愚かで尊き恋の詩
さあ、
「──────……俺は」
いけ。
頑張れ。
伝えたいこと、言葉にしたいこと────
余すことなく、贈り倒せ。
「俺は……っご存じの通り、普通の奴なんだ」
「そりゃ節々の考え方は全然、普通じゃないのかもしれないけど。絶対的な価値観とかさ、そういうのは本当、全部が全部、普通の奴で」
「できるわけなくてさ、冗談でも『三人まとめて俺のものになってくれ』なんて傲慢極まる台詞を用意するとか、そんなの考えらんなくて」
「かといって、どうやっても『一人だけを選ぶ』なんて、何回、何回、何回も、マジ、何回、頭を回しても絶対に、答えが出せなくて」
「ましてや、無理。『選べないなら全員にフラれちまおう』とか、もう無理だった。俺はもう、手放せない。俺の中で、もう存在が大き過ぎるから────」
顔色を窺っている余裕なんて、ない。
声音を取り繕っている余裕なんて、ない。
全部を、ぶちまけている。事ここに至り、格好付けるなんて土台無理で、
「────この際、ハッキリ言わせてもらうが……ッ!」
心を叫び始めた俺の口は、どうあろうと止まってくれないから。
「俺の恋愛キャパシティ上限が100だとして、お前ら全員それぞれ一人だけでコスト無限オーバーだからなッ‼︎ なんッッッなんだよ毎日毎日毎日……ッ!」
もういっそ、今この時を死地と定める意気で以って燃え尽きよう。
「毎秒、かわいすぎんだよアホかッ!!! 頭おかしくなるわッ‼︎」
「ふと隣を見れば基本いるわ、なんか常に距離が近いわ、見れば大体は目が合うわ、名前呼ぶだけで健気に嬉しそうな顔しやがって……ッ!」
「デイリーで! 許容量超過してんだよ! 掛ける三ッ‼︎ ────……ちょ、ちょっと、待ってくれ。少し落ち着くから、五秒……!」
……意気込みはいいとしても、しかし流石に最低限の調整は利かせながら。
「………………だから、さ。ほんと……────ずっと、可愛くて」
「本当に、綺麗で……俺が情けなく怖がってるモノを抱えて、皆。眩しくて」
「序列持ち、なんつってさ。いやもう本当に、振り返っても馬鹿じゃねぇのってくらいイベントの尽きない半年だったけど……なに思い出すにしても、さ」
「…………────絶対に、最初に顔が浮かぶんだ。三人、誰かしらの顔が」
真っ直ぐ見つめる度胸なんてない。
視線は、ずっと意味もなく、あっちへこっちへ右往左往。
本当に、無様で情けない、飾りを取っ払った素の俺で。
「……全部、覚えてる」
「仮想世界だけじゃない、現実世界でのことも」
「俺にくれた言葉も、表情も、全部」
「『記憶』の才能なんかに頼らなくても、全部」
「全部が────俺を俺のまま、変わらず、前に進ませてくれたから」
伝える。
伝えて、
伝えた。……ならば、
勇気を振り絞るための前置きは、もう十分だろう弱虫め。
「……ッ、────ソラ」
「っ…………、……はい」
「ニア」
「……っぅ、あぃ」
「アーシェ」
「うん」
名前を呼んで、瞳を映し合った。
一人一人、逃げずに、揺れまくってる情けない顔を曝け出したまま、突き付けたまま、見せ付けるまま。真正面から、大切な人たちの名前を。
仮想の膝に活を入れて、せめて脚ばかりは震えてくれるなと。
さあ、ほら、もう少し。
頑張れ、俺。
「────っ、これから俺が言うことは、答えだ」
「間違いなく俺が選んだことで、それしかないだろって納得したこと」
「もう、本当に……────それが一番、俺らしいよなって」
息を吸って、吐いて。
吸って────
見開いた目に映る、輝き三つ。
俺だけじゃ、ない。
いよいよを覚悟して、怯えと緊張に揺れる三人分の瞳を、
世界のなによりも、愛おしい彼女たちへ、精一杯の笑顔を贈りながら。
「────っ、三年ッ‼︎」
俺が口にするのは、時を示す言葉。
「正確には、二年と五ヶ月弱ッ……! 俺に時間をください‼︎」
そしてそれは、そうじゃない。
「〝待ってくれ〟って、言ってるんじゃないんだ……!」
それは決して、更なる先延ばしを求める甘えなんかじゃない。
……さあ、頼むよ。見ててくれ。
君たちが〝恋〟してくれた男を、俺は変わらずに貫き通すから。
「三人まとめて俺のものになってくれなんて傲慢なことは俺には言えないッ、一人だけを選ぶなんてのも今更、無理だッ、全員にフラれて綺麗サッパリ逃げちまおうなんて、他ならぬ俺の心が粉々んなって死んじまうッ……だから!」
「三年後‼︎ 最終的な〝判決〟を、三人それぞれに頼みたいッ……!」
土下座でもした方が早いくらいの勢いで以って、腰を折る。頭を下げる。
わかってる。どう足掻いても、俺が出した答えは褒められる類のモノではなく、また如何なる角度で見ようとも『誠実』とは言えない類のモノだろう。
でも、俺だから。
「勿論、今この場で、ふざけんなってフラれる覚悟も持って来た……!」
「期限を待たずに、愛想尽かして見限られる覚悟も用意してるッ……!」
これが、春日希であり俺だから。
「その上で、それでも、俺の馬鹿な計画に付き合ってくれるなら!」
叫ぶ。
「短くはない時間、もし俺にくれるなら!」
叫べ。
「その時が来て、もし、それでもって思ってくれるなら……‼︎」
これが、俺の、
「────三人とも、そのまま、一生一緒に、俺の傍にいてくださいッ‼︎」
一生に一度の〝恋〟の形だと、褒められなくとも胸を張るために。
顔を上げる。
つまりどういうことかと、俺の勢いに呑まれるままポカンと呆けている三人へ、改めて目を向ける。最早、上塗りできないほどの無様を晒し尽くして、
真実、無敵へと至った俺は、
「二年と五ヶ月。俺が三人とも──────人生賭けて口説き落とす」
告げる。
「そしたら、その時。もし俺の勝ちになっていたなら……」
紛れもなく、一世一代の、
「一人でも、二人でも、三人でも。────俺と、結婚してください」
大馬鹿野郎の、恋の詩を。
賛否なんか知らねぇ。
これが私の惚れた主人公だ。




