1,仮)ですが、売られました6
いつの間にか夜は明けており、足元が明るくなっていることに気が付いた。
そのまま眠ってしまったようで、肩には毛布が掛けられている。カイトが掛けてくれたのだろう。
いつものカイトの優しさに、昨日の出来事と少し気まずさを感じて顔がなかなか上げられない。
「昨日は失礼なことを言って、ごめん、なさ、、、、い??」
勇気を振り絞って顔を上げたのに、そこにはいるはずの相手がいない。
え?
あれ?
「カイト??」
「カイトさーーん」
辺りを見回してみても、人影も見当たらない。
まさか、
「昨日の失礼な言葉に、腹が立って、置いていかれたとか??」
「いやいや、まさかーーー。」
あの忠実なカイトがそんなことをするはずはないと思うが、今まで一言もなくいなくなることもなかったので、不安になる。
よくみると荷物はあるので、トイレとかかもしれない。
ふう、と一息つくと、嫌でも昨日の出来事が思い出される。
これからこんなことが何度も続くのだろうか。
「なによ、魔物って。そんなもん知らないわよ」
日本では、たまに熊とかに襲われて、人が亡くなったとかのニュースが流れることはあるが、それはTVの中のことで、現実的じゃなかった。所詮は他人事で。
近くで数人の人が実際に襲われている現実なんてなかった。
顔も名前も知らないのに、赤の他人なのに、助けに行かなかったことがこんなにも罪悪感に感じるなんて、思いもしなかった。
正しくは、助けに行けなかった、のだが。
まあ、自分がその場所に行ったところで、魔物のエサが増えるだけだけど。
それでも罪悪感という名の罪の意識が心に生まれてしまう。
見殺しにされた、と知らない亡霊から非難されている嫌な気分になる。
はあ、空に向かって大きく息を吐いた。日本と変わらない青空なのに、ここは日本じゃない。ここは自分の知っている安全な場所ではないのだ。
ガサリと下草を踏む音がして、カイトが姿を現した。
ああ、よかった。置いていかれたわけじゃなかったと安堵して、カイトに声をかけようとしたときに、ふとカイトの持つ荷物に目がいった。
カイトの見慣れた荷物はそこにある。
「まさか、それ、、、」
だまっていて荷物が増えるはずがない。
「ああこれは、使えそうなものをまとめてきました」
「まとめたって、、、、」
それって、盗んできたってことだよね、という言葉がでない。
多分、カイトは、昨日の襲われた人たちの荷物をいただいてきたのだ。
持ち主はもういないのだからって、死んだ人の荷物を盗むなんて、、、。
「失望しましたか?」
おどけるように笑っているけど、カイトの目は笑っていない。
「え?」
「顔に書いてありますよ。荷物を盗んできたのかって」
「そんな、ことは、」
堪らずうつむく。
「アルドラムダ様、私は、私たちが生きることを最優先します。そのためなら、盗みもするし、時には殺すこともためらいません」
「・・・」
「私たちだって食べなければ飢えます。今、持っている食料だって少ないのです。ここで補充できたことを私は幸運にすら思っています。きれいごとでは腹は膨れません」
言いながらカイトは、自分の荷物に新しい荷物を追加していく。入りきらないので、私の荷物にも詰めだした。
あ、これで私も盗人の仲間に、、、なってしまう、、、という心の声が聞こえたのか、カイトは私の方に振り返り、笑顔を向ける。
何か文句でも?とでもいいたげなカイトに、私は何の言えずにうつむいた。