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17  怒りを抑えられない男爵令嬢

 シンとファラス、その後にリリスの名前が会場内に響き渡ると、他の招待客の視線が一気に彼女たちに集まった。普通ならば、男女ペア、もしくは家族の名前が呼ばれるものだが、リリスたちの場合はシンとファラスがパートナーのような紹介をされたからだ。

 シンとファラスは整った顔立ちのため、人目を引く。リリスは瞳の色もそうだが、今日の彼女はいつもよりも美しく見えたため、余計に好奇の視線が集まった。

 ちなみにシルバートレイは会場の中には持って入ることはできず、メイドが会場の外で持ってくれていて、必要な時に渡してもらうことになっている。


(人にジロジロ見られるのは嫌いなんだけど、今日は仕方がないわね。それよりも、ディル様たちはもう来ているのかしら)


 会場内はガラス細工の装飾がふんだんに使われており、光にキラキラと反射して眩しいくらいだ。目を細めながら、リリスがディルたちの姿を探そうとした時、強い視線を感じて無意識に振り返った。

 目が合ったミフォンはリリスを醜悪な顔で睨みつけていたが、これではいけないと思い直したのか慌てて笑顔を作った。


「きゃー! リリスったらおめかししちゃって!」


 大きく胸元が開いたドレスを着たミフォンは、ディルを引きずるようにしてリリスの所にやって来た。


「リリスったら、いつもと違うじゃない。久しぶりのパーティーだから張り切っちゃった?」

「そうね。あなたの言う通りよ。今日は特別な日だから、いつもより張り切って来たの」

「……特別な日?」


 ミフォンの目がキラリと光る。ぶち壊してやろうという気持ちが目に見えてわかったが、リリスは動揺する様子は見せずに頷く。


「ええ。シン様と私にとって特別な日なの」


 できれば触れたくもなかったが、計画のためだから仕方がない。リリスはそう割り切ってシンの腕を取り、彼の腕に頬を寄せた。


「ぐぎぎぎぎ」

「うるせぇ」


 演技だとわかっていたが、リリスに触れられているシンが許せず、変な声を出したファラスの頭をディルが叩いた。すると、大人しくはなったが、シンを恨めしそうに睨み続けることはやめなかった。そんなファラスにミフォンが笑顔で話しかける。


「お兄様! ごきげんよう! お会いできて嬉しいわ」

「話しかけるな、このク」


 暴言を吐こうとしたことがわかったリリスが睨み、ディルが足を踏むと、ファラスは冷静に戻って咳払いをしてから口を開く。


「レーヌ男爵令嬢、昼寝したまま目が覚めていないんじゃないか? 僕は君の兄ではないので、お兄様と呼ばれる筋合いはない」

「何を言っているんですかぁ! 親友のリリスのお兄様ですもの。わたしにとってはお兄様みたいなものですわ」

 

 上目遣いで見つめれば、多くの男性は彼女に夢中になる。だが、ファラスは普通の男ではなかった。彼は、冷ややかな笑みを浮かべて答える。


「君とリリスは親友ではない」

「そんな冷たいこと言わないでくださいよぅ。ねぇ、ディルぅ。リリスのお兄様が酷いことを言うのぉ」


 甘えた声を出すミフォンに、リリスはいら立ちを覚えた。もちろん、その感情を抱いたのは彼女だけではなかった。ディルが眉根を寄せて答える。


「真実を言っただけだろ」

「わたしはリリスのことを親友だと思っているわ!」

「親友は婚約者を奪おうとしたりしねぇよ」

「酷い! どうしてそんなことを言うの!? 奪おうとなんてしてない! 私はディル一筋なのよっ!」


 ミフォンはわざと周りに聞こえるように大きな声で訴えた。パーティー開始時間前とあって、多くの人がリリスたちの話に耳を傾けている。リリスは早速仕掛けることにして、シンに小さな声で話しかける。


「シン様、ミフォンとディル様はこんなに仲が良かったのですね」


 はたから見れば、仲が良いようには見えない。だが、リリスにそう言われたシンの目には痴話喧嘩のように映った。


「ミフォン! どういうことなんだよ!?」

「……何が?」


 ミフォンは鬱陶しそうな表情で、シンを見つめた。


「君はディル様よりも僕のほうが好きって言っていたじゃないか!」

「な、何を言っているのよ。聞き間違いじゃない? あ、友達としてはシンのほうが好きって言ったのかも。勘違いさせちゃってごめんね?」


 額をコツンと叩いて舌を出すミフォンの行動に、リリスは殺意を覚えたが、シンは違った。


「ど……、どうしてそんなことを言うんだよ」 

「シンにはリリスがいるでしょう?」

「……そうか。そういうことかよ」


 ミフォンがディルを好きだという演技をしていると思い込んだシンは、リリスを抱き寄せて叫ぶ。


「そ、それなら、僕はリリスを大事にする! 君のことなんて見向きもしないんだからな!」

「う……、嬉しいですシン様!」


 ディルたちに浮気などしていないと訴えようとしたシンにリリスが擦り寄ると、ミフォンの動きが止まった。そして、それを合図にしたかのように、警備についている騎士たちが、開け放たれた扉の向こうで話し始めた。


「今日のリリス様は本当に綺麗だな!」

「俺もそう思う! こんなことを言っちゃ悪いけど、リリス様の前ではディル様の婚約者なんか霞んで見えるな」

「リリス様のほうが清楚そうだし、俺が婚約者を選ぶことができるなら、断然リリス様だな!」


 ディルからお願いされていたと言うこともあるが、ミフォンの本性を知っている人間も多くなってきた。そのため、演技ではなく本心で言っていたため、話を聞いた他の客からも同意する声が聞こえてくる。


「ディル様の婚約者の方は品がないわね」

「そうですわね。そういえば、コレット様から聞いたんですけど、ノルスコット子爵令嬢は自分に興味のない話でも、笑顔で話を聞いてくださるそうよ。一緒にいると心が安らぐと言っておられたわ。レーヌ男爵令嬢はお菓子を貪るかほしいものをおねだりしかしないらしいわ」

「まあ、そうなのですね。孫の嫁にはレーヌ男爵令嬢のような人には来てほしくないわね」


 マダムたちの話を耳にしたミフォンは怒りで顔を真っ赤にすると、ディルから手を離して、シンに話しかける。


「ちょっと話があるの」

「な、なんだよ」


 シンが嬉しそうな顔をして聞き返した時、王城に隣接している塔の頂上にある鐘が鳴り響いた。

 それは、時刻を知らせるものであり、パーティーの始まりを告げる鐘の音だった。

 


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