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魔物ジビエは罪の味  作者: しげ


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2/2

#2 スライムの味

 さっきはスライムのせいで酷い目にあった。

 よく考えたら、草原で蠢くわけのわからん緑色の物体を倒し、そのまま食おうとした俺がどうかしてた。


 俺はとりあえずスライムをポケットにしまい、地図を頼りに道を進む。


「おっといけね」


 道の小石に躓いた拍子に、スライムの破片を落としてしまった。


 不味くても食材になるかもしれないものだ。

 無駄にはしない。

 かがんで拾おうとした時だった。


「あーっ!」


 甲高い女の声。

 見ると、長い水色の髪をした少女が俺を指さしていた。


 聖職者のような白いローブを着ている。

 10代半ばくらいだろうか。

 彼女は俺の元に駆け寄り、落ちたスライムの欠片を見て俺を睨む。


「ちょっと! こんな所で何をしてるんですかあなたは! 草原はトイレじゃないんですよ!」

「……は?」


 いきなりわけの分からないことで詰められる俺。

 一体何を言ってるんだこのガキンチョは。


「しかもなんですかこの……気味の悪い色は! 病気か何かでは!?」

「待て! なんでそうなる!?」

「こんな場所で……知恵ある生物として恥ずかしくないんですか! 大地を汚す輩は許しませんわ!」


 まさかこのガキ、このスライムの破片が俺のアレだと思ってるのか? 


「んなわけねーだろ! スライムだよこれは」

「スライムぅ? そんな小さいスライムいるわけないじゃないですか! 動いてないし、ありえません! 絶対あなたのアレでしょ!」


 こんな色したクソする人間のほうがありえねえだろ。

 なるほど……魔物はすぐ塵化するから、素材として持っているのがあり得ない事態なんだろう。

 俺の尊厳のためにも、ここは証明が必要だ。


 幸いすぐ近くにスライムがいたので、そいつを素手で倒す。

 するとどうだ。

 目の前のプルプルは砕け散り、動かなくなる。

 草の上には飛散した破片。


「な、魔物が消えない……!?」


 俺はニヤリと笑ってスライムの破片を掴む。

 そしてそのまま、彼女に向かってぽいっと投げる。

 彼女は慌ててスライムを掴むと、マジマジと眺める。


「ま、まさかあなたは……!」


 気付いたか。

 この俺が、世界から飢餓を救う選ばれし【スキル】を持っていることに。


「まさかあなた、魔物ですか!?」

「なんでそうなる!」


 数分の説得の上、ようやく俺が【スキル】で魔物を素材化できるのを理解してくれた。


「はわぁ。これが素材化したスライム……ごくり」


 聞けば、ここ3日は草と穀物しか食べていないという。

 家畜じゃあるまいし……成長期にそれは辛いだろうな。

 だから胸にも栄養が──って、なんか口開けて食べようとしているぞこの子。


「はむっ……」


 あーあ。食べちゃった。

 確かにずっとロクなの食べてないんじゃ、美味しそうに見えるのかもしれないが。


「おぐぅっ!? んごぉ!? ぶふぇえ!」


 彼女はスライムを口にした瞬間、顔を真っ青にして全て吐き出してしまった。

 年頃の女の子が出していい声じゃなかったぞオイ。


「な、なんですかこの……ごほごほ! アンドラデーモンの体液で煮詰めた腐ったドリゴスのような味は……っ!」


 聞き慣れない単語だが、多分俺のエイリアンのゲロより酷い形容の仕方をしている。

 やはり現地人にとっても食えたもんじゃないらしいな。


 彼女はぺっぺと吐き切ると、スライムに欠片を地面に投げ、手から炎を射出して燃やしてしまった。


「ああ、食材を無駄にするなよ!」


 スライムは草と共に焼け焦げ──てない。

 というか、赤く染まっている。


 透明感が増し、ツヤツヤとした光沢まで放っているではないか。

 まるで、シュワシュワのコーラをゼリーにしたような

 ……これはもしかしたら。


「はむっ……」


 食べてみる。

 するとどうだろうか。


 あの臭苦いドロヘドロみたいな味は消え去り、噛むたびにはじける心地いい食感と、爽やかな香りが口に広がる。

 なんだこれ。

 めちゃくちゃ美味しいじゃないか。


「う、うめぇ……! ヘドロの煮っころがしみてえな邪物が、一瞬にして新食感スイーツに変わりやがったぜ」

「え、く、ください!」


 少女は俺からスライムを奪うと、それを口に入れて咀嚼する。


「ん、んんん〜……♡」


 ここからでもコリコリという音が聞こえてくる。

 気に入ったのか、頬を持ち上げ涙を流しながらぷるぷると震えている。

 どうやら声にも出ない美味しさらしい。


「なるほど……理解した」


 ぞう、全てをな。

 俺だけが生み出せる不味すぎる食材。

 それは調理することによって極上料理に昇華した。


 そして俺は料理人。

 何をすべきかなんて、もう分かるよ。

 この【スキル】があれば……飢えに苦しむ世界を救えるかもしれない。


「あ、あの……お願いがあります!」


 少女は突然改まり、俺に向き直って草木に額をくっつける。


「なんだ急に。まだ欲しいのか?」

「町を……救ってくれませんか! あなたなら、飢餓に苦しむ故郷を救えるかもしれない!」


 突然降り立った異界の地。

 世界に有り余るのはゲキマズ食材。

 俺の長い長い旅が──今、始まろうとしていた。

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