月光
「ま、待って部長!ネブさん!黒君っ!!」
「くま。巻き込まれたら死ぬから...がんばって」
「あっははは!!やっばァいぞ!走れ走れ!!」
「うるさい!!誰のせいでこんなことになったと思ってんだッ!!」
隣で喚き散らす部長を怒鳴りつけながら、争うようにして廃ビルの長い通路を駆ける。
すぐ背後からは、緑色の小さなゴブリンの大群。ビル全体を揺らすほどの轟音を立てながら、獲物に群がる虫のように所狭しとこちらを追いかけてくる。
「よし!そのまま正面!!」
突然、通路の真ん中を走る部長が、その小柄な体格からは想像もつかないような力で俺と久万の腕を引っ掴む。通路は間も無く行き止まり。というか、突き当たりは大きな窓ガラスだ。
「おい!まさか...」
「まさかもまさかだ!舌を噛むなよッ!!!」
こちらの静止もままならぬ内に、部長は勢いよく地面を蹴り、強化魔法を付与したその肉体で窓ガラスを突き破る。地上八階の夜空に飛び出した俺たちを、真っ白な月光が包み込んだ。
魔法と科学が住まう国、日本。
数十年前からこちらの世界に迷い込んだという異世界の住人たちが、すっかり馴染んだ現代の社会。どうも異世界というものは一つだけではないようで、色々な価値観を持った者が、色々な経緯でこの世界で暮らしている。
人は彼らを、《異世界人》と呼んだ。
これは、凛湘高等学校『勇者部』の俺たちが、ほんの少しだけ、社会に貢献する物語だ。