僕になれない兄の俺
なんとなく異世界物語を書き殴ってみました。一応短編の予定ですが、リメイクして長編になる………かもです。
兄は弟よりも優れている。双子の兄ならともかく、少なくとも俺と弟は五つ離れていた。五年のアドバンテージ、これを縮める、ましては越すことなんて、そうそうできるものではない。できたとしても、それは血の滲むような努力の賜物だ。
だから許せなかった。どうしようもなく苦しくて、悔しくて、胸に強烈な不快感が走って、吐き気を感じて、頭に血が上る。俺の人生最大の敵は、他の誰でもない、同じ家族の、他の誰よりも関係が深い者だった。
全ての原因を知ったのは俺が15歳の頃。正確な日付は覚えていないが、その日はいつにも増して暑い日だったのを覚えている。
いつものように俺と弟で森に出かけた時、俺は弟にふと聞いてみた。
「どうしてお前はそんなにも魔法を上手く使えるんだ?俺なんて、やっとのことで中級魔法を使えるようになったばかりなのに」
正直言って、自分でもなんでそんなことを言ったのか覚えていない。でも、きっとその時返ってきた言葉はきっと、俺が求めていた者ではなかったんだろう。
「あー……感覚さえ掴めればお兄ちゃんだって出来るようになるよ」
なぜだろうか。俺はその時、猛烈に腹が立った。憎悪した。なんで?どうして?そんなことで頭がいっぱいだった。
こいつなんて、死ねば良い。
そう思ってしまった。
いっぱいになった頭から感情が決壊するように、俺は感情的に近くにあった少し大きめの石を両手で持ち上げて、弟の頭に目掛けて……
俺の手の中の石は、弟が睨みつけるだけで粉々に割れてしまった。
ようやく視界がクリアになっていく。だんだんと自分がしようとしたことを実感していって、そのたびどうしようもなく苦しい泥波に体を持っていかれそうになる。
「………どうして」
自然と声から出たのは、ただの俺の本音。
「どうして俺はお前より劣っているんだ」
「お前より早く生まれたのに」
「魔法の練習をサボっているお前より頑張っているのに」
「寝る間も惜しんで……俺はずっと頑張っているのに……!」
弟は天才だった。俺が一年かけて習得した魔法を一週間で習得してしまう。俺がずっと研究してきた魔法のロジックを勘だけで一瞬で解明させてしまう。俺が毎日目に入るくらい汗を流して手に入れた筋力ですら、すぐに追い抜かれてしまった。
弟に全ての点で上回られている俺に何が残っている?……疑問にする必要もないか。残ったのは、「落ちこぼれ」の烙印だ。一方がとてつもなく輝いていたら、少なからずもう一方は矮小化されるものだろう。
「……ごめん」
「それを……聞きたいんじゃない!」
「………………」
長い沈黙の後、俺の弟は、結論を述べた。
「僕が《転生者》だから」
そう。それだけだったのだ。小説とかでよくあるアレ。前世の記憶を受け継いで、さらにチートスキルだのなんだのを手に入れて世界を思うがままにする。そんな存在だったのだ。俺の弟は。
酩酊。
なんだよそれ。それだけ?それだけで俺は落ちこぼれにならなければいけなかったのか?
俺は選ばれずに、弟が選ばれた。どんな時でも、選ばれるのは平凡な兄ではなく、優秀な弟だった。
盗賊を撃退した。悪の組織を滅ぼした。姫を救った。国を救った。
全部全部全部全部、弟のしたことだ。
なら、何年も変わらず生まれ育った田舎の地で両親を介護し続けている俺は不幸か?
悪意はない。それはわかっていた。ただそれでもあるのは現実のみで、俺は幻想に、夢に、縋ることができない。くそ、クソ、クソ!!!
なんでだよ!!そんなの絶対におかしい!なんで、どうして!!俺だけ、お前だけ!!!
どうやっても超えることができない。天才の前では俺はただのモブAだ。
低迷。
俺は傍観者。華々しい御伽話のような伝説を後から第三者として見ることしか叶わない。新聞の写真の中の弟をフォークで突き刺す。
──────もう、どうでもいいや。
転生して最強になる。それってつまり、普通の人よりも優れていること。神からの依怙贔屓だ。
(もし俺が弟だったら……)
「僕は今頃、どうしてたかな」
包丁を喉に突き刺した。
リメイクする時はきっと「転生した弟を苦しみながら支える兄」の物語になると思います。