表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/134

076 早希がしたいこと、応援するよ

 


 食事が終わると、リビングのソファーで二人はくつろいでいた。

 早希は信也の腕にしがみつき、嬉しそうに笑っている。


「いつも以上に甘えたさんモードだな」


「この腕は私のなんだから、いつでも好きにしていいんです」


「これは俺の腕だと何度言えば」


「この腕にこうしてるだけで私、戻ってよかったって思う」


「そう……なのか? ま、まあいいか、そんなにお気に入りなら、今日は好きにしていいよ」


「ありがと。大切に使わせてもらいます」


「しかし……穏やかな休日だよな」


「そうね。もう夕方だけど」


「それは先ほども申しましたように、ほんと、申し訳ございません」


「まあ、それだけ信也くんの寝顔見れたからいいんだけどね。悪戯(いたずら)も出来たし、結構楽しかったから許します」


「おいおい、変なことしてないだろうな」


「どうでしょう、ふふっ」


「それでさっきの続きなんだけど」


「そうだったね、さっきの続き。何かな」


「いや、な……早希、昨日何かあったよな。帰りも遅かったし、泣いてたし」


「アライグマですけどね」


「ま、まあそれは置いといて……どうだ? 俺に言えることか?」


「うん。純子さんもいいって言ってたし、隠すようなことじゃないよ」


「入籍した日、早希が会ったって人か」


「流石信也くん、よく覚えてたね」


「そりゃ、早希が話したことは覚えてるよ」


「な……も、もぉーっ! また信也くんってば、そんな嬉し恥ずかしいこと言っちゃって!」


「いってぇーっ! だからお前、その突っ込みはやめてくれと何度も」


「あはははっ、ごめんごめん」


「それで? その純子さんがどうしたんだ?」





「……なんかすごい話だな」


「でしょ? 私もびっくりしたんだから」


「比翼荘か……」


「あやめちゃんから聞いてはいたけど、近くにそんな場所があるなんて、思ってもみなかった」


「その屋敷なら知ってるよ。たまたま見かけたんだけど、かなり印象深かったから」


「外からだと、幽霊屋敷そのものでしょ」


「だな。わざわざ中に入ろうとは思わないな」


「でもね、中は驚くぐらい綺麗なんだよ。みんな大切に使ってるから」


「一度ご挨拶にと言いたいところだけど、どっちにしても俺には見えないんだよな」


「そうだね。純子さんもそう言ってたし」


「でもよかったな。仲間が出来て」


「特に由香里ちゃん。あの子とは気が合いそう」


「霊体の子か」


「うん。それで由香里ちゃんに、いつか一緒に旅に行きませんかって誘われて」


「いいじゃないか。行ってこいよ」


「ほんとに? 場所によったら、何か月も帰ってこれないんだよ?」


「この言い方が合ってるのか分からないけど、早希も生きてるんだ。俺との生活を大切に思ってくれるのは嬉しい。感謝してる。でもそのことにとらわれ過ぎて、自分がやりたいことを我慢するのは違うと思う。そりゃあ早希がいないと寂しいけど、俺は早希を縛りたくないんだ。

 それに前に話したことがあったろ? 何か熱中出来る物はないのかって。一緒に探そうって言ったけど、もし由香里ちゃんと世界を回る、それが早希にとって楽しいことなんだとしたら、俺は行くべきだと思う。応援するよ」


「信也くんっ!」


「どわっ!」


「抱き締めてもよかですか?」


「抱き締めてる抱き締めてる」


「じゃあこれも」


 唇を重ねると信也も腕をまわし、早希を抱き締めた。


「ふふっ、幸せ」


「それで? 早希が一番考えてしまったのが、沙月さんだったか」


「うん。沙月さん、いつか私も裏切られるって」


「なんか、自分の話を聞いてるみたいだな」


「そう思うよね。だから私、沙月さんと仲良くなって、いつか彼氏さんとも話をしたいの」


「話してどうするんだ?」


「沙月さんとちゃんと向き合ってもらいたいの。もしそれが出来たら沙月さん、元の姿に戻れるんじゃないかと思って」


「確定した状態をひっくり返すのか。でもそんなこと、出来るのか?」


「正直分からない。やってみないと」


「そっか。前例がある訳じゃないんだな」


「でもね、あの姿はあまりにも可哀想だと思うの」


「だよな。見てないから何ともだけど、女の子には酷だな」


「だから何とかしてあげたいの。その為にも仲良くならないと」


「ちょっと待った」


「何?」


「彼氏と話したいって言ったよな」


「うん」


「出来ないんじゃないのか?」


「あ……そうだった」


「あのなぁ……作戦、穴だらけじゃないか。早希が話せるのは俺とあやめちゃんだけ。その彼は沙月さんとしか話せない。となるとこの話、詰んでないか」


「信也くんに話してもらおう!」


「やっぱりそうなるのか」


「……駄目?」


「いや、駄目ってことはないけど……まあでも、昨日会ったばかりなんだ。まずは仲良くなるところからだな」


「そうだね、頑張るよ」


「俺のことは気にしなくていいから、いつでも行ってきていいんだぞ。それに夜。早希だけじゃなくて、みんな寝る必要がないんなら、会って来てもいいんだからな」


「いいの?」


「早希が自分の世界を広げていく為なんだ。俺も協力しないとな」


「ありがと。理解ある夫で嬉しい」





「それで明日からなんだけど、本当にどこにも行かなくていいのか?」


「うん。この連休は、信也くん充電祭りということで」


「どんな祭りなんだか……でもあやめちゃん、そろそろ来るんじゃないか」


「そうだった忘れてた! 勉強会、準備しないと」


 慌てて浮き上がり、テーブルの上を片付け始める。


「洗い物は俺がするから、早希は教科書の用意しておいで」


「ありがと、信也くん」


 頬にキスをすると、早希が嬉しそうに信也の頭上をぐるぐる回った。


「ははっ……これ、なんか可愛いな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ