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13  元親友のワガママはもう通らない

 シンを追い出したあと、コレットはリリスを誘い、彼女自慢の庭園を案内した。ガゼボでミフォンがマカロン……ではなく、他のお茶菓子を食べていたが、二人は足を止めることなく談笑しながら散策を続けた。ゆっくりとしか歩けないコレットの歩幅に合わせてゆっくりと歩くリリスに、ミフォンとは違うものを覚え、私は本当に間違っていたのねと心の中で反省した。

 リリスもガーデニングが好きなので、二人の話は弾み、気がついた時には日が傾きかけていた。長居したことを詫びるリリスに、コレットは話す。


「今日、ディルに手紙を書くわ。今までのことを謝るのはもちろんだけど、ディルの知っているミフォンちゃんのことを詳しく聞こうと思うの」

「そうですね。すぐに婚約の破棄は難しくても、ミフォンがどんな人間か知っていただけたらと思います」

「色々とごめんなさいね。あなたにはお詫びの品を送らせてもらうわ」

「とんでもないことでございます。今日はとても楽しい時間を過ごさせていただきました。それだけで十分です。本当にありがとうございます」


 リリスが頭を下げると、コレットは困った顔で首を横に振る。


「そういうわけにはいかないわ。あなたのおかげで目を覚ますことができたのよ?」

「……どうしても気にされるようでしたら、余計なお世話だと言うことを承知でお伝えしてもよいでしょうか」

「どんなことかしら」

「ディル様とミフォンの件の婚約をこのまま続けても良いのか、考えてみてはいただけませんか」

「……そうね。考えないといけないことはわかっているわ」


 まだ乗り気ではないコレットを見て、困ったものだと思いながらリリスは苦笑した。その後、コレットとまた会う約束を交わした、リリスは馬車に乗り込んだ。馬車が走り出してすぐに、ミフォンのことを思い出す。


(そういえば、ミフォンはどうしたのかしら。まさか、まだ食べ続けているんじゃないわよね?)


 ミフォンは細身だが大食いである。そのことを知っているリリスは、あり得ることだと考えて思わず呆れた顔になったが、すぐに彼女から頭を切り替える。


「今日は私とシン様の婚約の解消に、少しは近づいたかしら」


 ディルがステラに連絡を入れたことは聞いていた。リリスに何か言ってきたわけではないが、ステラが動いてくれていることはわかっている。


 もっと早くからステラに頼めば良かった問題なのかもしれないが、貴族同士の問題に理由なく介入したら、他の人たちの時も介入しなくてはいけなくなる。それにお礼をするとしたら、兄を差し出すしかない。ステラは望まないかもしれないが、できることはそれしかない。かといって、自分のために兄の人生を犠牲にしたくなかった。


(ステラ様はどう動いてくださるのかしら)


 窓から見上げた夕焼け色の空は、まるでディルの瞳の色のようでリリスは小さく呟く。


「ディル様、やりましたよ」


 全てが解決した訳ではないが、今までよりも前に踏み出すことができたはずだ。

 返事があるわけがない。それなのに『ありがとう』と聞こえた気がして、リリスは満足そうに微笑んだ。



◇◆◇◆◇◆



 リリスを見送ったコレットは、夕食前に部屋に戻ろうとしたが、メイドの浮かない顔を見て足を止める。


「どうかしたの?」

「それが……」


 メイドが理由を口にする前に、まだガゼボにミフォンがいることに気がついた。近づいてみると、ミフォンに付き合わされているメイドたちは、うんざりした表情を隠さずに彼女を見つめていた。


 自分が気づいていなかったせいで、メイドたちにも苦労をかけていたのだとわかったコレットは、今日、何度目かになるかわからない大きなため息を吐く。

 メイドたちのためにも放っておくわけにはいかないので、コレットはミフォンに声をかける。


「ミフォンちゃん。もう夕方よ。そろそろ家に帰らないと夜になってしまうわ」


 フラスト王国は治安が良い国ではあるが、夜はやはり安全とは言えなくなる。心配の気持ちを込めて言ったコレットに、ミフォンはお茶を一口飲んで答える。


「おばあさま。今日はリリスとシンとお話していて、わたしと話をしてくれなかったでしょう? 寂しいわ。だから、今日はここに泊まりたいです!」


 シンが追い出されたことを知らないミフォンは、目を潤ませてコレットを見つめた。


 今までならば、こんな発言も可愛らしいと受け止めていた。だが、今日のコレットにはミフォンに対して、全く違う感情が生まれていた。


「駄目よ。きっと使用人があなたの分の食事も用意してくれているわ」

「え~。いつもだったら良いって言ってくれるじゃないですか」


 自分の家だと質素な食事だが、コレットの家では豪華な料理を好きなだけ食べられる。理由をつけて泊まっていくつもりだったミフォンは不満そうに頬を膨らませた。

 今までならば、これで許されていたが、今日は違った。


「ごめんなさいね。今日は都合が良くないの。馬車を手配するわ。それまではここで大人しく待っていて」

「ど、どうして今日は駄目なんですか? いつもならば許してくれるのに。都合が良くないって何があるんです?」

「はっきり言わないとわからないようだから言わせてもらうけれど、あなたがディル以外の男性と仲良くしていたことが不快なの」

「えっ!? わ、わたしは別にシンとおかしな関係ではないですよ!? ただの幼馴染です!」


 焦った表情になったミフォンに背を向け、コレットは侍女を見つめた。それだけで主人の意図を察した侍女は、お抱えの御者を呼びに行ったのだった。



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