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22  婚約者から元婚約者になる前夜 ②

 シンとの話は一段落したと判断したリリスたちが、ミフォンに関心を向けようとするとシンが動いた。


「リ……、リリス!」


 振り返ったリリスに顔を涙でグチャグチャにしたシンが訴える。


「罰は……、罰は受ける。だから頼むよ。婚約破棄はしないでほしい! ステラ殿下に婚約の破棄は望んでいないと伝えてくれよ!」


(呆れた。自分の両親もどうなるかわからないのに、まだ、ミフォンのことを気にしているの?)


「リリス、もう相手にしなくていい」


 ファラスがリリスの隣にやって来て言うと、シンは地面に額をつけて叫ぶ。


「お願いします! これからはあなたのことを大事にします! チャンスをください!」

「しつこいな。いい加減に諦めろ」

「嫌です! 諦められません!」


 ファラスに冷たく言われても、シンは頭を上げない。


(このまま放っておいてもいいのだけど、聞いておきたいこともあるし、同時に望みを断ち切ってあげましょう。私が彼に与えられる最後の慈悲だわ)


 リリスはこれが最後だと決めて、シンに話しかける。


「シン様、あなたはミフォンが好きなのでしょう? それなのにどうしてそこまで、私との婚約を解消することを拒むのですか」

「正直に言うよ! ミフォンのためだ! ミフォンが言っていたんだ。君との婚約が解消されたら、僕と会うたびに君に申し訳ない気持ちになるし、君に嫌われるから、もう僕とは会えないって! 彼女を悲しませたくない!」


(結局はミフォンに嫌われたくないから、私と婚約の解消をしたくないってこと? どれだけミフォンが好きなのよ)


 リリスが大きなため息を吐くと、シンは顔を上げて懇願する。


「なあ、君は僕のことが好きなんだろう? ミフォンはそのことを知っているから、婚約を解消しないでほしいと言ったんだ。僕だって君を好きになるように努力する。だからチャンスをください!」

「好きになるように努力すると言われましても、そんなことを私は望んでおりません。というか、そんな婚約者はいりません」

「政略結婚なんて愛がないのが普通だろう!?」

「最初はそうかもしれませんが、結婚して愛が生まれていく方が多いです。でも、あなたにはそれは見込めませんし、私も無理です」


 リリスは一度言葉を区切り、少しだけ間を置いてから口を開く。


「そんなにも彼女が大事なら、私からあなたを捨てて差し上げますね」

「……は?」


 呆然とするシンにリリスは微笑む。


「だって、あなたはミフォンのことを思って、私と婚約の解消ができない。なら、私があなたを捨てれば、婚約の解消もできるわけです。あ、あなたが望んだわけではありませんから、婚約破棄、ですわね?」

「そ、そういう問題じゃないだろ! 婚約破棄なんてされたら、結局一緒じゃないか」

「何を言っているんです? ミフォンは私との婚約を解消しようとするあなたに、それはやめてと言ったのでしょう? それなら、あなたからしなければいいだけ。私があなたを捨てて差し上げれば、これでみんなが幸せになれますね!」


 今までは自分の家の爵位が下だったことで我慢させられてきた。だが、今のリリスは違う。王女の後ろ盾があれば、家族に迷惑をかけるという心配もない。


「捨てるなんて言い方をしなくてもいいだろう!?」

「婚約を破棄するのですから似たようなものでしょう?」


(ミフォンに騙されているあなたに同情していた気持ちも、一欠片も残さずに捨ててやるわ!)


 リリスの意志が固いとわかり、シンは頭を抱えて叫ぶ。


「そんな……っ、困る、困るよっ!」

「シン様、あなたは私に婚約を破棄されることを恐れるよりも、もっと恐ろしいことが身の回りで起きるはずです。どうせ、その時に婚約は自動的に破棄されるでしょう。あなたは早いうちに婚約破棄を受け入れて、来たるべき時に備えたほうが良いかと思います」

「ど、どういう意味だよ」

「責任を取るのはあなただけではないとお伝えしています」

「責任を取るのは、僕だけじゃない? どういう意味だよ」


 聞き返してやっと、父が伯爵ではなくなる可能性があると理解したシンは両手で顔を覆う。


「そんな……、終わった。僕は……っ、そんなつもりじゃ……っ、本当に……っ、純粋な気持ちだったんだ!」


 シンにとってミフォンへの愛は、浮気ではなく純愛だった。リリスが悪者でミフォンは被害者だと思い込んでいた。ここに来てやっと、彼は自分自身や、ミフォンの行動を振り返った。


「そうか……、浮気した……、僕が悪いのか……」


 涙を流しながら、シンは先ほどから苦い顔をして自分を見つめているミフォンを見つめ返した。


「ミフォン」


 助けを求めようと、シンが彼女に向かって手を伸ばすと、ミフォンはくるりと背を向けた。その瞬間、シンの腕はだらりと垂れ、頬にいくつもの涙が流れた。


「あ……ああ……っ……、やっぱり……っ、間違っていたのか? 僕は……僕は、本当に愛していたのにっ」


 地面に額を付けてむせび泣くシンを騎士たちに任せ、リリスはミフォンに話しかける。


「ミフォン、次はあなたの話をしましょうか」


 振り返ったミフォンは、余裕の笑みを見せる。


「私は被害者よ。話すことなんてないわ!」

「被害者? 何を言っているのよ。ミフォン、あなた、シン様に私を襲わせようとしたわよね?」

「……っ!」


 ミフォンは声にならない声を上げて、リリスを睨みつけた。



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