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1  幼馴染を優先する婚約者

足を運んでいただき、ありがとうございます。


 フラスト王国の子爵令嬢であるリリス・ノルスコットは生まれてすぐに母を亡くしたが、心優しい父と正義感の強い兄に愛され、面倒見の良い心優しい女性に育っていた。

 

 日差しが強く感じるほどに、よく晴れた日の昼下がり。リリスは10年来の友人である男爵令嬢、ミフォン・レーヌと、貴族が多く集まるティールームにやって来ていた。

 現在、18歳のリリスは学園を卒業後、家業の手伝いをして暮らしている。それを知っているミフォンは暇があれば彼女の家にやって来てお茶に誘い、ひたすら自分のことを話し、自分に興味のあることしか、リリスに話をさせないという自分勝手な行動を繰り返していた。


 可愛らしい外観のカフェの内装は、白色の壁にドライフラワーが等間隔に置かれており、テラスからは季節ごとの花が楽しめる庭園が見える。

 店内には女性客しかおらず、使用人の話や社交場での話など、各々の話題で盛り上がっていた。

 

 飲み物が運ばれてくるまでの間、リリスは庭園に咲いている、白や黄色など様々な色の花々を眺めていた。


 テラス席は彼女のお気に入りで、できれば穏やかな気持ちでいられる友人ときたかった。

 だが、目の前にいるのは、正直に言えば苦手でもあるミフォン。

 リリスは小さくため息を吐いたあと、頬に落ちてきた黒色の長い髪をはらった。

 澄んだ空のような水色の瞳は、彼女が住んでいるフラスト王国内では珍しく、その瞳に気がついた人は、必ず彼女の瞳を二度見する。

 人の目を嫌うリリスは、少しでも目立たないように、アクセサリーもドレスも控えめな色合いのものにしているため、一部の人間からは瞳以外は地味令嬢と揶揄されている。

 当の本人もそう言われていることを知っていた。リリスは人からジロジロと見られるのは嫌いだが、おとなしい性格というわけではない。自分がしたいことをしているだけだと、他人からの……しかも、ミフォンの崇拝者からの揶揄など気にしていなかった。


 ミフォンはテーブルに頬杖をつき、ニコニコしながらリリスに話しかける。


「ディルから聞いたんだけど、シンは騎士見習いとして頑張っているみたいね」

「ここ最近は会えていないから、詳しい話は聞けていないんだけど、きっと頑張っていると思うわ」


 シン・ジョードはリリスの婚約者だ。リリスたちと同い年の彼は卒業後、王家直属の騎士団に入団した。今は寮に入り、婚約者に会う暇もないほど忙しいはずだ。


「ええぇ。シンは会いに来てくれないのぉ? リリスとシンは婚約者同士でしょう? 会いに来てくれないってどうなの?」


 鼻で笑うミフォンに、リリスは苦笑する。

 

「まだ騎士になったばかりだし、寮にも入っているから仕方がないわ。休みの日もやらないといけないことがあるはずよ」

「会いに来てって言ったらいいのに」

「彼に負担をかけたくないの。それに、会いに行ってもいいかと聞いたら忙しいと言われたし……」

「ふぅん。ミフォンが会いたいって行ったら、シンは来てくれるんだけどなぁ」


 シン様は私とは会う暇もないほど忙しいと言っているのに、ミフォンとは会っているということ?


 リリスの隣で勝ち誇ったような笑みを浮かべるミフォンを見て、リリスは涙が出そうになった。

 

 ミフォンはどんな時でも向かい側ではなく、リリスの隣に座りたがる。最初は困惑していたリリスだったが、付き合いが長くなるにつれて、ミフォンの意図がわかってきた。

 ミフォンは人の注目を浴びたい人間だった。だから、珍しい色の瞳というだけで、人の注目を集めることのできるリリスの隣にいようとするのだ。


 ミフォンは金色の髪に緑色の瞳を持ち、幼い頃から18歳になった今でも髪型はツインテールだ。小柄で色白。吊り上がった目が冷たい印象を感じさせるが、男子生徒によって作られたファンクラブがあるくらい、華やかな顔立ちの美少女だ。

 彼女の婚約者は辺境伯家の次男であるディル・エイト。何らかのコネを使って、ミフォンはディルを婚約者にしたと噂されている。

 リリスは二人のことを美男美女でお似合いであり、二人は結ばれるべき相手だと思っている。

 ……いや、思うようにしていた。そうでなければ、自分の心が持ちそうになかったからだ。


「あら、男性が大好きな令嬢がいるわ! ノルスコット子爵令嬢は、どうしてあんな人と一緒にいるのかしら」


 ミフォンと一緒にいると、こういう悪口をよく言われる。リリス本人も彼女から逃れたい気持ちは山々だった。

 それができないのは、婚約者であるシンから、彼女と仲良くしてほしいとお願いされていること。リリス自身の性格が優しくて面倒見が良いことなどが挙げられるが、一番の理由はミフォンがリリスに付きまとうことだった。


 学園時代もそうだったが、社交場で他のグループの令嬢たちとリリスが談笑しようものなら、ミフォンが割って入ってくる。そうなると、ミフォンと関わり合いになりたくない令嬢たちは、愛想笑いを浮かべながら去ってしまうのだ。


 今までは学園で毎日顔を合わせるから我慢していた。本人はダメージを受けてないみたいだが、ミフォンは多くの女子生徒から嫌われ、嫌がらせをされていた。

 正義感の強いリリスは、そんなミフォンを見捨てることができなかった。


 だが、さすがのリリスのお人好しの精神も限界が近づいてきていた。

 

「ミフォン、あなたもわかっていると思うけど、私は仕事があるの。これから突然来られても相手はできないから、もう私の家に来るのはやめ」

「そんなこと言うなよ」


 リリスの言葉は前触れもなしに現れた男性によって阻まれた。


「……シン様?」

「きゃあっ! シン! わたしに会いに来てくれたのぉ?」


 リリスが話しかける前に、ミフォンが甲高い声を上げて立ち上がり、リリスの婚約者であるシンにしがみついたのだった。

 


読んでいただきありがとうございます!


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と思ってくださった方は、励みにしますので星をいただけますと幸いです。


他サイト様メインで活動しているため、手が回らず、こちらの感想は閉じております。ご了承くださいませ。

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