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054 これからもよろしく

 


「秋葉さん、今日はありがとうございました」


「私こそ……急に押しかけてごめんなさい」


「そんなこと。でも本当、嬉しかったです」


「そうだ。ちゃんと言ってなかったから……早希さん、ご結婚おめでとうございます」


 そう言って、秋葉が頭を下げた。


「あ、ありがとうございます」


 早希も慌てて頭を下げる。


「幸せになってください。それから信也のこと……よろしくお願いします」


 その言葉に、早希は思わず秋葉を抱き締めていた。


「早希さん?」


「秋葉さん……私、約束します……絶対に信也くんのこと、幸せにします」


「うん……」


「それから……本当にありがとうございました……秋葉さんのおかげで私、前に進めたんです」


「そんなこと、ないと思うよ。早希さんはいい人。きっと信也のこと、大切にしてくれる。幸せにしてくれる。だから私、安心してる」


「私……秋葉さんの気持ちを考えたら」


 早希が肩を震わせる。


「ごめん、ごめんね秋葉さん……私、秋葉さんから信也くん、取っちゃった……」


「……」


「秋葉さんの気持ち、分かってたのに……」


 秋葉が早希の頭を撫でる。


「前にも言ったけど、もう終わったことだから。信也は私にとって、大切な幼馴染。それでいいの」


「嘘……秋葉さん、今も信也くんのこと」


「奥さんがそんなこと言わないで。信也がかわいそう」


「でも……」


「早希さんのおかげで、またこうして信也と話せるようになった。私はそれで十分。

 信也にはこれから、いっぱい幸せになってほしい。だから早希さん、お願いね」


「うん、うん……」


「信也のことを好きになってくれて、ありがとう」


「……」


「好きになってくれたのが、早希さんで本当によかった」





「ただいま」


「おかえり。遅かったな」


「うん。なんだかんだで、駅までついていったの」


「それなら俺も、行けばよかったな」


「ううん、女二人で色々話したかったし」


「……なんか怖いな。聞かなかったことにしよう」


「あやめちゃん、もう帰っちゃったの?」


「ああ。秋葉が出てすぐにな」


「後片付け、してくれたんだ。ありがとう」


「ああ、特にすることもなかったしな……?」


 早希が信也を抱き締める。


「何かあった?」


「分かってるくせに。ほんと信也くんって、察しがいいくせにすぐとぼける」


「ははっ、悪かった」


 そう言って額にキスをする。


「何も聞かないの?」


「いいよ。何となく分かるから」


「……やっぱちょっと、腹立つな」


「ははっ、悪い……なあ早希」


「何?」


「今日まで本当、ありがとな」


「何よそれ。お別れの挨拶みたいじゃない」


「でも言いたくなった」


「私こそ、ありがとう」


「ほら、ちゃんとこっち見て」


「……やだ」


「そんなこと言わずに。ほら、こっち見て」


「……」


 顔をあげた早希に、信也が優しくキスをする。


「明日からよろしくな、早希」


「こちらこそ……私、いい奥さんになるから」


「俺も自慢出来る旦那になれるよう、頑張るよ」


「私も……絶対信也くんを幸せにする。その為にも頑張る」


「早希は頑張らなくていいよ」


 そう言って、少し赤くなった早希のまぶたを優しく撫でた。


「早希は今のままでいいよ。俺、充分幸せだから」


「でも」


「俺が今、一番傍にいてほしいのは早希だ。そして明日、その早希と夫婦になれる。それ以上、何も望んでないから」


「信也くん……」


「だから早希、そんなに肩の力入れなくて大丈夫。今まで通り、楽しくやっていこ?」


「分かった……でも、やっぱなんか腹立つな。信也くん、察しよすぎる」


「そうか?」


「そうだよ。秋葉さんのこと、何も聞かないし」


「ははっ。じゃあご機嫌斜めのお姫様の背中、流してあげよう」


「優しくしてよ」


「勿論」


 そう言ってもう一度キスをすると、二人は手をつないで風呂場へと向かった。


「早希」


「何?」


「呼んでみただけ」


「ふふっ……何よそれ」


「こうして好きな人の名前を呼べる、それだけでも幸せなんだな」


「信也くん」


「何だ?」


「呼んだだけ」


「ははっ」


「これからよろしくね、私の旦那様」


「ああ、よろしくな、俺の奥様」




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