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第4話 探索者ギルド


 探索者育成学園の初日が終わり、

 三橋さなえは、

 車の後部座席で小さく息を吐いた。


 


 疲労はない。

 だが、

 周囲に与えた影響は、

 想定以上だった。


 


 ――少し、

 やり過ぎたか。


 


 剣を振った感触が、

 まだ手のひらに残っている。


 


 だが、

 後悔はなかった。


 


 「お嬢様、

 本日はこのまま、

 探索者ギルドへ向かいます」


 


 運転手の言葉に、

 さなえは顔を上げた。


 


 「……ギルド?」


 


 「はい。

 学園長から、

 顔見せをしておくようにと」


 


 なるほど、

 大森喜助らしい判断だ。


 


 力を持つ者は、

 管理下に置く。


 


 それは、

 どの世界でも変わらない。


 


 車は市街地を抜け、

 一角で減速した。


 


 巨大な建物が、

 視界に入る。


 


 無骨な外観。

 だが、

 人の出入りが絶えない。


 


 ――探索者ギルド。


 


 車を降りると、

 学園とは違う、

 生々しい空気が肌を刺した。


 


 覚悟と欲望。

 それが、

 入り混じっている。


 


 自動扉をくぐると、

 広いロビーが広がっていた。


 


 受付カウンター。

 掲示板。

 素材の買取窓口。


 


 さなえの目は、

 自然と動線を追っていた。


 


 ――戦場の準備が、

 よくできている。


 


 「いらっしゃいませ」


 


 明るい声が、

 正面から聞こえた。


 


 カウンターの向こうに立つのは、

 柔らかな笑顔の女性だった。


 


 「探索者ギルド関東支部、

 案内係の毛利ゆきなです」


 


 丁寧な口調。

 だが、

 目がよく動く。


 


 「本日は、

 どのようなご用件でしょうか?」


 


 「学園長の紹介だ。

 三橋さなえ」


 


 名を告げると、

 毛利の表情が、

 わずかに変わった。


 


 「……ああ、

 噂の」


 


 すぐに笑顔に戻るが、

 内心は隠せていない。


 


 「少々、

 お待ちください」


 


 奥へと連絡を入れる。


 


 その間、

 ロビーを行き交う探索者たちが、

 ちらちらとこちらを見ていた。


 


 制服姿の少女。

 しかも、

 財団令嬢。


 


 目立たない方が、

 無理だ。


 


 やがて、

 低い足音が近づいてきた。


 


 現れたのは、

 背の高い男だった。


 


 黒髪を短く整え、

 表情は硬い。


 


 「――葛城あきらだ」


 


 名乗りと同時に、

 鋭い視線が突き刺さる。


 


 「君が、

 三橋さなえか」


 


 「そうだ」


 


 短く答える。


 


 その一言だけで、

 葛城は確信したようだった。


 


 ――年齢に合わない。


 


 「こちらへ」


 


 案内されたのは、

 個室だった。


 


 簡素な机と椅子。

 だが、

 壁には無数のモニターがある。


 


 「まず確認する。

 君は、

 正式探索者ではない」


 


 「承知している」


 


 「だが、

 学園長からの報告が、

 非常に気になってな」


 


 葛城は、

 端末を操作する。


 


 表示されたのは、

 測定データだった。


 


 「スキル反応、

 ほぼゼロ」


 


 「身体能力は、

 上位探索者並み」


 


 「そして――

 剣の構えが、

 異常に洗練されている」


 


 視線が、

 鋭さを増す。


 


 「君は、

 何者だ?」


 


 正直に言うべきではない。

 剣神の転生など、

 信じられるはずがない。


 


 だが、

 嘘をつく理由もない。


 


 「……剣を、

 長く振ってきただけだ」


 


 曖昧な答え。


 


 葛城は、

 それ以上追及しなかった。


 


 「いいだろう」


 


 椅子にもたれ、

 腕を組む。


 


 「結論を言う。

 君は、

 危険だ」


 


 率直な言葉だった。


 


 「力の自覚が、

 まだ足りない」


 


 「だが同時に、

 放置できない」


 


 葛城は、

 真っ直ぐに見据える。


 


 「学園在学中は、

 ギルドが直接、

 介入はしない」


 


 「だが、

 常に監視対象とする」


 


 それは、

 保護でもあり、

 警告でもあった。


 


 「異論は?」


 


 「ない」


 


 即答した。


 


 剣を振る以上、

 見られるのは覚悟の上だ。


 


 葛城は、

 小さく息を吐いた。


 


 「……毛利」


 


 「はい」


 


 「仮登録だ。

 ランクは――

 D相当」


 


 毛利ゆきなの手が、

 一瞬止まった。


 


 「よろしいのですか?」


 


 「現時点で、

 それ以下は不自然だ」


 


 端末が、

 淡く光る。


 


 「これで、

 最低限のダンジョン入場が可能だ」


 


 カードを受け取り、

 さなえは、

 静かに立ち上がった。


 


 「忠告しておく」


 


 葛城が言う。


 


 「力を隠すなら、

 徹底しろ」


 


 「中途半端は、

 一番危ない」


 


 さなえは、

 わずかに口角を上げた。


 


 「心得ている」


 


 部屋を出ると、

 毛利が小声で話しかけてきた。


 


 「……不思議ですね。

 初めて会った気が、

 しないんです」


 


 「そうか」


 


 「はい。

 まるで――

 昔から知っているような」


 


 さなえは、

 何も答えなかった。


 


 ギルドの外に出る。


 


 夕暮れの空が、

 赤く染まっていた。


 


 剣神の魂は、

 まだ名乗らない。


 


 だが、

 世界はすでに、

 彼女を中心に動き始めている。


 


 静かに、

 確実に。



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