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8  婚約者は良く言えば正直

「お、おばあさまは可愛いドレスが好きなんじゃなかったの?」


 ショックから立ち直ったミフォンは、コレットのドレスの袖を引っ張って訴えた。


「可愛いドレスももちろん好きよ。だけど、自分が着る服の好みとはまた別だわ。自分が着たいと思うのはリリスさんの着ているような服ね」

「で、でも、おばあさまはわたしの着ているドレスのほうが好きですよね?」

「あなたの可愛いお顔にとても似合っていると思うわ」

「そ、そうよね」


 可愛いお顔と褒められたことに満足したらしく、ミフォンは笑顔で頷くと、リリスに顔を向けて話題を変える。


「おばあさまはわたしにとっても優しいの。服やアクセサリーもいっぱい買ってくれるんだぁ」

「そう。良かったわね。とっても羨ましいわ」

「でしょう?」


 ミフォンはリリスの反応に満足し、誇らしげな顔をして言った。すると、リリスさえも予想していなかったことを、コレットが口にする。


「まあ! それならリリスさん。今度、クローツ洋装店に一緒に行きましょう。オーダーメイドの服がほしいのよね? 迷惑でなければプレゼントさせてちょうだい!」

「そ、そんな! あの、お気持ちだけで十分です!」


 クローツ洋装店のオーダーメイドとなると、一着で平民の五十日以上の生活費になる。子爵家のリリスの家でも買えなくはないが贅沢品のカテゴリーに入る。


「遠慮しないで。亡くなった主人がお金をたくさん残してくれたの。生活費は息子や孫たちが出してくれるから、お金は貯まっていく一方なのよ。どうせ、死んでしまったらお金は持っていけないもの。それなら、若い人のためにお金を使いたいわ」


 にこにこと微笑むコレットの体を、ミフォンが揺さぶる。


「だ、駄目よ、おばあさま! 使うならわたしのために使ってください!」

「あらあら、ミフォンちゃんったら困った子ね。ほしい物でもあるの?」

「はい! お茶会に誘われていて、その時に着ていくドレスがほしいなって!」


(あなたをお茶会に誘う人なんていないでしょう。どうせ、シン様とのデートに着ていくだけでしょう)


 リリスは微笑みながら手を叩く。


「良かったわね! 今まで私しか友人はいないと言っていたけど、お茶会に誘ってくれる人ができたのね! おめでとう! これからはその人と仲良くしてね」

「えっ? あ、その、あの、違うの。誘ってくれたのは若い人ではないのよ」

「友人関係に年齢は関係ないわ。大事にしないと駄目よ」

「で、でも、ねぇ? おばあさまだって、友人は年が近くないと駄目って思いますよねぇ?」


 助けを求めるようにミフォンが話しかけると、コレットは苦笑する。


「私は若いお友達がほしいと思うけれど、やっぱり迷惑なのね。ミフォンちゃん、ごめんなさいね。今まで色々と付き合わせてしまったわ」

「ち、違うんです、おばあさま! おばあさまは友人ではなくて家族じゃないですか!」

「まあ! それは少し気が早いんじゃない?」


 ふふふと微笑むコレットを見たミフォンが安堵している様子を見て、リリスはため息を吐かないように我慢した。


(コレット様は悪い人ではない。でも、ミフォンのワガママを増長させていることは確かだわ。悪意がないだけに責めにくい。それがいけないことだと、本人の頭で理解してもらわないと同じことの繰り返しね)


 ディルたちがコレットを説得することに気が乗らない理由が理解できたリリスは、次の手を打つことにする。


「コレット様、本日は私の婚約者も招いてくださったとお聞きました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「気にしないでちょうだい。婚約者を一人で初めての場所に行かせるわけにはいかないなんて、とても優しい婚約者じゃないの」


 ミフォンはコレットにシンを呼び出す理由を、そう説明していたらしい。


「私の婚約者がそんなことを言っていたのですか?」

「ミフォンちゃんから聞いたのよ。最近、リリスさんと婚約者が喧嘩をしてしまったから仲直りさせたいし、機会を作ってほしいってお願いされたの。どんなことがあったのかはわからないけれど、喧嘩は良くないわ。仲直りしてね」


 リリスにしてみれば大きなお世話だが、その気持ちを素直に口にするわけにはいかない。

 ミフォンに非難の目を向けると、眉尻を下げて口を開く。


「二人が喧嘩しちゃったのはわたしのせいでしょう? わたしはディル一筋なのに、リリスが信用してくれないから……」

「そうよ、リリスさん。ミフォンちゃんはディルのことを本当に思ってくれているの」

「本当にディル様を思っている人が他の男性と一線を越えるものでしょうか」

「「えっ?」」


 リリスの衝撃発言に、ミフォンだけでなくコレットまでもが聞き返した。


(しまった。あまりにも腹が立ってつい口に出してしまったわ)


「いえ、何でもありません。コレット様、お気遣いいただきありがとうございます。この機会に改めて婚約の解消に向けて動こうと思っております。これもある意味、仲直りですわね?」

「まあ! 婚約を解消するつもりなの?」

「な、何を言っているのよ、リリス! あなたがシンと別れられるわけないじゃない!」

 

 ケタケタと笑うミフォンを、リリスは黙って見つめるだけでとどめておいた。


 ミフォンはシンの気持ちを操っている。彼女はリリスがもがけばもがくほど、シンとの婚約の解消をさせないつもりだ。


「そうね。今すぐには無理かも」


 リリスが答えたその時、シンがやって来たと連絡があった。メイドに連れられたシンは部屋に通されると、コレットに挨拶をした。

 そして、普通ならばリリスの隣に座る所を、迷わずミフォンの隣に座った。


(あ、この人、思った以上に馬鹿だった)


 三人掛けのソファが一気に狭く見えるようになり、空きスペースはほとんどなくなった。端に避けざるを得なくなったコレットは、シンを見て眉根を寄せたのだった。



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