然して日々は朗々と
──────……
────……
──……
「────とまあ、そんなこんな、でして」
『わかった。そのつもりで準備しておくわ』
「準備とは」
『〝お嬢様〟方に対して最低限失礼にならない程度の歓迎パーティ計画とか……あとはまあ、お父さんが当日に気絶しないようメンタル補強計画とか?』
「……後者は、頑張ってくだせぇ。前者に関しては、あんま気遣わなくていいよ」
『そーんなわけにもいかないでしょうがね。アンタ誰を連れて来ると思ってんのよ? そこらの芸能人が霞むレベルの顔ぶれだってこと、わかってんの?』
「いえ、あの、はい。重々承知しておりますというか、自惚れたことを言うようですが他人に増して各人の人柄を重々承知しているがゆえの発言といいますか」
『……ここまで腹立たしい息子の惚気も中々ないわねぇ』
「えぇ……いや、その…………」
『ほんと、まぁ………………私も私で結局のところ、いまだに現実感が薄い……どころか、ほとんど無いから平気なフリしてられんでしょうね。全く……』
「………………」
『元からモテる子ではあったけども、流石に現状は、まさかまさかよねぇ……』
「……ぁ? ぇ。まさかまさかの現状は甚だ誠に平身低頭ごめんなさいだけども、元モテ云々は知らんぞ。いつの、なんの話をしていらっしゃる?」
『このクソボケ馬鹿息子が』
「我が子に言葉つよくない???」
『まあ今更いいわ、そんなこと』
「待って母上なんもよくねぇ。俺それただ暴言ぶつけられただけで終わ────」
『ともあれ、二週間後辺りの可能性高し、ね』
「………………はい。まあ、はい、そうです」
『了解。二人とも予定は空けられるようにしておく』
「んぃ、よろしく……。大丈夫?」
『家族の一大事が優先に決まってんでしょ。二、三日程度どうとでもするわよ』
「……そっすか。じゃあ、よろしくお願いします」
『ただまあ、詳しい日程予定。できれば早めに頼むわね』
「了解す。んじゃ────」
『希』
「ぁはい」
『…………や、いいわ。帰ってきてからで』
「なんす────」
『じゃあね』
「ぇ待っ…………………………ブツ切りかよ母上殿、つよ……」
──────……
────……
──……
◇◆◇◆◇
────とまあ仕切り直して、そんなこんなで翌日のこと。
覚悟と確認を以って切り出したとあらば、後は野となれ山となれ……なんて無責任を宣うつもりはないが、しかし結局なるようにしかならないってなわけで。
随分と前から、腹自体は決めているのだ。
ゆえにグループメッセで三人娘から直近予定表を頂戴しつつ取り急ぎの軽い相談をしたり、それでひとまず適当に当たりを付けた時期について我がオカンへ情報共有をしたり。すべきことは冷静に、淡々と、着実に。
動き出した話は止まることなく、この分ならアレやコレやと時間は飛ぶように過ぎて、二週間程度など文字通り一瞬に感じてしまうのだろうと……。
まあ、流石にそこまでは思っていなかった。
いなかったのだが……────オーケー、そしたら順番に行こうか。
まず、続けて翌日のことから。
「────よく来たわね後輩。じゃ、あとはよろしく」
「……いや待とうか先輩殿。事情説明。まず何故に唐突かつ有無を言わさず呼び出されたのかって部分から事情を聞く権利が俺にはあると思われ」
「やっほーハル、久しぶり……でもない? ま、いいや。じゃあ遊ぼうか」
「ユニも『じゃあ』じゃねぇんだわ。はいそこ動くな猫、立ち去ろうとすんな。大体は読めたし別に構わねぇけども最低限の引き継ぎ義務とか全うしろ」
「誰が猫かアンタ最近ちょっとウチに対して調子乗ってんじゃないの?」
「そっくりそのまま返しますが???」
「あっはは、ハルナツは仲睦まじくてイイね!」
「それはまあ……」
「『それはまあ……』じゃないわよッ! ユニも『ハルナツ』やめなさいソレはマジやめろって言ってんでしょ引っ叩くわよ!!!」
「オッケー、そしたら一対一対一でっ!」
「待ちなさいよウチもう二時間も相手したじゃん! 『ちょっとだけ付き合ってよ』って話だったじゃん! あとは後輩が代わるからウチは休けっ────」
「よっしゃ上等だ遊ってやんよオラァ!!!」
「アンタも適当に秒でノッてんじゃないわよ‼︎ やるならアンタたち二人で、ちょ、ゃっ……────ん゛ぁあ゛ああぁぁあぁあぁッ馬鹿男子ども!!!」
……なんて、南陣営戦時拠点は訓練室での一幕だとか。
更に続けては、翌々日。
「────うわなんだチビッ子やめろコラまとわりついてくんな虫かテメェ‼︎」
「虫とは‼︎ 言うに事欠いて可愛い可愛いミィナちゃんを虫呼ばわりとか!!! っはぁーマジこいつ調子乗ってますよ! やっちゃってくださいよ!!!!!」
「「………………」」
「やっちゃってくださいよ!!! ねぇ!!!!!」
「……ん?」
「なんだ、どうも俺たちに言っていたらしいぞ」
「…………やっちゃう?」
「どちらかといえば、懲らしめられるべきは乗っかっている方だと思うが」
「同意」
「そう思ってんなら助けてくれませんかねぇッ!?」
「……あれ、いいの?」
「うん? どういう意味の『いいの』だ?」
「ぁダメだ見てねぇクッソこの傍観者どもッ……!!!」
「物凄く、近い。ほぼ密着状態」
「あぁ……いや、別に。悪ふざけ程度の戯れは好きにしろとしか」
「嫉妬、しないタイプ?」
「そういうわけではないと思うが……まあ、相手による、かな」
「お兄さんは、許せる相手?」
「許せる相手というか、意識するのが馬鹿らしい相手というか……逆に質問を返すが、そういう君は嫉妬しないのか? アレを見て」
「全然」
「なんだ、お互い様じゃ────」
「するけど」
「ない、……ぇ? うん? ぁ、全然する?」
「今ちょっと、半分キレそう」
「え? あ……、え?」
「誰に断って私の兄にベタベタしてるんだろうって」
「………………そ、そうか」
「うん」
「………………」
「…………………………やっちゃう?」
「少し、心を鎮めてからに、しておこうか。……初めて見たぞ、そんな顔」
「ん……どんな顔?」
「…………あまり、敵に回したいとは思わない顔、かな」
「そうなんだ」
「──── ち ょ っ と ! ! ! お ふ た か た ぁ ! ! ? 」
「逃がっさぁーん‼︎ お揃いコーデを軽率に乱した罪を清算させてやるぅッ‼︎」
……なんて、東陣営戦時拠点は円卓での一幕だとか。
────そして続きましては、翌々々日。
つまりは、件の実家帰省招待から数えて三日後のこと。
「っはーい! ってことでね! ちょっとね! 動揺諸々アレコレ転じてノリになるってな感じでテンション高めに製作開始したらぁ……できたよ傑作っ!!!」
「わ、わぁー」
「………………ぉぉー……」
次なる舞台は【藍玉の妖精】の個人工房。一幕の主役は〝品〟を引っ提げ俺たちを呼び出したニアちゃんと、これより着せ替え人形となる未来が待つソラさんと。
然らば、当然の如く同行を義務付けられた俺が傍らで半分ダウンしている理由は……然り、まあ他でもない、そういうこと。
「んで、それはそれとして……なーに疲れた顔してんの? この人」
「あ、はは……。その……人気者? と、いいますか、だったみたいで……」
日々一幕に限らず、ひっきりなしに襲い来るは日常イベントの大嵐。
出来事が……出来事が多い…………────ってな具合で、
二週間後へ辿り着くのは、実時間でも体感時間でも、もう暫く掛かりそうだ。
仕方ないね。繋いだ縁が多過ぎるんだもの。