ユニバーサル入学式
四月のまだ少し冷たい風が吹き抜けていく、爽やかな朝。『入学式』の看板と装飾で彩られた校門を、新一年生が次々に通っていく。
その表情は楽しそうだったり、はたまた緊張で強張っていたり。ただ一つ共通しているのは、みんながみんな、新たな日々に向かって前を向いているということだ。
「新一年生の諸君おはよう!!我々は皆の入学を歓迎するぞ!!」
体育館に続く道の横で、体育教師であろうジャージを纏った獣人の教師が、大きな声でエールを送ってくる。校舎の間に広がる大きな中庭に出ると、二、三年の先輩達が部活動の勧誘活動に勤しんでいる。勧誘活動...というよりは、「狩り」と言った方が正しいのだろうが。
ガタイの良いゴーレムはラグビー部に捕まり、みるからに器用そうなエルフは弓道部に捕まり、やいのやいのと先輩達の波に飲み込まれていく。
巨大スライムの捕食シーンのようなおぞましい光景に思わず身をすくめ、誰の気にも止められないようにそそくさと中庭を通り抜け...
「そこのお前!」
られなかった。
すぐ後ろから掛けられた大声に少し驚きながら、恐る恐る振り返る。
「入学おめでとう!私達の部活に参加しないか?」
すぐ後ろには、二人の女子生徒が立っていた。黒髪の生徒はムフンとふんぞり返り、その後ろで長身のダークエルフが『勇者部』と雑に書かれた看板を持っている。
「...勇者部?」
「ああ!異世界における勇者のようになることを目指し、日々人助けや事件の解決に取り組む部活だ!」
よりにもよって、かなり面倒な部活に目をつけられてしまった気がする。
「...なんで俺に声掛けたんです?別に強くもなんでもない、ただの人間ですけど」
「フッフッフ...いい質問だ」
不敵に笑った彼女は、懐からゴソゴソと何かを取り出し、こちらにつき向けた。
「これに反応があったからだッ!」
それは、異世界の文字が刻まれた、淡い光を放つ手のひらサイズの石。この世界の人間であっても、ユニバースが持つ力や能力を引き出す事ができる、【技能石】だった。...廉価版の。
「貴様がこちらに近付いてきた瞬間、これが光り始めた!何かしらのスキルを持っている証拠だ!是非勇者部に...」
「悪いけど、俺は入らないです」
「あっ」
あの奇妙な文字とぼんやりとした淡い光を、俺は知っている。それも、とてつもなく良くないものとして、だ。
孤独な学生生活を過ごし、遠方のこの高校にわざわざ時間をかけて通学している根源を目の前に、思わず逃げ出すようにその場を後にしてしまった。