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11  婚約者との話し合い ②

 シンにとってコレットは上司の祖母でもある。下手なことを言えば、ディルに報告されてしまう。ただでさえ、彼は前回のサボりでチームの人間から疎まれる存在になってしまっている。ミフォンとの関係は切りたくないが、騎士になることは昔からの夢だったので諦めるのも嫌だった。


 シンは深呼吸して冷静になると、コレットに話しかける。


「コレット様、リリスに何を吹き込まれたかは知りませんが、僕とミフォンは仲の良い幼馴染という関係です。お互いに婚約者がいることは知っていますし、僕はリリスを妻にすると心に決めています」

「そのわりには、幼馴染を優先するのね?」

「リリスとは結婚したいと思えるくらい、気が置けない仲なのです」


(この人、気が置けないっていう言葉の意味わかっているのかしら。どうでもいい存在とは違うのよ?)


 リリスは言い返したい気持ちを抑えるために、シルバートレイを握りしめた。


「じゃあ、結婚したらあなたはもっとリリスさんに冷たくなるということ?」

「冷たくしているつもりはありません! リリスのことは気にかけています」

「ジョード卿、あなた自覚がないのね」


 コレットは大きく息を吐くと、両手で顔を覆って話す。


「ミフォンちゃんはディルを愛してくれている。だけど、あなたが横恋慕をしてくるから優柔不断になっているのかしら」

「よ、横恋慕なんかしていませんよ!」


 シンの本命はミフォンだが、妻はリリスで良い。だから、ディルとミフォンの間に割って入る気はなかった。

 ミフォンの親友であるリリスと結婚すれば、ミフォンがディルと結婚したあとでも、何かと理由を付けてミフォンに会えると思い込んでいる。彼にとってはそれだけで幸せなのだ。

 浮気をしたことがバレれば、自分の計画は終わりだとわかっているのに、ミフォンのことを思うと理性が飛んでしまう。

 自分のせいだと思いたくない彼は、リリスに魅力がないせいだと考え、浮気の原因はリリスだと責任転嫁している。

 彼の中では婚約者が至らないから、ミフォンに目移りしてしまっているだけで、横恋慕するつもりはないようだ。


「じゃあ、なんだって言うの?」


 コレットの視線は未だに厳しい。どう切り抜けようか考えながら、シンは答える。


「……彼女が可哀相なだけです」

「可哀想? どうして?」

「ディル様は仕事を優先しています! 任務よりも婚約者を優先するのが普通ではないですか! 可哀相な彼女を慰めるのは、友人としておかしくないことです!」


 シンの訴えを聞いたリリスとコレットは、呆れた顔をしてシンを見たあとに顔を見合わせた。


「な、なんだよ。言いたいことがあるなら言えばいい」


 二人の行動の意味が掴めないシンは、不機嫌そうな顔で、リリスに説明を求めた。


「では、遠慮なく。シン様、あなたは仕事を何だと思っているのですか。あなたはディル様と同じ騎士団に入団したのですよね?」

「そうだ。普通の騎士団じゃない。王家を護衛するための騎士団だ」


 フラスト王国の騎士は、王族を護衛するためのものと、街の治安の維持や犯罪が起きた時に捜査する権限があるものと分かれている。


 王族の護衛をする騎士はエリートとも呼ばれており、実力者が選ばれるはず……なのだが、なり手が少なかった。そのため、入隊させてから立派な騎士に成長させる、騎士見習いが存在しているため、シンのようなものでも入団することができた。


 子供にとって憧れの職業ではあるが、なり手が少ないのには理由があった。


「それは承知しております。だからこそお聞きします。あなたは、入団の際に交わした同意書の内容を覚えていないのですか?」

「入団する時にサインしたものはあったよ。だけど、長すぎて読んでない! 大体、どうしてリリスがその内容を知っているんだ?」

「……兄が合格していたからです」


 ファラスも入団試験を受けて合格してはいたのだが、同意書を読んで辞退していた。彼がネックになったのは、この部分だ。


『有事、災害時などの場合であっても、王家直属の騎士団の団員である以上、優先すべきは任務、王族の護衛である』


 有事などの場合も家族ではなく、王族の護衛を優先しなければならない。家族の安否が確認できるのは、王族の安全が確保されてからだ。

 妹を溺愛し、父を大事に思う兄には、頭で理解はできてもサインをすることはできなかった。


 リリスがそのことを話すと、シンは目を泳がせて答える。


「ど、ど忘れしていた。次からは気をつける」

「見習いであり、1度目ということで前回は重い処分にはならなかったようですが、次は除隊を覚悟しておいたほうが良いですね」

「そ、それは困るよ!」

「私に言われても意味がありません。ミフォンに伝えておいてください」

「……っ!」


 リリスの冷たい視線に苛立ったシンが、立ち上がって口を開こうとした時、リリスの太腿の上に置かれていたシルバートレイをコレットが手に取る。


「ジョード卿、あなたの気持ちはわかったわ。あなたは自分の婚約者を傷つけてまで、私の可愛い孫とミフォンちゃんの仲を邪魔しようとしているのね?」


(ミフォンとシン様の仲を疑っているのに、今までの自分を正当化しなければ、精神が持たないのね。今は、少しずつ知っていってもらおう)


 リリスは憐れむ気持ちで、シルバートレイを持つコレットを見つめたが、そんなコレットに見つめられているシンは、体の芯から冷えるような、そんな恐怖を感じていたのだった。



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