幕の終わり
────二泊を経て、三日目の朝。
アレやコレやとイベントに塗れていたようで思ったほどの大騒ぎとはならず、それなりに平和で穏やかな時間を過ごすことができた果て。
「さ。それじゃ皆、それぞれのお勤め頑張ってね」
「〝お勤め〟て」
場所は駅前、駐車場のロータリー。
一番最初に顔を合わせた地点へ日付を跨いで舞い戻り、俺たちは春日家備えのミニバン車内にて運転手こと母より最後の挨拶を受け取っていた。
「なによ、立派な〝お勤め〟でしょうが。まーだ常識知らずのままなのかしらね、この東陣営序列第四位【曲芸師】様は」
「マジやめて母にゲームの称号呼びされるとか息子は死ぞ」
とまあ、そんな具合に母上様は好調模様。俺も俺で諸々の荷下ろしが済んだりでトータル来る前よりも心の調子は幾分か軽くなった気がしないでもない。
……昨夜なにか死のイベントを垣間見た気もするが、それはもう忘れたので。
然して、
「────あの、お母様」
「うん?」
俺たち親子は、それでヨシとして。
「お料理、たくさん教えていただいて、ありがとうございましたっ……」
流石に、二泊三日で泣くまではいかない。
けれども各々、最終的には短期間と思えぬほど実家に馴染んでくれていた。それゆえにぞれぞれ、心の中で思うことは確かに在るのだろう。
「沢山お喋りできて、楽しかったです」
「はは。こちらこそよ、ソラちゃん」
間違いなく名残惜しさを感じさせる声音で以って、ソラさんが。
「ニアちゃんも」
「っ……!」
そして返す手。母から、ソラの隣に座っているニアへ。
「お父さんのこと構ってくれて、ありがとねぇ。あの人ほんともう死ぬんじゃってくらいメチャクチャ緊張してたから、趣味の話ができる子いて助かったと思うわ」
ソラは母と、ニアは父とで大分比率が寄っていたが、まあそこは一心同体の夫婦ゆえに大した違いはないだろう。そのため真実、我が事として屈託なく感謝を告げる母に、現実では藍色要素の無い藍色娘はパチクリ目を瞬かせ……。
「ん? ────あぁ、ふふっ……はいはい」
指先は文字を打つことなく、差し出すは掌。
顔を見れば、三人の中で群を抜いて素直な表情にて内心の読み取りは容易。
……つまり、一人だけ、おそらくは泣く一歩手前にまで陥ったであろう彼女に、母は心の底から愛らしいものを見るような視線を向けて握手に応じた。
そして、最後。
「「…………」」
なんだろうか。俺も知らない。
振り返るでもなく、おそらくルームミラー越し。視線を合わせていると思しき母とアーシェが、そのままジッと無言を交わすこと数秒。
「お世話に、なりました」
ペコリと一礼。付き合いの短い者にもギリわかるレベルの笑顔を努めた『お姫様』へ、母は……本当に、よくわからない。如何なる心持ちか察せられない色を宿した視線に目蓋を下ろし、一つ何事かを頷いて見せて。
「………………これからは、こちらこそ、よ」
車内にて三人。俺を含む置いてけぼり面々が首を傾げるのを他所に。
「────じゃあね、アーシェちゃん。安心して見守ってるわ」
最後の最後。
あーこれなんかあったんだなと、そっと天井を仰ぐ俺と。
思わず「ぇっ」と小さな声を零したソラさんと。
そしてシュバっと顔向け、隠さず慄きの表情を親友へと向けるニアちゃんと。
三様の反応を見せる、俺たちの傍ら。
「────……はい、お母様。お父様と一緒に、お元気で」
微笑むアーシェは、特別に親しき者へ再び、優雅に余裕の一礼を見せた。
短め、だけども
今日明日明後日、不定期つらつら連投モード入ります。




