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ずっとずっと【改稿版】  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 過去と未来と
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099 迷い

 


 その後リビングでしばらく話し、信也は秋葉を駅まで送っていった。

 その間、早希は和室に閉じこもっていた。

 気になった信也が一度だけ顔を見せたのだが、


「ちょっと感傷的になっちゃって……私は大丈夫だから、信也くんは秋葉さんのこと、お願い」


 そう言って笑っていた。

 信也は道中も、そんな早希の様子が気になっていた。


「早希さんが……ね」


「え……あ、ああ、早希がどうかしたか」


「変な感じなんだけど、あの家にまだいるんだなって思ったの」


「……そっか」


「あんなに早希さんと話したの、初めてだった。一度目は信也と付き合いたいって話だったし、二度目も結婚のお祝いだったから。

 でもあの時ね、私思ったんだ。もしかしたらこれから、早希さんともっともっとお話し出来るのかもって。そう思ったら嬉しくて」


「……」


「でも、あれが最後のお別れになっちゃって……だから今日、いっぱいお話ししたの」


「ありがとな」


「不思議な感じだった……本当に早希さんが傍にいて、私を抱き締めてくれたような気がして」


「うん……」


「早希さんの匂いもいっぱい残ってた。そっか、早希さんは亡くなってからも、信也のことを見守ってるんだ……そう思ったらね、ちょっと嬉しかった」


「……今日はありがとな。なんか、姉ちゃんが変な気をまわして悪かった」


「ううん、怒らないであげて。折角の誕生日なんだし」


「そうだったそうだった。秋葉、悪いけどこれ、姉ちゃんに渡しておいてくれないか。誕生日プレゼント」


「ふふっ。ちゃんと用意してたんだ」


「ずっとポケットに入れてたんだ。手ぶらで行ったら蹴られるからな」


「確かにね、ふふっ……でも信也、ありがとう」


「何が?」


「今日、付き合ってくれて。すごく楽しかった……だから私、知美ちゃんに感謝してるよ」


「俺も楽しかったよ。お前とこんなに話したの、久しぶりだったしな」


 駅に着き、改札前で秋葉が振り返った。


「またね、信也。ちゃんとご飯、食べるんだよ」


「分かってるよ」


「それから……あ、そうだ。信也、ひょっとして煙草やめた?」


「いや、やめてないけど」


「そう、なんだ……今日は煙草吸ってるの、見なかったから」


「見たら怒るだろ。別にそこまで中毒な訳でもないし、一日ぐらいなら我慢出来るから」


「我慢出来るんだったらやめないと。駄目だよ、体に悪いんだから」


「そうだな。楽しみが減るのは寂しいけど……考えてみるか」


「本当!」


「あ、いやその……考えるだけで」


「嬉しい。信也の口から禁煙って言葉が出て来た」


「いやいや、捏造しないでくれませんか。考えるだけですから」


「分かってるよ、ふふっ……でもね、信也にまで何かあったら私、受け止めきれないから」


 そう言うと、秋葉が額を信也の胸に当てた。


「……秋葉?」


 見ると、指で袖をつかまれていた。


「こうして信也と話せて……嬉しかった」


「俺もだ」


「ありがとう、信也……またね」


 そう言って信也から離れると、小さく手を振って改札に入っていった。


「またな、秋葉」


「うん。またね」


 そう言って駅に入った秋葉を、信也は姿が見えなくなるまで見送った。





「気に入ってもらえたかな、私のプレゼント」


 遊歩道を歩きながら。信也は知美に電話していた。


「いやいや、今日は姉ちゃんがもらう方だから。そこ、間違えるなよ」


「にゃはははっ、細かいことはいいんだよ。それよりどうだった? 秋葉とのデートは」


「楽しかったよ。秋葉も言ってたけど、久しぶりに色々話せた」


「そうかそうか、それはよかった」


「でもな、姉ちゃん……誕生日に言いたかないけど、もうこういうのはやめてくれよな」


「こういうのって?」


「早希が死んで半年しか経ってないんだ。それなのにこういう……見合いみたいなの、困るっていうか」


「楽しかったんだろ? だったらいいじゃない」


「いや、そういう問題じゃなくて……俺のことを心配してくれるのは嬉しいよ。でも」


「あんたの為って訳じゃないよ」


「どういう意味だよ」


「秋葉と早希っちの為なんだよ」


「姉ちゃん、だからそういうのは」


「別に私は、あんたらを無理に引っ付けようとしてる訳じゃない。大体そんなことしたって、あんたらどっちも頑固なんだし、どうしようもないことぐらい分かってる。でもな、きっかけを作るぐらい、してもいいだろ」


「きっかけって」


「後はあんたら次第ってことだよ。それでどうにもならないんなら、それもよし。でも、最初から何もしないってのは、嫌いだから」


「姉ちゃんだって怒るだろ、俺にそんなことされたら」


「私? にゃはははっ、どうだろうね」


「姉ちゃんだって裕司さんのこと、まだ忘れられないんだろ? あれから何年経ってると思うんだよ。それでも姉ちゃんから男の話、全然聞こえてこない。だったら分かるだろ、俺の気持ち」


「私には勇太がいる。それだけで満足してる。今は勇太のことしか考えてない」


「でも」


「まあいいじゃないか。今日は愛する姉ちゃんの誕生日、そんな声出すなって」


「……分かったよ。じゃあ家に着いたから」


「そっか。じゃあ早希っちにもよろしくな」


「ああ。じゃあまた」


「おう、また」


「誕生日おめでとう」


「にゃははははっ」





 信也と秋葉が家を出てすぐに、由香里がやってきた。


「おじゃましますね……あれ? お姉ちゃん?」


「……由香里ちゃん。いらっしゃい」


「どうしたんですか、電気もつけずに」


「うん、ちょっと……ね」


 そう言って部屋の灯りをつけた。


「由香里ちゃんが来るなんて珍しいね」


「お姉ちゃん、やっぱり変です」


「何が?」


「夕方には来てくれるって言ってたじゃないですか。いつまで経っても来ないから、心配になって来たんですよ」


「あ……ごめんごめん、そうだったね。お客さんが来てたから、うっかりしちゃってたよ」


「お客さんって、お兄ちゃんのですか?」


「うん……信也くんの幼馴染」


「それって、前に話してた」


「そう、秋葉さん……私にお花を持ってきてくれたんだ」


「大丈夫ですか、お姉ちゃん」


「大丈夫よ。ただ、久しぶりだったから興奮しちゃって。少し疲れたみたい」


「お姉ちゃん、その秋葉さんって」


「それで? もしよかったら今から行くけど、話って何だったのかな。比翼荘で聞いた方がいい?」


「……お姉ちゃん」


「ほんとに大丈夫だってば。はい、変な空気はここまで。次いってみよーっ」


「……分かりました。お姉ちゃんがそう言うなら、これ以上は聞きません」


「ありがと」


「実は私、そろそろ旅に出ようかなって思ってるんです」


「旅に?」


「はいです。沙月さんも、元の姿に戻って楽しそうにしてます。涼音さんも、前より元気に歌を歌ってます。

 お兄ちゃんに、元の姿に戻りたくないかって聞かれて……まだちょっと悩んでます。でも私も、新しい一歩を踏み出したい、そう思って」


「そうなんだ」


「それでですね、こうして悩んだ時は私、旅に出るって決めてるんです。そうすれば何か見えて来るんじゃないかと思って」


「旅かぁ……いいな、私も行ってみたいな」


「それで、なんですけど……よかったらお姉ちゃん、一緒に行きませんか」


「え」


「前に言ったじゃないですか、いつか一緒にって。今回は近場で、二週間ぐらいでって思ってます。それぐらいなら、ひょっとしたらお姉ちゃんも行けるかなって」


「旅……そうだね。うん、いいかも」


「本当ですか!」


「勿論、信也くんにオッケーもらえたらだけど」


「分かりましたです。嬉しいな、お姉ちゃんと一緒に行けるんだったら、すっごく楽しい旅になると思います。あはっ」


「旅で色んなものを見て、自分自身を見つめなおす……これからどうしていくのか、どうやっていきたいのか」


「……お姉ちゃん?」


「だから私、由香里ちゃんと一緒に行くよ。行きたい!」




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