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21  婚約者から元婚約者になる前夜 ①

 シンに無言で意見を求められたミフォンは、何度も首を横に振った。リリスの婚約者がシンではなくなるのなら、ミフォンにとって彼はただの邪魔者だ。ミフォンにしてみれば、たまたまリリスの婚約者がシンだったから誘惑しただけで、別の相手なら、その男を誘惑していた。

 リリスとシンの婚約関係がなくなれば、自分の優越感を満たす相手がいなくなってしまう。いや、婚約者がいないリリスが可哀想だと言ってやれば良いのかと、ミフォンは考えながらリリスを見つめた。


 そんなミフォンの気持ちなど知らないシンは、素直に彼女の望む通りにする。


「リリス、婚約の解消なんて僕たちだけで決められるものじゃない。親も交えて話すべきだ」

「……承知しました。話し合いはしてくださるということですね」


 リリスが頷くのを見たミフォンは、その答えに満足してディルに話しかける。


「ディル、あなた、さっきなんて言っていたの? 強制性交? 幇助? 何を言っているのかさっぱりわからないわ」

「さっき、リリス嬢を押さえておくから襲えと言っていただろ」

「そ、そんなこと言っていないわ。聞き間違いよ!」


 ミフォンはディルに触れようとしたが、彼は後退してその手から逃れた。焦った顔になったミフォンにファラスが尋ねる。


「気分が悪いと言って出ていったのに、今はそんなことを微塵も感じさせないくらいに元気ということは、君の特効薬は浮気か」

「ち、違います! 失礼なことを言わないでください!」


 ディルたちがミフォンと話をしている間に、シンはリリスの機嫌を取ろうとし始める。


「今日は王女殿下主催のパーティーなんだ。そんな馬鹿な話をするのはやめよう」

「そのパーティーで浮気をしていたのはあなたでしょう」

「あのさ、リリス、いい加減にしろよ」

「何をですか?」

「どんなに僕の浮気を責めても無駄なんだ。君との婚約の解消を僕や僕の両親が許すと思うか? そんなことは絶対にありえない」


 シンはにやりと笑って、強調するようにゆっくりと話す。


「どうあがいたって、君は僕と婚約を解消することはできない」

「さあ、どうでしょうか」

「子爵家が伯爵家に逆らえると思うなよ」


 シンがリリスに蔑んだ視線を送った時、リリスの背後から現れた人物がいた。


「その理屈で言うと、伯爵家は王家には逆らえない、ということだな?」

「ス、ステラ殿下!?」


 リリスの持っているランタンの灯りに照らされたのは、ステラだった。リリスはそう驚いていないようだが、シンはかなり狼狽している。

 

「ジョード卿、権力を笠に着て婚約を解消、もしくは破棄させないのはどうかと思うぞ。ねえ、そう思いませんか?」


 ステラは笑顔で後ろを振り返る。すると、一気にその場が明るくなった。複数のランタンに火が灯されたのだ。そして、その光で浮かび上がるように見えたのは、木々と雑草、そして、多くの騎士たちと、ステラの両親と兄だった。


(私たちに先に行っておいてくれと言って場を離れたのは、陛下たちを呼んでくるためだったのね)


 ステラたちが前々から、こうすると計画していたことを知らないリリスは、仕事は仕事。プライベートはプライベートと切り分ける人たちだったと勝手に再認識するだけだった。


「りょ、りょ、りょ、両陛下に王太子殿下!? ど、どうしてこんな所にいらっしゃるんですか?」


 さすがのシンもこの場を誤魔化し切れると思えるほど、ポジティブな思考の持ち主ではなかった。


「どこぞの貴族が浮気をしていると聞いてやって来たけれど、浮気とは夜会でわざわざしなければいけないものなのかしら?」


 王妃の問いかけに国王が答える。


「そんなわけがない。浮気自体やってはいけないことだと言うのに、わが娘が主催しているパーティーで堂々と逢引するだと? ふざけたことをしてくれたものだ」

「本当ですよ、父上。しかも、浮気しておいて婚約破棄さえも認めないなんて好き勝手言ってますよねぇ」


 国王だけでなく、王太子にまで睨まれたシンは「ひっ!」と声を上げると、その場で腰を抜かして地面に座り込んだ。


「お前は浮気を認めていたよな? それなら、婚約破棄をされてもおかしくない」


 ステラは座り込んだままのシンに告げる。


「普段は個人的なことに関わるつもりはないが、私の主宰した夜会でふざけたことをしたんだ。お前とリリスの婚約については干渉させてもらう。あ、これだけで許されると思うなよ?」

「ひっ!」


 ステラの口調は柔らかなものだった。しかし、微笑んでいるはずの彼女の目が笑っていないことに気がついたシンは、自分とリリスの婚約が解消、もしくは破棄されることは避けて通れないと感じただけでなく、これから自分がどうなるのか。未来に不安しかなく、彼の目には涙が浮かんだのだった。


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