1,仮)ですが、売られました10
力なく茫然とした様子で甕を見つめる母親の横で、男の子が必死で状況を説明しようとしていた。
「甕にむかって三つ目が落ちてきて、甕が割れたんだ。甕の中の油をおいしそうに舐めてたから、三つ目は最初から俺らの油を狙ってたんだ」
やっぱり甕の中は油だったようだ。魔物の襲来で無残にも砕け散った甕の修復は難しそうだ。茫然としている母親が可哀そうになってくる。
「その時、このおじさんじゃなくて、もう一人のもっとなよなよしたおじさんが剣で三つ目を倒したんだ。こんな大きな三つ目にこうやって剣で、えいってやったら三つ目が倒れて動かなくなったんだ」
男の子は興奮したように、身振り手振りを添えて説明している。が、ただ1つだけ、修正したい。カイトがなよなよしたおじさん??どっからみてもイケメンの騎士様でしょうが!!
この子の年齢からしたら20代でもおじさんかもしれないけど、なよなよは許せん。あんなに体型だって彫刻みたいに整っているのに!!と、男の子の話を訂正せねばと私が口を開きかけた時、母親は、ふふっと微かに笑って男の子へ視線を向ける。そして、ゆっくりと首を振りながら話し出す。
「本当に魔物だったら、男性一人でやっつけるなんてできないよ。まして、剣を一振りなんて。村の男たちが全員でかかっても無理なんだ。獣の中には、強い魔物に擬態するやつがいるって聞いたことがある。多分、そいつなんだろうさ」
「ぎたいって何?」
「擬態ってのは、見た目をそっくりにまねすることができるんだ。ほらこの前、落ち葉だと思ったら、落ち葉に似た蝶が隠れていただろう。あれと同じで三つ目のふりをしているだけで、私たちの甕を襲ったのは三つ目もどきだろうよ」
母親の話を聞くと、そんな簡単に倒せたなら魔物であるはずがないってことみたいだけど、でもカイトは魔物の屍の処理をすごく急いでいたし、カイトの話からは魔物は本物っぽいんだけど、それを一人で倒しちゃうって、カイトってすごく強いってこと??カイトって何者??
もしかしたら、このお母さんのいうようにあれは偽物で、魔物じゃなかったとか??
一人で悩んでいる私に、母親がおずおずとした様子で声をかけてきた。
「あのぉ、、、助けていただいたようなのに、お礼もいわずにすみません。ありがとうございました」
深々と頭を下げる母親をみて、男の子も一緒におじぎをしてくれる。
お礼をいわれても、襲ってきた三つ目の化け物を倒したのはカイトだし、荷車の下敷きになっていたのを助けてここまで運んでいたのもカイトだ。
深々と頭を下げられると、何もしていない私はなんだか申し訳なく思えてくる。
「ただ、せっかく助けていただきましたが、こちらには何もお渡しするものがなくて」
「え??いえいえ、そんな、何かをもらおうなんて思ってないですし、そんなの気にしないでください。甕が割れてしまって、お母さんも大変でしょうし」
私の言葉に、ほっとしたような表情の母親が見えた。
最初は、母子を置いて逃げようとしていましたなんて、口が裂けてもいえない。化け物が私に向かって
きたから、カイトは対応をしてくれただけで、あの化け物がもしも私じゃなくて、この男の子に向かっていたら、カイトは助けなかったんじゃないだろうか。そして、男の子を襲っている間に逃げていたんじゃないだろうか。本当は助けられるのに、無理だと嘘をついて、、、。
カイトの自分への優しさと他人を簡単に切り捨てる非道さに、とまどう。男の子が襲われたとしても助けていたと思いたい。見捨てるとか、そんな人じゃないと思いたい自分がいる。
「すみませんが、ちょっと向こうの川へ行ってまいります。油を被ったようであちこちが汚れているので」
確かに母親のほうは、油と土で着るものだけではなく、手や顔まで汚れている。
「わかりました」
と一緒に行こうと立ち上がる私に、母親がびっくりしたような顔になった。そして、胸元の衣類をかき集めるように握る。
なんか変なこと言ったっけ??と首をかしげる私と母親の間に男の子が母を守るように割って入る。
「おじさん、かあちゃんに変なことしようしてるのか!!」
「は??」
だれよ、おじさんて、と返そうとして自分が男の姿だったことをようやく思い出した。
そうだった。今の私は、筋肉ムキムキのガテン系だった。
女性が川で身を清めるのを見てはいけないのでした。すみません。
母親と男の子がさっきのカイトと同じように草の間に入っていくのを見送る。
なんだか手持ち無沙汰で、することがない。飛び散っている甕の破片でも片付けようか、と腰を上げたとき、あれ?川へ行くってことは、カイトと会わないかな、と、ふとそんなことがよぎる。
確かカイトは、魔物の処理中に他の魔物がくるかもしれなくて、危ないからここで待ってろって言ったんじゃなかったっけ??
母子を送り出してよかったのか、急に不安になり、カイトの言葉を思い出す。
「ああーー、だめだった。だめだだめだ。カイトが戻ってくるまで、待ってもらわないと」
怒られる、カイトに怒られてしまう。と、私はあわてて母子の後を追いかけた。
草を踏み分けて、母子の後を追いかける。
距離が少しあったようで、数分ほどでやっと川とおぼしき水面が見えだした。
「って、これって本当に川なの??海じゃなくて?」
海のような波はなく、一定の方向へ流れているから川だとは思うが、対岸がみえないほど広大な運河だった。
そしてよく見ると、眼下には母親が暴れる男の子を抱えながら、川へ入っていっている姿が見えた。
その姿は水浴びをする様子とは違うような、切羽詰まった緊迫感が漂っているようにみえるんだけど、
、、。
「まさか、死のうとしてるとか、まさかね」
近くにいこうと歩み出した私の肩を誰かが掴む。
びっくりして振り返ると、そこには険しい顔をしたカイトの姿があった。
「行きましょう」
静かな声とは裏腹に肩に置かれた手の力は強い。カイトは、川とは反対方向へ私を促す。
「は?行くってどこへ?? あの人たちを助けないと




