広げていた。アゼルバイジャンが、否、バクーが落ちれば、この地の油田を失うことはソ連軍の継戦能力が消失することになりかねないのである。なんとしても死守するようスターリンは命じていた。この頃、スターリンをはじめとするソ連政府はヴォルゴグラードからオレンブルクに逃れていたのである。


 欧州で自己の国土を守っていたのは英国だけであり、オランダ、ベルギー、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランドはじめ、北欧やバルト三国は既にドイツの占領下にあった。中立国たるスイスやスペイン、ポルトガルなどを除けばすべてがドイツの占領下にあったといえる。フランスは史実と同じくドイツ傀儡国家のヴィシーフランスと自由フランスとに分裂、インド洋の多くの植民地軍はヴィシーフランスに参加していた。例外は仏領インドシナ軍だけであったといえる。


 ドイツ軍に占領された地域、オランダ、ベルギー、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンなどは英国で亡命政府を樹立し、対独宣戦布告していた。しかし、戦力はほとんどなく、抗戦は不可能であった。海軍兵力の多くは失われ、陸軍兵力は皆無に等しいといえた。そんな時、皇国から旧式ではあるが軽巡洋艦や駆逐艦の売却の話が飛び込んだのである。特に英国やオランダ、フランスは興味を示した。旧式とはいえ、船団護衛には十分有用であると考えられ、多くの聨合艦隊所属艦艇は近代化(主にレーダー装備とソナーの更新、対潜攻撃兵装の追加)を施した上で売却されていった。


 もっとも、欧州まで回航され、戦力化されることは少なかった。多くは東南アジア地域での運用に留められ、少数が欧州まで回航されていた。欧州まで回航する、とはいえ、それは簡単なものではなかった。インド洋や東南アジアではドイツ海軍潜水艦が精力的に活動していたからである。唯一、大西洋から東南アジアまで安全に移動する手段は、皇国やアメリカ合衆国、アメリカ連合国の艦艇だけであったとされている。


 結果として、欧州各国の海軍将兵が英国や中立国から皇国籍の艦艇により、東南アジアまで渡航し、皇国から購入した軽巡洋艦や駆逐艦に乗り込み、訓練を終えて欧州に向かうということになった。英国では植民地からの将兵、オーストラリアやニュージーランド軍による護衛部隊編成がなされ、インド洋での護衛任務に就くことが多かったとされている。


 地中海はその多くがドイツが支配しており、英国が支配していたのは地中海東部とマルタ島だけであった。そのため、多くの艦艇は希望岬周りで向かうこととなった。これは時間を要するだけではなく、ドイツ海軍の潜水艦による攻撃に晒されやすいことを意味していた。フランス植民地軍の多くがヴィシーフランス支持に回っていたため、ドイツ海軍はそれらの島で補給を受けることができたからである。


 それでも英国は、国土とその近海、ジブラルタル、エジプト、インドなど植民地を維持していた。ドイツより優れていたレーダー技術と対空兵装(史実のスタンダードミサイルSM-1に類似)、対潜兵装(ボフォース対潜誘導ロケット)により、完全とはいえないまでも、最低限のシーレーン防衛はなされていた。しかし、ドイツ軍が中東に達すれば話は変わってくると思われた。


 イタリアは欧州戦勃発後にドイツに接近し、同盟国であったが、それほどドイツに信用されているわけではなかった。ドイツより与えられたのはマルタ島の制圧、地中海の支配、バルカン半島の制圧であったが、それは未だなされてはいなかった。


 そう、中立国であるスイス、スペイン、ポルトガル、国土を維持している英国を除けば、欧州はドイツの支配下にあったといえるだろう。史実とは異なり、地中海南岸の北アフリカにはドイツ軍は侵攻していなかった。さらにいえば、地中海にもそれほど戦力を割いているわけではなかった。ルーマニアのモレニ油田は押さえてはいたが、南進することなく、東進していたのである。


 他方、新大陸の移民国家はどうなっていたか、といえば、南北戦争以後、アメリカ合衆国とアメリカ連合国の対立が続いていたが、アメリカ連合国が優勢であり、ついにアメリカ合衆国を併合するかに思えた。しかし、人種差別政策が強く打ち出された結果、黒人と有色人種、それを支持する白人(ドイツ系、ラテン系)たちとに分裂していたのである。さらに、開発の遅れていた西部との格差が対立を生み、欧州戦勃発時には、西部および太平洋側にアメリカ合衆国が成立、東部および大西洋側のアメリカ連合国とに分かれていた。


 アメリカ合衆国の構成州はワシントン、オレゴン、ネバダ、カリフォルニア、モンタナ、ワイオミング、コロラド、ノースダコタ、サウスダコタ、ユタ、ニューメキシコ、アラスカ、ハワイであり、それ以外の諸州はアメリカ連合国に属していたのである。ここでも、アメリカ連合国の優勢(皇国が接触した頃にはミネソタはアメリカ合衆国に所属していた)により、近年中に統一されるかに思えた。が、欧州大戦勃発により休戦条約が結ばれ、仮りそめとはいえ、安定をみせていた。


 時のアメリカ連合国大統領、フランクリン・D・ルーズベルトは英国首相、チャーチルの要請により、対独参戦を決意していたものの、議会はそれを許すことはなかった。まず国内統一を考える議員が多かったとされている。何とかレンドリース法を通過させたものの、米連合国の技術力は英国よりも劣っており、それは裏を返せば、ドイツよりも劣っていたということになる。


 他方、米合衆国は早々に英国支持を打ち出したものの、太平洋側にあること、工業地帯が再編されていないことから、英国への援助は難しいといえた。それでも、可能な限りの支援は惜しまなかった。パナマ運河(米連合が支配していたが援英の貨物船のみ通過可能であった)を利用しての援助物資(多くは食料品や医薬品であった)を輸送している。さらに、東南アジアへの物資もハワイを軽油して始めてもいた。


 しかし、双方にいえることであるが、兵士の派遣は難しいとされていた。それは米大陸においてにらみ合いが続いており、休戦期間中とはいえ、兵を割くことなど不可能であると双方は考えていたようであった。だからこそ、生活物資や武器弾薬の援助にとどまっていたのである。


 つまるところ、兵力を動かせば、休戦条約を反故にされて国内に侵略されることを双方とも恐れていたといえる。もっとも、米合衆国は現大統領に東進の意思がなかったのであるが、米連合国側はそれを知ることはなかったのである。むしろ、ルーズベルトのほうに、西進の意思があったとされている。欧州大戦が始まるまでは、祖国統一、という演説をよく行っており、軍事行動も行っていたからだとされる。


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