第1話 山上斗真
忘れずにいてくださる読者の方、有難うございます。
夜がただ淡々と訪れる。
結婚の誓約は、永遠に愛し、敬い、助け合う契約だ。
けれど、結婚は決して永遠などではなかった。
気づけば日々は、ただの日常になり、なんの面白みもなく流れていく。
俺たち夫婦の「永遠」は、静かに後悔へと形を変えていく。
俺(山上斗真)は、カップの縁に残る薄茶色の跡を指でなぞりながら、冷めたコーヒーを見つめていた。
きっかけは何だったんだろう。
俺の3歳下だった妻とは、同じ大学のサークルで知り合った。
まだ初々しい彼女を他の男に取られたくないと感じた。
芯の通った性格と彼女の自然体の美しさに惹かれて、俺が告白して付き合いが始まった。
そこそこ名の知られた大学だったから、俺は大手企業の技術職に就職し、その3年後に彼女は区役所に就職が内定した。
『加奈の誕生日なら記念日にぴったりの良い日だろ?忘れようがない』
そう言って、彼女の誕生日に俺たちは入籍した。付き合ってから4年目、俺が27歳、妻が24歳のときだった。
世の中はウイルスの流行による自粛期間で、大きな変化の時期だった。
日常が制限され、金もなかったため小さな教会で二人だけで式を挙げた。
結婚5年目。
結婚記念日は毎年祝っていたが、今年は一切なし。
冷めきった夫婦関係を象徴している。
刺激もなく変わらない日々が過ぎていく。
夫婦というより、ルームメイトのような関係。
いや、それ以下かもしれない。
子どもがいれば、何かが違ったのだろうか。
生活に変化が生じれば、共通の話題が生まれ、この沈黙の時間が少しは埋まっていたのだろうか。
互いにまだ若く、仕事も忙しい時期だった。
子どもにはあまり関心がなく、時期を見てという話をしていた。
そのまま5年だ。
「どこで間違えたんだろうな……」
自分に問いかけても、答えは出ない。
些細なことが積み重なって、気づけばこんな状態になっていた。
でも、もし離婚という言葉が出たら、あっという間に話は進んでしまうのだろう。
そんな予感を抱えながら、俺はコーヒーを一口飲んだ。
苦い。妙に冷えていた。
まだ、どちらも別れを口にしてはいない。