078 絆
「なんで? なんで信也くんに聞こえるのよ」
「なんでって言われても、俺が聞きたいぐらいで」
「ほんとに聞こえるの?」
「ああ、確かに聞こえた。涼音さん、もう一度何か言ってくれませんか」
「あの、その……私、人とお話しするのが苦手で」
「あの、その……私、人とお話しするのが苦手で」
涼音の言葉をそのまま口にする。
「あってる……信也くんすごい! 涼音さんの声が聞こえてる!」
「でもなんで……俺、別に霊感なんか持ってないぞ」
「……信也さんは今、早希さんと触れ合ってます……ひょっとしたら、そのせいかも……」
「早希と……」
「それだ! 信也くんには私という幽霊が見える。その私と触れ合ったから、他の幽霊も見えるようになったんだ!」
「マジか……」
「さすが私の旦那様!」
「……信也さんが見た物を信じる人だってことと、早希さんと信也さん、二人の絆が奇跡を生んだのかも」
「信也くんっ!」
「どわっ!」
「抱き締めてもよかですか」
「かかってきなさい」
「むぎゅーうっ!」
「早希さん……積極的」
「あ……そうだったそうだった。ええっと……涼音さん、ですよね。はじめまして、早希の夫、紀崎信也です。いつも早希がお世話になっております」
「あ、ご丁寧にどうも、涼音です……私の方こそ、早希さんにはいつもお世話になりっぱなしで……それでその……信也さんは私のこと、怖くないんですか?」
「怖い、ですか? いや、それはないですけど」
「やっぱり信也さん、面白い……」
「そうですか?」
「私は比翼の中でも、特に変わった存在ですから……触れられないどころか、姿も見えない……生きてる人ならなおさら、怖がってもおかしくないのに」
「いや、怖いと言われましても……涼音さん、俺に危害を加える気があるんですか」
「そんなそんな、とんでもありません」
「ですよね。じゃあ怖がる必要ないですよ」
「……私の彼も、信也さんみたいな人だったらよかったのに……」
「あーっ! 涼音さん、それだけは駄目ですからね。信也くんは私だけのものなんですから。信也くんも鼻の下伸ばさないの。最近伸びっぱなしよ」
「伸びてねーよ。それに何だよ、最近って」
「だって、あやめちゃんに抱き着かれても伸びてたし、さくらさんの時だってこーんなに伸びてたし」
「信也さん、モテモテなんですね」
「いやいやいやいや、それ誤解ですから。誤った認識は今すぐ捨ててください。俺は誠実さが売りなんで」
「まーたそうやって、今度は涼音さんの好感度まで上げるつもり?」
「なんでだよ。てか、好感度って何だよ」
「ふふっ……お二人共、仲がいいですね。それに楽しそう」
「……いつも冤罪で責められてるだけですけど」
「信也さん、ありがとうございます。早希さんから聞いてると思いますが、私は彼に存在全てを否定されて、今の姿になりました。
今は比翼荘の一員になれて、友達も出来て楽しいんですけど……それでもやっぱり、この姿が辛い時もあります……でも信也さんは、こんな私のことも受け入れてくれて……嬉しいです」
「俺の方こそ、早希と仲良くしてくれて感謝してます。早希はいつも元気で、決して泣き言や愚痴を言いません。でも本当は寂しいに違いない、そう思ってました。だから涼音さん、早希と友達になってくれてありがとうございます」
「信也くんっ!」
「どわっ! て、これ何回するんだよ」
「いいの。嬉しい時はいつだってこうするの」
「よしよし」
「えへへへ。信也くんの手、あったかい」
「と言うことで、これからよろしくお願いします、涼音さん」
三人は比翼荘へと向かっていた。
他の人たちも見えるのか確認したい。早希からの頼みだった。
「……ここだよな。いつ来ても不気味な屋敷だ」
「中は綺麗だから。ある意味これはカモフラージュ」
「信也さん、あの……大丈夫ですか? 勢いでこうなっちゃいましたけど、今更ですがよかったのかなって」
「いえ、俺もここの話を聞いてから、一度ご挨拶出来ればって思ってましたから。どちらかと言うと、みなさんの方が大丈夫なのかなって。生きてる人間がいきなりやって来て」
「それは大丈夫だと思います。沙月ちゃんは……ひょっとしたら嫌がるかもしれませんけど」
「拒絶されたら帰りますね。それと……正面から入っていいのかな」
「どうして? お客様なんだから、堂々と入ってよ」
「そうじゃなくて。俺が入るのを誰かに見られたら、困らないかってこと」
「ああ、そういうことね。ちょっと待ってて」
そう言うと早希は飛び、辺りを一回りしてから降りてきた。
「大丈夫、周りに人はいないよ」
「よし、じゃあ今のうちに入るか」
三人が中へと入っていった。




