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第14話 完璧執事と出店準備

 そして翌朝。私はアレクシスとともに、まだ空が白み始めたばかりの頃に起き、準備を始めた。


 屋敷の外は、夜の静けさがまだほんのりと残る、淡い朝靄の中だった。鳥たちのさえずりもまばらで、空気は冷たく澄んでいる。頬にあたる風が少しだけ肌寒くて、思わず身をすくめた。


「まず、我が家から持っていくもののチェックね。余っている日常用の茶葉と裏庭のハーブ、紅茶を淹れるポット、そしてお客様に貸し出して良さそうなカップとソーサー……あと、結局昨日の夜相談したお湯を沸かすための簡易ストーブはあったかしら?」


 リストを指折り数える私の隣で、アレクシスはすでに手際よく荷物をまとめていた。起き抜けとは思えない動きで、次々と箱を荷台に積み上げていく。手慣れた所作に、どこか頼もしさすら覚える。


「ええ、退職した料理長が置いていったものが倉庫にありました。炭もまだ使えそうです」

「よかった! これでお湯の問題も解決ね」


 胸を撫で下ろしながら私は微笑む。異世界に転生して出店を開くなんて、正直未知の世界だけれど、少しずつでも形になっていく実感がある。それだけで、気持ちが高揚してくる。


 ――と、そのとき。アレクシスがじっと私を見つめていることに気づいた。


「……シエナ様、その恰好は?」


 まるで「どういうご趣味ですか」とでも言いたげな顔で、彼は私を見つめている。私はくるりとその場で一回転して、ドヤ顔で言った。


「何って、使用人の服よ。倉庫にしまってあったのを着てみたの。ほら、貴族だってばれると家名に瑕がつくっていうから。それに、普段の服と違って汚れてもいいから好都合でしょ?」

「……まあ、そうですが」

「どうしたの? 似合ってない?」

「似合っていないわけではないですが……シエナ様にそういった格好をさせてしまったと思うと、亡くなったご両親に申し訳がなく……」


 少しだけ目を伏せて、いかにも執事な感想を口にするアレクシス。……まあ、アレクシスの立場なら、そう言いたくもなるわよね。でも、今はしんみりしてる場合じゃない!


「大丈夫! 私がやりたくてやってるんだから!」


 精一杯、明るく笑ってみせる。するとアレクシスは一瞬だけ、複雑そうな顔をしたものの、それ以上何も言わなかった。


 屋敷の中庭に差し込む朝の光が、彼の横顔を淡く照らしている。口には出さなくても、きっとアレクシスにも伝わってきたのだろう。私のこの情熱が……紅茶を売るというこの商売が、ただの『思いつき』ではないことを。


「さあ、それじゃあ気を取り直して屋台に行くわよ!」


 私たちは荷物を積み込み、早朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、屋台へと歩き出した。


 紅茶屋台の初日が、いよいよ始まる。


 ……だけどその先に、どんな一日が待っているかは、まだ誰も知らなかった。

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