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──……
◇仲良し兄妹 Talk room◇
【Ri-na】:お兄さん
【Ri-na】:お兄さん
【Ri-na】:ね
【Haru】:なんだ、どうした
【Haru】:おはよう
【Haru】:お前また愉快な部屋名に変えやがったな
【Ri-na】:おはよう
【Ri-na】:褒めて?
【Haru】:脈絡よ
【Ri-na】:見てくれた、でしょ?
【Haru】:まあ、はい
【Haru】:見た
【Haru】:いや、拝見させていただきましたけれども
【Ri-na】:褒めて
【Ri-na】:頑張った、よ
【Haru】:おつかれさまでした
【Ri-na】:それは労い
【Ri-na】:褒 め て
【Haru】:凄かったです
【Haru】:アイドルのライブ、初めてリアルタイムで見たけども
【Haru】:なんか、凄かった
【Haru】:ネット越しの観戦でアレなら、現地だとヤバいだろうなって思ったよ
【Ri-na】:褒めて、る?
【Haru】:褒めてるだろ
【Haru】:また見たいって思ったよ
【Ri-na】:やった
【Ri-na】:まだ、あと何度か機会はあるから
【Ri-na】:会場に来たくなったら、言ってね
【Ri-na】:チケット一枚、必ず残しておくから
【Haru】:どうやって渡す気なんですかねぇ……
【Ri-na】:来年は、私も未奈も、これまでより暇が沢山できるから
【Ri-na】:夏の、お姫様旅行も行く、よ?
【Ri-na】:つまり、現実で顔を合わせるのも、早いか遅いかだけ
【Ri-na】:諦めて、ね
【Haru】:ところで最後の新曲、良かったですね
【Ri-na】:露骨すぎる話題転換、ネタじゃなくて素で必死なの好きだよ
【Haru】:良かったですね新曲‼︎ なんだっけあのハイファイなんとか!!!
【Ri-na】:『Hi-fi-Ri*gel』
【Ri-na】:大事な曲だから、ちゃんと覚えて、ね
【Haru】:お前らの曲、全部あれだよな。名前に『M』か『R』が入ってるよな
【Haru】:ああいうの統一感あって好きです
【Ri-na】:ミィナが、そういうの好きだから
【Ri-na】:注文を酌んだら、そうなった
【Haru】:いつだか調べてビビったんだけど
【Haru】:ミナリナの曲、基本例外なく作詞作曲リィナさんってマジ?
【Ri-na】:うん
【Haru】:ヤバすぎ
【Haru】:お前、凄い奴だったんだなって……
【Ri-na】:その凄い奴、お兄さんの妹、だよ。よかったね
【Haru】:最近はヤバいことも言い出すのが玉に瑕ですよね
【Ri-na】:自慢してくれていい
【Haru】:大炎上待ったなしなんですがそれは……
【Ri-na】:新曲
【Ri-na】:どんなところが好きだった?
【Haru】:うん?
【Haru】:あー
【Haru】:なんというか、爽やか? というより
【Haru】:こう、晴れ晴れ、みたいな。そんな感じの?
【Haru】:新鮮というか、お前メインの持ち歌にしちゃ珍しい曲調でさ
【Ri-na】:海境凪沙の曲、みたいな
【Haru】:え
【Haru】:これ、同意していいところ?
【Ri-na】:いいよ。意識したのは正解だから
【Ri-na】:真似たわけじゃないけど、ね。
【Ri-na】:あくまで、楽曲のテーマ性を参考にさせてもらった
【Ri-na】:もともと
【Ri-na】:凪ちゃんの曲、私も大好きだったのもある、し。リスペクト
【Haru】:凪ちゃん
【Ri-na】:ふふ
【Haru】:あー、えー、その、なんで急に参考?
【Haru】:あぁ、いや、別に急ってわけでもないのか
【Haru】:リィナは前々から考えてたってだけで
【Ri-na】:ライブ本番一週間前に、三日で作った
【Haru】:なに?
【Ri-na】:流石に準備が間に合わなくて、演奏は録音になっちゃったけど
【Ri-na】:歌は本気で歌った。から、気に入ってもらえて良かった
【Haru】:『Hi-fi-Ri*gel』
【Haru】:あのさぁ
【Haru】:いやなんでもないです
【Haru】:なんでもないです。知らないです
【Ri-na】:ふふ
【Haru】:頼むから、なにも言うなよ、マジ────────
『おいシスコン』
「うぉっ……」
ガタン、ゴトン。
そんな身体に伝わる些細な揺れではなく、目前に突き出された言葉に驚いた。
然して、忙しなく文字を打ち続けていた手元のスマホから目前のスマホ。その更に奥でジトー……っと手本のような半眼を描く緑色が、俺を現実へ連れ戻す。
車窓から覗くは、山の色。内陸育ちの俺にとっては見慣れた景色、何処がどことも判断せずボンヤリと眺めて時を過ごすことこそ正解と言える風情。
……流石に覚えてなどいないが、半年前。
大学進学を機に一人暮らしへと挑み掛かる俺が、新天地へと運ばれていった道。
そんな道程を────
『 い つ ま で 自称妹とイチャついてんのかと。仲良しかと』
「いや、まあ」
『「まあ」って! そりゃ否定はしなくてもいいけども!!!』
「どうすりゃいいんよ……」
────只今、逆走中。
十一月二十三日。即ち今も唐突に黙った『兄』に対してポコポコと構え催促のメッセ連打をしている『妹』含む、ミナリナ誕生日ライブ翌日のこと。
つまるところ、過去から数えて、おおよそ二週間後。
『ほんっとにもうキミはさぁー? こーんだけ現在進行形で美女美少女に囲まれてんのにさぁー? 遠隔でも美少女と仲良しとかさぁー?』
「その方面の弄りはマジ勘弁してくださいますか。真面目に抉られるんで……」
『んならもっと構えー! 駅弁あげときゃ大人しくなると思うなよー!!!』
「実際三十分くらいメチャクチャ大人しくなってたじゃん」
『美味しかったです!!!』
「そりゃよござんした……」
なんて、対面の座席で甚く元気なニアちゃん。
もとい、妖精のような異国の美貌をサングラス&バケットハットで覆い隠している(逆に目立っているまである)リリアニア・ヴルーベリ嬢を始めとして、
「「────…………………………」」
俺の隣と、ニアの隣。
四名掛けボックス席の残り半分、窓側の席に陣取って静かに……というか、隣で騒いでいるのが申し訳ないレベルの静寂を纏っている二人。
旅行あるあるの玩具ミニ将棋盤を挟み、竜王戦かなと思わず慄いてしまうほどの激戦を繰り広げているソラこと四谷そら嬢&アーシェことアリシア・ホワイト嬢。
傍から見てサッパリ内容が理解できない高度な差し合いをしていらっしゃるが……おそらくコレだろう、ニアが俺に絡み出した理由は。
ちょっと前までは三人お喋りしながら和やかに遊んでいたはずなのだが、俺が自称妹を構っている間に負けず嫌い二人がヒートアップしてしまったらしい────
とまあ、そういうわけで……満を持しての、帰省道中。
メッセージの着信を告げる震動。手元で揺れたスマホに再び視線を落とせば、通知に在るのはダル絡み妹のソレではなく。
────母上:到着時間、予定通りで大丈夫ね?
半年ぶり。もうすぐ顔を合わせることになる家族からのソレで。
「……?」
「「………………」」
娯楽から置いてけぼりを喰らって暇そうにしているニアと目が合って、次いで勝負に夢中になっているソラとアーシェの横顔を眺めながら。
「………………はぁあ……」
『え、凄く失礼。目が合って溜息は物凄く失礼ですペナルティを要求します』
「ペナとは」
『ひざまく』
「対面席じゃ無理ゲーっす。アーシェに頼んでくれ」
楽しみ半分、懐かしさ半分。そして、全てを容易く包んで呑み込む不安。
それらを一つも落とさないよう、大切に抱えたままの俺を。
────予定通り。あと二時間くらいで着くと思います
ガタン、ゴトン。
……もう一人の【Haru】に比べたならば、至極のんびりとしたペースで。
列車は止まらず、淡々と運んでいく。
ちなみに、
「──────っ…………王手、です……‼︎」
「……────、………………参り、ました」
天使と姫君の白熱激闘。制したのは、前者であったとか。
行こうか。