一方その頃:東の円卓
「────ぃよう。待たせ……た、な…………?」
柔らかな青の転移光と、鈴音と風音のセッションが如きサウンドエフェクト。
遍くアルカディアプレイヤーが慣れ親しむシステムの恩寵を乗りこなし、これまた深く慣れ親しんだ特別な〝場〟へと赴いた偉丈夫こと【総大将】は、
「…………………………………………なにやってんだ?」
待ち人や居たり……は、ヨシとして。
転移の先に在った人の気配に、自らの後着を察して挙げた声と片手を揺らして数秒。迫力ある外見に似合わぬ愛嬌ある仕草で、首を傾げパチパチと目を瞬かせた。
然して、東陣営序列第二位の瞳に映る光景は……。
「んおーやっほーゴッサーンごきげんよーう!」
「おつかれさま」
ちっこいのが、並んで三人。
仮想世界のアバターで言えば身長二メートルを超えるゴルドウの視点に限った話ではなく、誰が見ようとも基本的には『小さき者』に該当するであろう三人組。
目もくれず適当な挨拶を投げて寄越した赤色少女と、今日も今日とて眠たげ無気力顔ではあるがキチンと向けてペコリと頭を下げた青色少女。
そんでもって、そいつらに挟まれている、
「こんばんは。時間ピッタリ、ですよ」
ゴルドウの「待たせたな」という言葉に微笑とフォローを併せて返した、小柄なれども平時は一切の『幼さ』や『あどけなさ』を感じさせない女性が一人。
他ならぬ、自分の〝上〟────現序列第一位【剣聖】うい。
……然らば。彼女自身が何食わぬ顔、平然とした様子で挨拶を返すのならば、
「いやまぁ………………お前さんがいいなら、別にいいんだろうけどよ……」
なにがどうしてそんな流れになったのやら、おそらく魔法具で弄ったのだろう。
世に名高き【剣聖】が。普段とは異なる長髪をチビッ子どもに好き勝手されている光景に、一々ツッコミを入れようとも思わない。
相変わらず仲が良くて大変結構だ。
ということで、出会い頭で困惑させられた些事は置い────
「いやーマジういちゃんロングも可愛いなぁ! ゴッサンもそう思わんかね‼︎」
「あぁ?」
────……置い、とけない。なぜかと言えば、そんなもの。
「まぁ、なんつーか……いいんじゃねぇか? 男どもは喜ぶだろうよ」
「ゴッサンも男じゃーん!」
「もう俺は男である以前にオッサンなんだよ。色気のある返事なんざ求めんな」
最早どうしようもないくらい情が移りまくってしまっている〝娘〟どもの戯れめいたじゃれつきを、言葉だろうが体当たりだろうが受け流すという択が無いから。
さすれば、視界の端。
「うふふ……ゴッサンにお洒落の話題は、ミスマッチが過ぎたかしらね」
口調だけは長年で染み付いたソレにてぶっきらぼう。けれども声音も表情も完全にオジジなゴルドウを傍らで眺め、可笑しそうに笑う〝姉役〟は東陣営にて一人。
つまるところ、雛世を交えて計四人。
「揃いも揃って、なーにしてんだ。女子会か?」
おおよそが揃っている東の華を見渡して大将が笑えば、待ち人……この中で唯一ゴルドウ自身が呼び出した灰色が、再び穏やかな微笑を交える。
「円卓に足を運びましたら、ミィナちゃんと囲炉裏君がいらっしゃいまして」
「んで、いろりんは用事でログアウトーからのリィナちゃん召喚!」
「代わり扱い腹立たしい」
「んでんでタイミングよく雛ちゃんもログインしてきたからさー」
「呼ばれて来ちゃった」
「……と、いうことです」
そうして、和やかに押し寄せるは息が合っているのかいないのか至極てんでバラバラな語り口のリレー。とりあえず言えるのは……。
「仲いいな、お前さんら……嬉しいことだけどよ」
恐ろしいまで、微笑ましいということだけ。
前々から元気の化身こと誰かさんのおかげで雰囲気良好な陣容ではあったが、ここ最近は輪に掛けて各々が仲睦まじい様子を見せるもので、
「ふふ……すみません。特に大事な用ではないとのことでしたので、二人きりでなくとも大丈夫かと勝手に判断してしまったのですが」
「あぁ、別に構わねぇ。ちょっとした連絡程度だ」
オッサンは一人、機嫌良く頬を緩めて見守るだけ。
口にした通り、大事な用でもない連絡程度は後に回して構わないだろう。
「あら。混ざらないの?」
「いや、お前、アレは流石にどう混ざれってんだよ……」
斯くして、口角を上げるまま賑いの端。
一位の席にて五位と六位に髪を好き放題にされながらニコニコほわほわしている【剣聖】を他所に、自らの七位席に座っていた雛世の隣へ腰を落とす。
そこもまた八位こと『小さき者』の席ではあるが、円卓の大椅子十席は全て等しく玉座の風格。ゴルドウの巨躯も悠然と受け止めた。
「もう既に女子会に混ざってるじゃない。いっそのこと裏返る?」
「勘弁しろよ。揶揄うなっつの」
平和な戯れを眺めながら、言葉を交わす大人組。
雛世も雛世でゴルドウにとっては今や〝娘〟みたいなものだが、落ち着きようや振る舞いもあって流石に双子(双子じゃない)辺りとは扱いが別。
それこそ、実の娘と似たり寄ったりの関係性。
……野郎どもに関しても同じく家族のように思ってはいるものの、ゲンコツを筆頭にどいつもこいつも〝息子〟っぽいとは思えない曲者もとい癖者ばかり。
ので、やはり、勝手な親心めいて、十席の中でも〝娘〟連中は特別に可愛い。
いつだかヘレナに惚気たら『気持ち悪いですね』とバッサリいかれて二日ばかり寝込んだので、もう決して誰にも口にすることなど在りはしないが。
「ゴッサン?」
「あんだよ」
「混じりたそうな顔してるわよ?」
「混ざんねぇよ通報されんだろ」
「うふふ……我慢しちゃって。お父さん」
「おいマジやめろ揶揄うなってんだよ……!!!」
密かに幸を笑んでは横顔を揶揄われるくらい、日々の多忙の報酬ということで。
────などと、後方親父面の残念なオジジが雛世に玩具にされている内。
「うむむ……やっぱストレートが強い…………! 弄り甲斐が来い……!!!」
「シニョン好き。意外性」
「いやまぁ勿論まるっと全部ちょー可愛いんだけどもさー!!!」
「ふふ……」
「それにしても照れない。どんな髪型にしても褒め倒しても不動の微笑。つよい」
「やーっぱダメかー! はーっ! ────そうだよね知ってたハイハイういちゃん本気で照れさすなら弟子お兄さんがいないとなーやっぱなー!!!!!」
「ふ……、……? ぁ、あの、え? 今のはどういう、どうしてそこでハル君が」
「お兄さんといえば、今日ライブのこと褒めてくれた」
「うわ出たよ流れるような〝兄〟惚気ムーブ。リィナちゃん最近そればっか!」
「ミィナちゃん? あの」
「ミィナのダンスも褒めてた」
「その流れであれば許す詳細な文言を開示しなさい!!!」
「『ヤバい』って」
「うんうん! ────ぇ、一言? 三文字!? いや称賛の意も汲み取れるけどヤバいって何もっとないの『ミィナちゃん超かわいかった』とかさぁっ!」
「っは」
「鼻で笑った!? ねぇ今リィナちゃん鼻で笑った人生初だよそんな扱いッ!?」
「ミィナちゃん……! あのっ……!」
「ぁ、んでそうそう。その天災スーパー人たらしギルティお兄さんといえばさー」
色鮮やかに賑やか和やかな三人の会話が進む先。
「なんか今、帰省中って話じゃん?」
不在の問題児こと新参家族の云々が、本格的に話題へ上がった。
お父さん回からの実質お父さん回でしたね。
それはそれとして、なんと『一方その頃』続きます。




