真の勇者
「おい...おい!起きろって!!」
肩を強く揺さぶられ、一気に目が覚める。次の瞬間、伸びをする暇もなく、目の前にとんでもない光景が広がってきた。
どこかしこから聞こえてくる生徒の悲鳴、怒号を飛ばす教師、吹き飛んでくるパイプ椅子。いつのまにか舞台上に現れた巨大なスライムが、その体から幾つもの触手を伸ばし、暴れ回っている。
「な、なんだコレ!?」
「知らねえよ!お前も早く逃げ...うわ!?」
頭上の何かに驚いて逃げ出す同級生。次の瞬間、視線を追う暇も無く、吹き飛んできた何かに押しつぶされた。
「ぶほぁ!?」
「うう...」
パイプ椅子から転がり落ち、冷たい床に叩きつけられて一瞬止まる呼吸。何かが呻く声が聞こえ、かろうじて顔を上げると、巨大スライムに吹き飛ばされたであろう生徒が覆い被さっていた。
「いたた...あっ!?ごっ、ごめんなさい!大丈夫!?」
「俺は大丈夫だから...早く...どいて...」
「そ、そうだね...よいしょ...」
「久万ぁーーーッ!!」
「ぶばぁッ!?」
やっと体の重しが無くなろうとしていた所に、聞き覚えのある大声の主に勢いよく腹部を踏みつけられた。
「ぶ、部長!」
催してきた吐き気に耐えながら再び顔を上げると、勇者部の部長がその手に剣と盾を携え、俺の上に仁王立ちしていた。
「無事のようだな!ネブが向こうで避難誘導をしているから、手伝ってやってくれ!」
「は、はい...!部長は...!?」
「勿論、戦う!」
「む...無茶ですよ!あのスライム、あんなに大きくて...絶対勝てないです...!」
「...よく聞け、久万」
「はい...」
「私はこの世界に生まれ落ちた時から、勇者となるために全てを捧げてきている。そんな私から、ありがたい言葉をくれてやろう。お前も勇者を志して長いな?」
「考えたこともなかったです」
「...それはそれとして。ともかく!勇者は生まれ持った力や、血筋で決定されるものではない!真の勇者とは!恐怖に抗い!自らを顧みず!他者の為に行動を起こす者のこ」
「なんでもいいから早く降りろォ!!!」
いつまでも人の上で会話を続ける二人を怒鳴りつける。久万と呼ばれた生徒は思い出したかのようにずるりと体を起こし、部長の方は「お前いたんか」とでも言いたげな顔で驚き、そっと俺を踏み締めていた足を下ろした。
「...あっ!!貴様さっき逃げた失礼なヤツか!!」
「どの口が言っとんじゃァ!!」