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20  婚約者たちのふざけた言い分 

 まさか見つかると思っていなかったミフォンは、一瞬パニックに陥りかけたが、すぐに冷静になってシンから離れた。


「リ、リリス。ごめんね。変な所に迷い込んじゃったから怖くて、つい、シンに抱きついてしまったわ」


 ミフォンの中ではリリスはお人好しだ。なんだかんだと言いながらも、最終的には自分を許すのだと思っている。実際、今までのリリスはそうだった。だが、リリスも学習した。

 ミフォンをここまで増長させたのは、自分の態度が甘かったからだと。そして、今まではシンに対しての気持ちが一欠片でも残っていたのだと――。


(今までの私は本当に馬鹿だった。気づくのが遅すぎたわ)


 ミフォンがシンにアプローチを始めるまでは、シンはリリスを大事にしていた。だから、彼は女性に人気があった。リリスはそんな彼を好きになったのであり、ミフォンとディルが結婚すれば、自分だけを見てくれるのだと思い込もうとしていただけだった。


「抱きつく前は何をしていたの?」

「え……、あ、な、いや、そうよ。その、実はわたし、シンに脅されていたの! 無理やりキスされたの! 助けてリリス!」

「そ、そうだ! リリス! 僕は彼女を愛している! 彼女を無理やり自分のものにしようとしたんだ!」

「愛する人に無理強いをするのですか?」


 リリスが鼻で笑うと、シンはカッとなって叫ぶ。


「そうだ! ミフォンがディル様のことを愛しているのを知っていて、僕は彼女を自分のものにしようとした」

「ということは、浮気を認めるということでよろしいでしょうか」

「認める。認めるが、僕は君との婚約を解消するつもりはない」


 ふざけたことを平気で言ってくるシンに、リリスは大きなため息を吐いた。


「そんな自分勝手な言い分が通じると思っているのですか」

「通じるよ。だって、僕の家は君の家よりも爵位が上なんだ」

「そうですわね。それがネックで今まで婚約を解消できていないのですから。ですが、シン様、ミフォンを愛していると言うのであれば、その愛のために私との婚約は解消すべきです」

「そんなことしなくていいわよ!」


 シンの後ろで話を聞いていたミフォンが割って入る。


「わたしはシンのことは幼馴染として大事だけど、恋愛感情はないわ! 大体、シンが浮気するのは、リリス、婚約者の気持ちをしっかり繋ぎ止めておけないあなたが悪いわ! わたしを脅迫したシンも悪いけど、一番悪いのはあなただということに気がついて!」

「私がちゃんとしていたら、シン様は浮気をしなかったと言いたいのね?」

「そうよ。あなたの努力が足りなかったの」


(そうかもね。だけど、それは浮気をしてもいい理由にはならない)


 そう思ったリリスは気持ちを切り替えて、ミフォンに問いかける。


「あなた、私がいつから話を聞いていたと思ってるの?」

「……そんなの知らないわ。いつ聞いていても同じよ! わたしはシンに言わされただけ! リリス、もうわたしのことはいいでしょう? 自分の罪から目を逸らすのはやめなさいよ」

「あなたに言われたくないわね」


 ランタンの灯りに照らされたリリスの顔があまりにも無表情だったので、ミフォンは苛立ちを覚えた。

 ミフォンの考えでは、こんな場面のリリスは泣いて、シンを責め立てているはずだ。ミフォンは自分の思い通りにならないことが気に食わなかった。そして、リリスはそんな彼女の性格を熟知していた。


 リリスは微笑を浮かべると、シンに話しかける。

 

「シン様」

「……なんだよ」

「ミフォンの言っていることが正しいと、あなたは思いますか?」

「……そうだ。君が僕を夢中にさせてくれなかったから浮気した。全部君のせいだ」

「そうですか。それは申し訳ございません」


 リリスが続きを発する前に、シンが口を開く。


「仕方がないから、今回は許してやる」

「許す?」

「ああ。今日の君はとても綺麗だし、これからもっと着飾るようにすれば、僕の妻にふさわしい人になれる」


 そう言うと、シンはゆっくりとリリスに近づいてくる。


「まずはお互いを体で知り合うことにしないか? 相性というのは大事だよ」


 ぞわりとリリスの背中に悪寒が走る。


(この人、既成事実を作って婚約を解消できなくさせるつもりね!)


「近寄らないでください」

「近寄らないと仲直りはできない」


 近づいてくるシンに、リリスはシルバートレイを彼の鼻先に突きつける。


「それ以上近づいたら、あなたの大事なものを使えなくさせますよ」

「……大事なもの?」


 シンはきょとんとした顔で聞き返したが、リリスの視線の先を追ってようやく意味がわかると、慌てて後ろに下がった。


「き、貴族の女性が口にする言葉じゃないぞ!」

「結婚前に関係を迫ってくるあなたもどうかと思いますが?」

「シン! 私がリリスを押さえておくから襲っちゃいなさい! 関係を持ってしまえば何も言えなくなるわ!」


 ミフォンがリリスに聞こえないように耳打ちした時、彼女の背後から人が現れる。


「レーヌ男爵令嬢、強制性交の幇助って言葉を知ってるか?」

「ディル、知っているわけがないだろう。彼女の頭の中には花しかない。この女の頭の中で咲かなければいけなくなった花が気の毒だ。地面に根を張って咲きたかったろうに」


 突然、現れたディルとファラスに驚いたミフォンとシンは逃げるように後ろに下がるが、そちらの方向にはリリスがいた。

 リリスにはミフォンの発言は聞こえていなかったが、ディルたちの発言から、彼女が良くないことを言ったことだけはわかった。


「シン様、自分のためでも私のためでもありません。ミフォンのために私との婚約を破棄してください」


 リリスに睨みつけられたシンは、助けを求めてミフォンを見たのだった。




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