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1,仮)ですが、売られました8

 私の笑い声がむなしく森に響き渡ると同時に、頭上に、大きな鳥が飛んでいく姿が見えた。

木々の枝葉の間から、赤茶色の鳥が胴体の倍はあるかのような大きな翼を優雅に羽ばたかせながら飛んでいく。

太陽の明るさに目を細めながら、鳥の姿を追う。

いままで、あんな大きな鳥は飛んでいるのは見たことはないわね。

もともと夜に歩いて、昼に寝る旅をしているからか、あんまり鳥や動物に出会うことはない。

こうして生きている生物をみるのは、何だかうれしい気持ちになる。

私の視線を追い、カイトは空へと視線を移す。鳥の姿を確認し、ああ、とうなづいた。

「あれは連絡鳥です。私が村へ魔物がでた話をしたので、村の者が役所へ連絡をするために使用したのでしょう。すぐに役所のものが現場の確認にくると思われます。行きましょう」

魔物1匹で村なんてすぐに滅ぼされてしまうから、緊急用の連絡手段で、村に1匹は必ず飼ってあるらしい。

カイトの話を聞きながら、まだ日も高いうちから私たちは歩き出した。いつもは夜に歩くことが普通だったので、昼間はやっぱり視界もクリアで歩きやすい。それが、魔物に襲われた現場付近から早々に逃げるような感じの旅でも昼間の旅の方が断然いい。

そんなことを考えていたら、すぐに開けた道にでた。そしてカイトは何も言わず、道に沿って歩き出す。

人が二人ほど並んで歩けるくらいの道。村と村とをつなぐ、街道?とでも言えばいいのだろうか。

左側は原っぱのような風景が広がり、まだ伸び盛りの雑草が茂っている。右手にはさっきまで歩いていた山のような高い丘陵があり、丘陵が太陽を背にして街道に影を落としている。

道はこの丘陵のすそ野を這うように伸びていた。

はて?今までは隠れるように、遠回りでも森の中を進み続けてきたのに、急に普通の道を歩きだすなんてなんでだろう?

疑問が浮かぶが、まあ、カイト様にはカイト様の考えがあるんでしょうけど、と心の中で溜息をつく。

カイトは何も言わずに、道を進む。何も言わないということは、聞いても無駄だということだ。

本当のことを話せば、もっといろいろ教えてくれるのだろうか、、、。

私は体の入れ替わりで、中身は別人で異世界人なんですって、、、。

いや、だめだ。

まだまだ色々情報が欲しい。まだ一人で生きていけるほどの自信なんかまるでない。

一人悶々と考えていると、急にカイトの足が止まった。

こちらには振り向きもせず、前方を注視している。

カイトが急に立ち止まるこのパターンは、これで2度目だ。

前回は、それで魔物に旅の人が襲われていた。

まさか、おんなじことが立て続けに起きるわけはないよねー。向かい側から反対方向に進む旅の人でもいるんだろうと、カイトの背後から前方をみる。

思ったとおりで、先には、リヤカーのような荷車に大きな甕のようなものを紐で括り付けて運んでいる母子の姿があった。

子ども一人は簡単に入れそうな甕は、大きなどんぐりのようにずんぐり丸い形をしている。中身はわからないが重たいようで、前方を母親が引き、後ろを男の子だろうか、小学校の低学年くらいの子どもが一生懸命に押していた。

カイトは一呼吸おくと、胸元を軽く掴みながら、再び歩き出す。

すれ違いざまは、母子に道を譲り、軽く会釈をする。母親は表情はなく疲れているようだが、子どものほうは人懐っこい笑顔を返してくれた。

初めて身近でみるカイト以外の人だ。だが、着ているものはなんだか汚れているし、布は薄っぺらく寒そうにみえる。衣類から出ている手足は細い。

自分の着ている服も旅で薄汚れてはいるが、母子の服のように色あせてはいないし、布自体もしっかりしている。下履きには少しだが綿が入っていて、夜には気温が下がってもそこそこ温かい。

着るものだけでも、この母子はあまり裕福ではないことがわかる。この母子が貧しいのか、それとも全体の生活水準が低いのかはわからない。ただ、私たちはこの母子よりは裕福な身なりをしていることはわかった。

母親もそうだが、子どもの手足の細さも気になる。ちゃんと食べれていないんじゃないだろうか。

自分の荷物の中から、芋でも手渡したいところだ。カイトに聞いてみようか、と歩き出したカイトに声をかけようとしたときに、急に影が落ちてきて、辺りが暗くなった。と思った瞬間、空気を切り裂くようなヒューという音、甕の割れる音と遅れて女性の悲鳴が聞こえてきた。

びっくりして振り向くと、母子が運んでいた甕よりも一回り大きい獣が咆哮を上げている。

ラ、ライオン??

それはライオンに似た毛色はしているが、よく見るとライオンとは似ても似つかない。胴体には翼があり、尻尾だけ毛がなく黒く光りうねっている。そして、なんといっても大きな目が横並びに3つもあるのだ。

気味の悪い化け物がいる!!!

その3つ目を見た瞬間に背筋がゾワリとした。

こ、こ、これが、もしかして魔物とかいうものなの??本当に化け物じゃない!!

甕をめがけて突っ込んできた魔物は、割れた甕の中身を紫の色の長い舌で舐めだした。

割れた甕からはドロリとした小金色の液体が流れ落ちている。油?のようなそれを魔物は美味しそうに舐める。本当に三つの目を細めて、美味しそうな表情をしている。

表情だけなら猫のようなのだが、3つある目が異様さを放っていて、さっきから震えが止まらない。

「み、み、三つ目だ」

甕の、魔物の傍で尻もちをついている男の子がかすかに呟いたのが聞こえた。母親は、ひっくり返った荷車の下敷きになっている。

三つ目という名の魔物なのかはわからないが、とりあえず、三つ目は1匹で今のところ私達には関心を示さず、甕の液体に夢中なようだ。

その異様な光景に体が硬直して動けないでいる私の腕をカイトが掴む。

「今のうちに離れます。視線を動かさず、ゆっくり後ろへ下がってください」

とても小さな声で耳元で囁く。

動きたいのはやまやまだが、体が硬直して、動かない。

動いたら、三つ目に気づかれるかもという恐怖もあり、小指1本ですら、動かせる気がしない。心臓の音がうるさく、呼吸は嫌でも早くなる。

それに、私とカイトだけこの場を離れるということは、この母子は置いていくということだ。

確かにこんな化け物とは戦えないし、向かっていったところで簡単に殺されてしまうだろう。

でも、それじゃあ、自分たちが助かるために、この母子を生贄にするようなものだ。

それはそれで、なんとも言えない気持ちになる。

こんな小さな子どもを置いて逃げるような大人にはなりたくないが、ここにいても4人で死ぬか、誰かを犠牲にしても生き残る方法をとるか、だ。














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