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075 二人の休日

 


「ん……」


 息苦しさに目覚めると、やわらかい何かに視界が遮られていた。

 早希の胸だった。


「……早希さん、ちょっとだけ苦しいんですが」


「あ、信也くん起きた? えへへへっ」


 照れくさそうに体を離す。その照れ方が可愛くて、今度は信也が抱き締めた。


「可愛いやつめ。そんなやつはこうしてやる!」


 早希を抱き締めたまま、ごろごろと転がっていく。


「え? 何、どうしたの信也くん?」


「お仕置きだこの野郎。ほれほれ、目を回せ目を回せ!」


「ぷっ……あははははっ、ちょっとやめてよ」


「まだまだ! こんなもんじゃ済まさないぞ!」


 そう言って、部屋の中を転がりながら笑った。





「あー、いい目覚めだった」


「信也くん、テンションおかしい」


「ゴールデンウイーク初日だからな」


「だよね。なんといっても10連休」


「10日も目覚ましなしの生活。こんな幸せなことはない」


「だよねー。だよねだよねだよねー」


「あれ? 早希さん、ちょっとご機嫌斜め?」


「べーつーにー。私は信也くんの妻ですし、旦那様の望みを叶えるのが仕事ですからー」


「……まさか」


 恐る恐る時計を見ると、13時をまわっていた。


「ぬおっ! こんなに寝てたのか俺!」


「それはそれはもう、ぐっすりと」


「……マジか」


「あーあ、一日目は寝て終わりかぁ」


「わ……悪かった。ごめん、謝る」


「せっかくのお休みなのになー」


「だからごめんって。そうだ罰ゲーム! 何でも言っていいから」


「ふーん」


「だからその……機嫌直して?」


「……ふふっ、嘘嘘。怒ってないよ」


「……毎度毎度、このやり取りは心臓に悪いぞ」


「信也くん、昨日まで仕事大変だったもんね。それに昨日はその……遅くまで」


「ん?」


「もぉーっ、何言わせんのよっ!」


 信也の背中を景気よく叩く。


「いってぇーっ! だからお前、ちょっとは加減という物を」


「信也くん」


 早希が信也の胸に顔をうずめた。


「私……こんな幸せでいいのかな」


「幸せが悪いみたいに言うなよ。それに大丈夫、俺の方が幸せだ」


「……」


「どうした?」


「……私の方が幸せなの!」


「も……もがもが……」


 胸に顔を押し付けられ、信也が苦しそうにもがく。


「信也くん好き! 好き、大好きーっ!」

 

 信也がたまらずタップする。


「あ、ごめん」


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」


「さくらさんより小さい胸ですけど」


「……それはまた別のお話と言うことで」


「ふふっ」


「なんかあったか」


「え?」


「昨日帰ってから、様子がおかしいと思ってたんだ。言いたくないなら無理に聞かないけど、なんて言うかその……悩んでるんじゃないかと思ってな」


「……バレバレだよね。でも信也くん、やっぱ優しい。昨日は何も聞かなかったし」


「昨日はお前、聞く前にハリセンでフルボッコにしてたじゃないか」


「しょうがないじゃない。私のこと、アライグマだなんて言うんだから」


「アライグマかわいいだろ? アニメにもなってたし」


「そういう問題じゃありません」


「あ、はい、すいませんでした、以後気を付けます。じゃなくて……そうだ、その前に聞きたいことがあったんだ。ずっと気になってたんだけど、聞いてもいいか?」


「じゃあその前に私の機嫌、直してくださる?」


「喜んで」


 唇を重ねる。初めは触れる程度に。

 何度も繰り返し、そして熱く激しく求め合う。


「ぷはぁ~」


「おはよう早希」


「おはよう信也くん」


 そう言って額を合わせ、笑い合った。


「聞きたいことって何?」


「お前、ひょっとして眠れないんじゃないか?」


「あら、気付いちゃった?」


「やっぱりか……もっと早く言ってくれよ」


「言ったら信也くん、絶対付き合おうとするでしょ」


「お前、幽霊になって心も読める様になったのか?」


「それぐらい、読まなくても分かるわよ」


「マジか……俺には早希の心、まだまだ分かってないってのに……修業が足りないな」


「精進するように」


「面目ない……じゃなくて、ほんとに眠れないのか」


「うん。この一か月、全然寝てないよ」


「じゃあ俺が寝てから、ずっと起きてたのかよ。寂しくなかったか?」


「信也くんの寝顔見てたらすぐ朝になっちゃうから。問題ないよ」


「じゃあ俺、もう少し寝るの遅くするよ」


「だーかーらー、そう言うのが分かってたから言わなかったの。いい? 私は幽霊、だから眠らなくても大丈夫なの。でも信也くんは違うでしょ? 信也くんは睡眠をとらないといけない体なの。そうじゃないと病気になっちゃう。言うことを聞かないなら私、あやめちゃんの部屋に行くからね」


「あ、いや……それは勘弁。早希が一緒に寝てくれないと俺、ほんと眠れないんだから」


「え……」


「早希と付き合いだしてから俺、一人だと寝れなくなっちまったんだ。早希と一緒じゃないと駄目なんだよ」


「信也くんっ!」


「どわっ!」


「抱き締めてもよかですか」


「……もう抱き締めてるよ」


「むぎゅぅーっ」


「ははっ、機嫌直って何よりだ」


「連休、予定は決めた?」


「うーん、色々考えてはいたんだけど、やっぱ早希の希望を聞きたいと思ってた。前にこの辺のことは教えたろ? 気になるところがあるなら、そこに行ってもいいかなって」


「私の希望、言っていい?」


「ああ」


「こうして部屋で、いちゃいちゃしてたい」


「10日間ずっと?」


「散歩はしたいけど」


「そんなんでいいのか」


「10日もあるし、また気が変わったらおねだりする。でも今は、こうして一緒にいたいの」


「分かった。早希がそう言うんならそうしよう」


「ありがと」


「じゃあ一旦起きよっか。一緒にシャワー浴びよう」


「頭、洗ってあげる。と言うか、体も洗ってあげる」


「じゃあ洗いっこで」


「うん、そうしよーっ!」




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