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1,仮)ですが、売られました9

私たちがその場をさろうとしたことを本能的に察してか、男の子の視線がこちらに向く。

こちらを見て男の子の顔がぐしゃりと歪み、今にも泣きだしそうな表情になった。

こんな小さな子が数分でもよく頑張ったほうだと思う。

普通なら、もうとっくに泣き出してしまってもおかしくはない。

でも声を上げてしまうと、それはあの化け物の注意を引いてしまうことになる。

いけない!!

さっきまで硬直してまったく動かなかった体が、咄嗟に男の子の方へ動く。と同時に、男の子の堰をきったような泣き声。その声に反応する魔物とぎょろりと動く3つの目は、男の子と腕を伸ばした私のほうへ動く。3つの目の視線がばらけていて気持ちが悪い。

魔物は1度大きく咆哮を上げると、地面を蹴って私のほうへと突進してくる。

殺させる!!!

私は頭を抱えるようにして、うずくまる。こういうときは声すら出ない。

もうだめだ。こんなところで魔物に食われて死ぬなんて。痛いのやだよ。

一瞬の沈黙のあと、ドンという鈍い音と魔物だろうか、ギャーという悲鳴のような声。

その声にびっくりして顔を上げると、私の前にはカイトの背中がみえる。私に向かっていた魔物は、横に倒れて起き上がろうとしているところだった。

け、蹴り飛ばしたの!!!???

そして腰の剣を抜きながら、カイトが魔物へ走り寄る。

魔物も素早く体制を整え、カイトへ突進していく。

その光景は、まるで舞でもみているかのようだった。

カイトはひらりと魔物の巨体を交わすと、剣をふるう。魔物の胴体と頭はあっけなく切り離され、魔物は声を上げることすら叶わず、その場に崩れ落ちた。魔物の体はびくびくとふるえ、切られた個所からはドロドロと血が流れ出す。その血の色は、黒とも黒っぽい紫のようにも見え、アンモニアのようなツンとした匂いが漂い出した。みるみるできる血だまりのなかで三つの目は光を失い、飾り物のように沈黙している。

カイトは剣を振り、剣についた血のりを払う。1回の振りで、その剣は傷んだ様子もなく、白磁色に輝いていた。

あっという間すぎて、何がなんだか理解が追い付かない。

そんな私をよそに、カイトはてきぱきと動き出す。

まずは荷車の下敷きになっていた母親を助け出し、木陰へ運ぶ。

母親の意識はまだ戻っていないようだが、カイトの様子をみるかぎり命に別状はないようだ。

泣き続ける男の子も母親の傍へ連れて、母親の手を握らせ、大丈夫ですよと優しい声をかける。

そしてすぐに血だまりになっている魔物のそばへ行くと、自分の首にある革ひもを引っ張って何かを取り出そうとしていた。上着の下に隠れていたのでわからなかったが、首からは印籠のような形のものがぶら下がっていたようだ。手に平にすっぽりと収まるくらいの大きさのそれは、黒っぽい紺色で、水戸黄門さまの印籠のように真ん中に何かの模様が入っている。たまにカイトが握りしめていたのは、この印籠だったことがわかる。

カイトは印籠の蓋を開けると、中身を少しだけ血だまりにふり掛ける。

白い粉がさらさらと魔物にかけられたと思ったら、ジュっという蒸発したような音とともに、さっきまで小さな池のようになっていた魔物の血が消えた。

残っているのは、魔物の頭と胴体。鼻をつくようなアンモニア臭も一瞬で消えてしまった。

は??何をしたの??

問いかけるような視線をカイトへ向けるが、カイトは意にも介さず、母子の使用していた荷車に魔物の屍を乗せる。

そして、やっとこちらへと視線を向けてくれた。

「立てますか?」

カイトは、私に手を差し出す。私はカイトの手を取り、立ち上がると、カイトが私の耳元で小声で話し出す。

「魔物の血肉は、すぐに他の魔物を呼んでしまいます。血液は処理したので、この場は大丈夫ですが、すぐにこの屍を処理する必要があります。

幸い、向こうに川があるので、そこで私が処理をしてきます。処理中にも魔物が寄ってくる可能性があるので、アルドラムダ様はここであちらの母子と待っていてください」

早口で伝えてくるカイトの言葉を必死で聞き取り、なにが幸いなのか、川でどんな処理をするのかもわからないが、とにかく必死にうなずく。

「この街道を使うものから何かを尋ねられた時は、運んでいた甕を倒してしまい、途方に暮れていると話してください。決して、魔物のことは言わないように。そしてそれを母子にも伝えてください。またできるならば、アルドラムダ様はあの母子と家族のようにふるまっていただいたほうが、道行くものたちに怪しまれにくいと思います」

「家族のようにって、あの子の親ってことよね。わ、わかったわ」

すごく真面目にうなづいたのに、カイトにはあきれたような溜息をつかれてしまった。

「話し方に注意をお願いいたします」

そういってカイトは、荷車を引きながら道のない雑草のしげる中に、そうそうに姿を消してしまった。


取り残されたのは、いまだに意識の戻らない母親と、その母親の横で必死に手を握り心配そうにしている男の子。涙は止まったけど、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

私は荷物から小さな布を出し、竹筒の水で少し濡らす。その布を男の子に差し出すが、男の子はただ首を横に振って母親の手を放そうとしない。

私は、男の子の顔に手を伸ばし、嫌そうに顔をしかめる男の子の顔を拭いてあげる。

きれいになったと思ったら、すぐに目には涙がたまり、大粒の涙が溢れ出した。

「おかあちゃん、、、」

泣き喚きたいのを懸命にこられているが、涙が出ることは止められないようだ。

こちらとしては、喚かないだけでもありがたい。喚かれたところで、どうしたらいいのかわからない。

子どものあやしかたなんて知らないもの。

でも、この状況もとても居心地が悪い。

私は、荷物をあさり、おやつ用の蒸した芋を見つけた。

その芋を男の子の目の前に差し出す。さっきの手ぬぐいのように断られると思ったが、男の子は涙を流しながら芋を受け取り、右手に芋を持ち、左手は母親の手を握りながら、泣きながら食べだした。

竹筒も差し出すと、母親の手を放して受け取り、水と芋を交互に口に入れる。

その様子をただみていたら、母親がううーんと声を発しながら、少し身を動かした。

「おかあちゃん!!」

男の子は急いで芋をほおばり、水で流し込むと、母親の肩をつかむ。

「おかあちゃん!!おかあちゃん!!」

男の子の問いかけに、母親はゆっくりと目を開ける。

「大丈夫ですか?」

私は、頭を押さえながら半身を起こそうとしている母親の体を支える。

「、、、ここは」

母親の掠れた声に、男の子が手にしていた竹筒を渡した。

私のなんだけど、、、、まあ、私も同じことすると思うし、いいんだけど。

「ここは、、、。私はなんで、、、」

竹筒の水を一口飲み、再度、母親は周りを見回す。

何が起こったのか、わからないでいる。それもそうだ。荷車を引いていた母親の背後にあった甕が襲われ、気を失っていたので、母親は魔物のことすらしらないだろう。

「三つ目だよ、三つ目が襲ってきたんだ」

男の子は必死に説明しようとしているが、母親は割れた大甕をみて、目を見張った。

「なんてこと、、、、なんてことが、、、」

母親の体が小刻みに震えている。

大事な大事な荷物だったのだろう。

掛ける言葉が見つからない。

母親は茫然としながら、男の子の一生懸命な説明をなんとか理解しようとして聞いている。




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