尽きせぬ伸びしろ
【蒼空の天衣】────宝石細工師としては比喩ではなく全プレイヤーの頂点位置、裁縫師としても堂々の最高峰といって差し支えないであろう【藍玉の妖精】が手掛けたその衣装は、宝石を繊維として織り込んだ特別な衣装。
誰にも真似できない技術……というわけでもないらしいが、極めて高いレベルで宝飾製作と衣装製作の技術を両立していなければ成し得ない高難度の稀少製法。
衣装特化の西陣営序列持ち常連、かの【彩色絢美】をして「あー無理無理もう絶対無理ですってか嫌です激烈繊細作業すぎてゼッッッッッタイやりたくないですねぇー」と言わしめる事実上の絶技によって造られた、紛うことなき特級品だ。
俺の転身体が着る【白桜華織】と些細な基礎スペック差はあれど、秘める力は同様のモノ。核となる宝飾を付け替えることによって様々な特殊能力を籠められる万能性もあって、基本は『これでいい』と言える一品には間違いないだろう。
────なので、そちら。本体の方は手直し程度で済ませるとして、今回は過去ソレに合わせて作成された手足の装備更新が本題である。
「ん゛んー……────オッケー、噛み合いはバッチリだね!」
然して、実装。ワーワーとテンション高いニアに促されるまま、これまで世話になった【流星蛇】シリーズへ律儀かわいい礼を一つ……。
「ほぁ……な、なんだか、あの。着てる感覚が全然なくて、落ち着きませんね?」
新たな装備を身に着けたソラがアトリエに立つ。
ノースリーブシャツからフレアスカートへ、純白から空色への見事なグラデーションで彩り続く衣装本体。羽を思わせる装飾が施され、薄っすらと透き通る裾から覗く脚のラインなど、いつ見ても少女を引き立てる見事な装衣……その末端。
夜空に星を散らしたような紺碧に白粒の生地。【流星蛇】の防具に代わって手足へ納まったのは、眩くも目を焼くことはない不思議な〝白〟の輝き。
【αtiomart -Ele=Memento-】────名高き【藍玉の妖精】および【遊火人】の共同制作にて生まれた、魔力喚起具現化武装。
「不安感ある?」
「ぁ、いえっ、そこまでは」
着ている感覚がないとの言葉通り、おそらくメチャクチャに軽い&俺の手套深靴同様の特殊加工がされているのだろう。慣れない感覚にソワついているソラさんの手足を新たに護るは、着慣れた過去作と同形状。
中指に掛けるタイプのフィンガーレスオペラグローブに、編み上げのロングブーツ。白を基調に黒、そして赤青緑と共に複数色の差し色が入っているが、それぞれが喧嘩せず完璧な調和を描く絶妙な彩色センスは見事の一言。
そっち方面カグラさんも相当に信頼感があるものの、この辺に関してはニアのプロデュースが大きいだろう。好ましい意味合いでの『癖』が読み取れる。
多分だが、ソラの首元にて煌めく【小紅兎の首飾り】および胸部ベルトの〝紅〟を基点として色の調和を取っているのだ。流石に天性のセンスまで倣おうなんておこがましいことは考えないが、魔工師見習いとしては勉強とするべき────
「ぁ、男子が見惚れてる」
「へっ!?」
「えぇそうです見惚れてましたがなにか?」
「へうぇっ……!」
と、ニアに弄られ現実回帰。ぼけっーと相棒の衣替え姿を観察するまま適当に事実を口で返せば、流れ弾ってか故意の跳弾が至近の天使に着弾した。
許せソラさん。適当には言ったけど事実だから。
「着心地ゼロ、俺も前に戸惑ったけど案外すぐ慣れるよ。んで、慣れたらもう至極快適なだけになるから心配はいらないんじゃないかな」
「そ、そう、ですか……」
「あ、でも一応そのレベルなら流せるんだ。ソラちゃんつよい」
ということで、着心地云々は追々ってかすぐにでも慣れるだろう。仮想世界において、ソラの適応力は普通に俺以上だからなと。
外見に関しても文句ナシだ。
デザインはプレゼント by ニアちゃんってなわけで当然のこと。それに加え……【光懍の大精霊 アポロ】からふんだくってきた品をメインに各種魔人の稀少素材までも注ぎ込んで編まれたセット装備は、目で見て察せられる情報圧を放っている。
完膚なきまでのハイエンドフルセット、ここに完成と言えよう。
────そんでもって、
「んじゃ、基本能力! いってみよっか!」
「は、はいっ。えと……」
秘める〝力〟も、在って然り。
「────《光属性付与》っ!」
そうして、ソラが己の手足へ魔を籠めた瞬間。
「ぅおーっ……」
「はいオッケー! ぁーちょっと緊張したぁ良かったぁ上手くいったぁ……」
少女の両手に両足に、光り輝く〝手甲〟および〝脚甲〟が現出する。
「ど? ソラちゃん。動かしてみて、違和感ない?」
「ない、です。これも、身に着けてる感覚は全然ないですね……」
ソラが手足を軽く動かすたび、完璧に同期して追随する光の鎧。描くラインは極めて繊細かつスマートであり、ドレス姿にも不思議と噛み合っている。
……なんか見覚えがあるのは、当然のこと。
参考および目標にしたのは、俺の語手武装の『仮説』時代であるがゆえに。
「ぃよっし、それじゃ次! 切り替えも試して見せて!」
「は、はいっ……!」
ノリノリな制作者(片割れ)に押されっ放し、気のせいでなければ若干引き気味のソラさんだが……まあ、気持ちはわかる。
なぜって、事前に聞いたカタログスペックを信じるのであれば────
コイツ……【αtiomart -Ele=Memento-】は、紛れもない〝傑作〟なのだから。
「────《炎剣の円環》」
〝炎剣〟召喚。からの、
「〝属性装填〟っ……!」
掌握、装填。
重ねて、俺の語手武装前段階【仮説:王道を謡う楔鎧】を参考目標にした、その『神造に迫る人造芸術』が秘める権能は────剣ならぬ属性の支配。
「《氷剣の円環》……〝属性装填〟っ」
光から炎へ、そして炎から氷へ。
「………………っはぁ、おっけおっけ。完璧だね流石あたしとカグラさん……!」
輝き、燃え盛り、凍てついて、代わる代わるに纏う力を切り替えていく共同作を見て……察してはいたが、テンション高めは緊張の裏返しだったのだろう。
ようやく落ち着いた様子で、ストンと椅子に腰を下ろしたニアを他所に。
「ソラさん」
「ふぁ、はい、なんですかっ……?」
「なんか、益々アレですね」
「ぇ、あ、アレとは……」
言うまでもなく鬼のような性能を誇るのだろう能力詳細は置いといて、とりあえずファンタジー極まる外見光景に感動している相棒に言うことは一つ。
「魔王っぽく、なってきましたね」
「………………それは、ちょっと、嬉しくないです」
俺のパートナーは相も変わらず、無法街道を直走っているということで。
戦闘デビューは確定次節。今そんなんしてる場合じゃないんだよ。