表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの一番になれなくて  作者: おてんば松尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/24

第3話



いつもと変わらない日々が過ぎていく。

彼は一応、浮気を隠しているつもりのようだけれど、水曜日は決まって帰りが遅かった。


私に気を遣っているのか、土日には彼女に会っていないようだ。


夫は、以前よりも私に優しくなった気がする。

ネットで浮気の兆候を調べたら、「家族に優しくなる」というのも、その特徴に当てはまると書いてあった。

浮気をしている人は、罪悪感から配偶者に優しくなるらしい。


あまりにもぴったりと当てはまってしまうので、まるでネットの情報と私たちの現状を照らし合わせているようで、不思議な気持ちになった。



***



飲料などの重たい物や、トイレットペーパーのような大きな買い物は、休日にまとめてすることが多い。


「お米を買いたいんだけど、車を出してもらってもいいかな?」


土曜日の朝、リビングで寛いでいる斗真さんにお願いした。

休みの日は午前中にジムへ行くことが多いけれど、今日は予定がないと言っていた。


「いいよ。ちょっと遠出してデパートまで行く?」


彼はそう言って私に微笑んだ。


「ふふっ、ありがとう。でも、近所のスーパーで大丈夫」


「いや、せっかく天気もいいし、少し遠くまで行こう。新しくできたショッピングモールに行ってみようか?」


「そうね……新しくできたって言っても、もう1年前よ?」


「え!もうそんなに経つのか?」


「でも、一度も行ってないから、ちょっと行ってみたいかな」


斗真さんは、前回、私の誕生日を忘れていたことに罪の意識があるみたいだ。


「加奈の誕生日だろう。何かプレゼントしたいから」


彼がそう言ってくれたので、高速に乗って大型のショッピングモールに行くことになった。

私の誕生日から10日が過ぎていた。


1時間ほどのドライブだったけど、久しぶりに2人で出かけられて、私は少し嬉しかった。


モールはとても広かった。

土曜日でお客さんは多かったが、南国風のグリーンが植えられていて、海外に来たような気分でワクワクした。

海が近いせいか潮の匂いがして、風が心地よかった。


「来週は金曜から出張なんだ。帰りは日曜だけど」

「えっ?土日に出張?」

「ああ、九州だから移動に時間がかかるんだ。だから日曜は仕事じゃないけど、休み返上になるな」


「……そっか。わかったわ」


休日に仕事なんてあり得ないなと思った。

夫の不倫疑惑は黒に近いグレーだった。

でも、これは真っ黒だ。


夫はモールでブランド物の下着を購入した。

あまりにもあからさますぎて、逆に潔さすら感じた。


もしかしたら、自分の服を買いに来ただけなのかもしれない。

そう問いただしたくなったけれど、今日は私の誕生日プレゼントを買うためにここへ来たはずだ。

少し高めのアクセサリーでもねだろうかと思いながら、私たちは店へ入った。


日本のアクセサリーメーカーだった。

彼が選んだのは、パールではなく、淡水パールのネックレスだった。


不揃いな米粒のようなパールが何重にも重なると、まるで魚の卵のようだと思った。

必死に本物に追いつこうとしているけれど、結局それは真珠でもどこかB級感の否めないものだった。

もしかすると、自分にはこれくらいが似合っているのかもしれない。


「ネックレスはあまりつける機会がないから、これにするわ」


高価なものもあったけれど、仕事でも問題なく着けられるから私は髪留めを選んだ。


「そんな物でいいの?」

「うん、これが気に入ったわ」


もし手放すとしても悔いが残らないチープさが気に入った。


帰り道、海沿いのレストランへ寄り、静かな波音に包まれながら夕食を楽しんだ。

お洒落で落ち着いた雰囲気のその店は、斗真が予約してくれていた。

グラスを傾ける彼の横顔を見ながら、ふと心の奥が揺れる。


まだ私は彼の妻なのだ。


そう思うと、ほんの少しだけ嬉しくなった。


たとえ、それが彼自身の罪悪感を拭うための行いだったとしても……



彼は何日も前から、九州出張の準備を進めていた。

いつもなら、前日に適当にシャツをスーツケースに詰めるだけなのに、今回は慎重に荷物を整えている。

どこか楽しげな様子が伝わってきて、それがかえって私の胸を締めつけた。


金曜日はスーツを着て出社するらしい。

職場からそのまま九州へ向かうのだろうか?それとも、金曜は有給休暇を取っているのかしら?

そんなことを考えていると、なんだか目がさえて眠れなくなった。


夜中に台所に水を取りに行くと、夫が部屋で話をしているのが聞こえた。


時計の針は深夜1時を過ぎている。


小声だけれど、楽しそうに会話が弾んでいる。

私が眠ってから、こっそり彼女と電話しているんだろう。

旅行の相談でもしているんだろうか?


隠れて話さなければならない状況は妻の私がいるからだ。

そこまでして彼女と話したいんだと思うと胸が苦しい。


夫と私は、それぞれの部屋を持っている。

いつからか、同じベッドで眠ることはなくなった。

彼が深夜まで残業することもあり、お互いの帰宅時間が合わなかった。

共働きの生活の中で、彼は「待たずに先に寝ていいよ」と言ってくれていたからだ。


行き先は本当に九州なのだろうか、それとも別の場所なのか。ふと考えたとき、私はまだ九州へ行ったことがないことに気づいた。


相手の女性が誰なのか、気にはなった。

けれど、もし知ってしまえば、その瞬間から彼女は私の脳内で「現実の人」として刻まれる。

そうなれば、きっと彼女に対して変な嫉妬心を持ってしまう。


だから、あえて調べることはしなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ